1949年設立の農薬メーカー・クミアイ化学工業が、新たな中期経営計画をスタートさせた。世界の農薬市場にインパクトを与えた畑作用除草剤「アクシーブ」の快進撃もあり、最高益を更新しつづけてきた同社だが、アクシーブの後継商品やSDGs時代の農業のあり方など、取り組むべき課題は少なくない。新たなステージへの準備を進める同社代表取締役社長の高木誠氏に、新中計の狙いと目指す企業像をうかがった。
代表取締役社長
将来の市場ニーズを見据えた商品開発力
――貴社の事業内容と収益構造を改めて教えてください。
高木 当社グループの事業セグメントには「農薬及び農業関連」「化成品」「その他」がありますが、その主軸は売上高の約8割を占める「農薬及び農業関連」です。近年では、当社開発の畑作用除草剤アクシーブの需要が爆発的に高まり、海外市場での販売が当社の成長エンジンとなっています。
当社の農薬の輸出は、最終製品ではなく原体(有効成分)をパートナー企業に販売し、現地の栽培条件に合わせて製剤化してもらっています。パートナー企業は自社の有効成分との混合剤も製造して販売するため、両社はWin-Winの関係を構築しています。現地で商品が売れ続ける限り、安定的に収益を得ることが可能です。
一方で、当社の前身である柑橘同業組合*¹が“農民のための農薬製造”を理念としていた経緯から、国内農家への貢献も当社の大切な使命です。国内では、全農(全国農業協同組合連合会)を介して商品を供給する系統メーカーという立場に加えて、各地に販売員と技術普及員を駐在させて、農家さんに寄り添いながら商品を案内する仕組みを整えています。
――貴社の成長を牽引する「アクシーブ」とはどんな商品でしょうか? 貴社の研究開発力についてもお聞かせください。
高木 アクシーブ(成分名:ピロキサスルホン)は、2011年の市場投入以降、既存の除草剤が効かない雑草にも効果のある画期的な商品として、歓迎されてきました。現在では22カ国で使用され、売上高は731億円(2023年度)に達しています。
農薬には厳格な安全基準があり、その開発過程では、10年以上をかけてさまざまな試験が課されます。通常、そのハードルをクリアして上市に至る確率は16万分の1とされますが、当社では7千5百分の1という高確率で商品化を実現しています。この優れた開発力が当社の強みであり、誇りでもあります。
規模では海外の巨大農薬メーカー*²には及びませんが、当社では各研究センターが連携しながら開発にあたっていることに加えて、研究員それぞれが独自の研究に臨める環境を整えており、これが将来の市場ニーズを見据えた柔軟な商品開発を可能にしています。
※2023年は速報値(preliminary view)/2027年は予想値(forecast)
(AgbioInvestor<世界市場>、農薬工業会<国内>資料よりクミアイ化学工業作成)
「上出来」を経て挑む新中計の狙いとは?
――前中期経営計画(2021~2023年度)は、最終年度の数値目標を前倒しで達成し、最高益を更新するなど、非常に好調でした。
高木 ひと言でいえば「上出来」でした。ひとえにアクシーブの拡販が想定を超える勢いで伸びたことによりますが、依存度が高まりすぎることへのリスクヘッジとして、アクシーブの販売先や適用作物の多様化を図ったことも功を奏しました。
将来への種まきとして推進したM&Aも成果をあげました。Asiatic Agricultural Industries社(シンガポール)の獲得を通して、新たにアフリカや西アジアでの販売ルートを確保できましたし、質の高いスマート農業の技術を有するアグリ・コア社、GRA社を当社グループに迎えたことで、事業領域・研究領域が広がると期待しています。
――新たに公表された中期経営計画(2024~2026年度)の狙いをお聞かせください。
高木 新中計では、事業領域拡大の種まきを継続するとともに、前中計でまいた種を発芽させ、より具体的な形に育成し、今後の成長のための基盤強化・拡大を進めます。ただ、世界的な農薬の在庫調整に加え、ジェネリック対応の実施や持分法投資利益の大幅な減少が見込まれている状況などを踏まえ、初年度の業績は前年度を下回ると予想しています。2024年度は再び成長軌道を描くための調整期となりますが、2026年度にはさらなる飛躍を目指していきます。
事業戦略としては、まずアクシーブのさらなる拡販と、当社の次世代を担う商品の育成を進めます。アクシーブは2022年に物質特許(新規化合物の特許)の有効期間が満了し、ジェネリック農薬(後発農薬)が登場していますが、今後も当社の稼ぎ頭であることに変わりはなく、ジェネリック対策を加速します。
化成品事業については、現在、サプライチェーンの川上に位置している同事業を高付加価値化で川下へ、また既存製品の用途開発などにより裾野の広い領域に進出させ、当社の第二の柱に育てていきたいと考えています。
