倉庫 ・ 物流業界は100年に一度ともいわれる変化の時代を迎えています。 その最先端を走るのが三井倉庫グループ。 2022年10月に行われたストックウェザー 「兜町カタリスト」 編集長の櫻井英明氏との対談では、 古賀博文社長に 「中期経営計画2022」 への意気込みを語っていただきました。 今回の対談は、 中計の進捗状況や同グループの競争優位を支える強みに関して、 より深く掘り下げた内容となっています。
右:櫻井英明氏 ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長
2023年3月期は3期連続の過去最高益を達成
櫻井 中期経営計画2022がスタートしてから1年半が経ちました。 初年度の2023年3月期は、 連結営業利益が3期連続で過去最高益を更新されましたが、 これは良すぎるぐらいの滑り出しだったのではないでしょうか。
古賀 おかげさまで前期の営業利益は260億円と、 中計最終年度の2027年3月期の数値目標である230億円を超える形で着地しました。 ただ、 そのうちの46億円は特殊要因です。
櫻井 特殊要因というのは、 具体的にどういったことが利益を押し上げたのでしょうか。
古賀 コロナ禍で貨物船運賃が5倍近くに高騰したり、 船から航空機による輸送に移ったりした特殊要因の利益です。 それを差し引いたのが実力値だとすると2023年3月期の実力値は214億円です。これをどう評価するかですが、 本中計は5年間で物流の営業利益を100億円増やそうという計画です。 単純計算では1年で20億円ずつ増やせばいいのですが、 前期までに45億円、 今期までの2年累計では60億円程度増えそうなので、 非常に順調な滑り出しだと考えています。
櫻井 特殊要因を抜きにしても、 実力値のところが順調に伸びてきているわけですね。 2024年3月期は特殊要因も収束するため、 減収減益となる見通しです。 ただ、 8月に業績予想を上方修正されていますね。 これは、 上期は順調に進捗したということでしょうか。
古賀 上期は順調でした。 ただ、 下期は物流業界全体が少し停滞しています。 というのも、 コロナ禍で各メーカーが在庫を増やしたのですが、 正常に戻った現在、 それを消化しようとする在庫調整局面に入っていて、 その収束が遅れ気味だからです。
櫻井 それも特殊要因の処理の一環ですね。 とすると、 現在の好業績は、 古賀社長がこれまで取り組んでこられたオペレーションの効率化が寄与しているということでしょうか。
古賀 オペレーションの標準化による効率化の進展によって、 “稼ぐ力” がついてきています。 今まで10人でしていた仕事を8人で…ということが、 作業会社も含めてできるようになってきました。 その結果、 売上高は特殊要因の収束で減りますが、 利益は売上高ほどには減っていません。 この先、 売上高が増えればもっと利益が上がっていくと期待できます。
営業利益率が3倍になった
櫻井 “三井倉庫グループ強靭化計画” が進んできているということですね。
古賀 非常に進んできていると思います。 標準化、 効率化に加えて、サービスの高付加価値化とそれに見合う適正料金の収受にも取り組んでいます。 そうした結果、 例えば売上高営業利益率は私の社長就任時には3%でしたが、 現在は3倍の9%になっています。
櫻井 注力分野であるBtoBtoCのハイテクニックな物流に関しては、 店舗とEC販売のチャネル連携に対応した最新鋭のテクノロジーを導入した物流センターの開設をはじめ、 新しい手を次々と打たれていますね。
古賀 おそらく、 物流業界のなかでは1、 2を争うくらいの進み方だと思っています。 ただ、 最新の物流用ロボットなども単に導入すればいいというものではありません。 例えば、 大手家電量販店さまと作った日本最大級の物流センターには最新鋭のロボットが入っています。 しかし、 ただ買って入れるだけでは、 想定したKPIを達成することはできません。 そこでわれわれは、 入れる前に1年半かけて徹底的に検討し、 メリットとデメリットを洗い出しました。 そのノウハウの蓄積のおかげで、 今はたいへんうまくいっています。
櫻井 そのオペレーション能力は貴社特有のもので、 大きな強みになりますね。
古賀 はい、 一歩進んでいると思います。 しかも応用がききます。 当社グループは世界を代表する複数のハイブランドの国内での物流オペレーションを一括して引き受けていますが、 このような仕事がどんどん増えています。 他社より単価が高くても、 温度管理やトレーサビリティを含め、 クオリティがしっかりとした、 高付加価値の物流が求められる時代になってきています。 従来のような物流だけでしたら価格勝負にしかなりませんでした。
物流事業の全業態で明らかになった持続的成長
櫻井 2023年に入ってから、 貴社は決算説明会資料などで、 物流事業の内訳として業態別開示をされています。 これは先端的なチャレンジだと感じています。 統合報告書もますます充実して、 より一層わかりやすくなりました。
古賀 当社の中身をよく知っていただきたいとの思いから、 業態別の収支を明確にしました。 一部では、 「特需で伸びているが、通常になれば業績が落ちる」 と見られていました。 しかし、 実は過去に遡って見ると、 すべての業態で着実に利益が上昇しています。 そのことを投資家の皆さまにご理解いただき、 評価していただけたことは良かったと考えています。
櫻井 業績の順調な推移もあって、 株価も堅調に推移しています。
古賀 社名に 「倉庫」 とあることから、 当社は安定企業だと認知されがちですが、 私は当社を 「安定収益を基盤とした成長企業」 だと考