大ヒット除草剤・アクシーブの利益を最大化する取り組み
――「アクシーブ」のジェネリック対策について、もう少し詳しくお聞かせください。
高木 物質特許が満了したとはいえ、アメリカやブラジルなど、農薬登録に使用されるデータを保護する仕組み(データ保護制度)によってジェネリックメーカーが参入しにくい国もあるので、アクシーブの収益拡大の余地はまだあると考えています。そのうえで、新たな混合剤開発による機能性の向上やコスト削減を図って、選ばれ続ける商品にすること、さらに製造方法の工夫などで取得した製造法や中間体に関する特許を駆使して、ジェネリック農薬が参入しにくい環境づくりに注力していきます。
また、国内で評価の高い水稲用除草剤エフィーダ、殺菌剤ディザルタを、海外展開が可能な商品に育てる取り組みも始めていまして、どちらもすでに韓国での販売が始まっているうえに、その他の国での販売に向けて準備を進めています。新たなパイプライン化合物の開発も進んでおり、私自身、成果を楽しみにしているところです。
――農林水産省の「みどりの食料システム戦略」*³が2050年までに化学農薬の使用量を半減することを目標としています。農薬の環境への影響を懸念する声に対してはどうお考えですか?
高木 そこでいわれているのは“リスク換算”での使用量です。つまり、安全な農薬の使用を促すものですから、少量で効果が高い低リスクの商品を提供してきた当社にとっては、むしろビジネスチャンスだと捉えています。
一方で、農薬がネガティブな印象を持たれがちなことは、私たちも認識しています。その背景には、メーカーとしての情報の発信不足もあると考えており、2023年度から統合報告書の発行を始めたほか、マンガ仕立ての小冊子を小学校に配布して、農業の大切さと農薬の必要性を伝える試みを始めています。また、雑草を枯らすのではなく、生育を抑制するのも農薬の効果のひとつです。草地の管理に農薬を用いて景観維持や環境対策に役立ててもらうなど、農薬の用途を広げる試みも進めていきます。
「誇れる仕事、誇れる会社」を目指して
――新中計に盛り込まれた株主還元の拡充についてお聞かせください。
高木 このたび公表した新中計では、取り組みのひとつに資本政策の充実をあげました。ここでは研究開発投資や設備投資、人財投資などへの効率的な収益の配分とともに、株主還元も重要施策に位置付け、新たに配当性向の目安(30%以上)を導入しています。2024年度は、持分法投資利益の大幅減を主要因として減益となる見通しであるため、30%の配当性向基準に照らし合わせた結果、減配予想としておりますが、その後は継続的な成長を見込んでおり、さらなる収益性の向上を図ることで、株主の皆さまへの還元も大きくしていきたいと考えています。
高木 当社では、“将来のありたい企業像”に「誇れる仕事、誇れる会社」を掲げています。森林伐採などで農地を不用意に広げることなく、増加する世界人口を賄える収穫量を確保するには農薬は不可欠ですから、当社の事業は社会貢献そのものといえます。この誇れる仕事に投資をしていただいた皆さまに、その価値を十分に感じていただけるよう努めていきます。継続的なご支援をどうぞよろしくお願いいたします。
●会社概要(2023年10月末日現在)
概要 | |
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クミアイ化学工業株式会社 KUMIAI CHEMICAL INDUSTRY CO., LTD. |
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化学 |
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1949(昭和24)年6月 |
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10月 |
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東証プライム |
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代表取締役社長 高木 誠 |
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4,534百万円 |
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133,184千株 |
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2,124人(連結) |
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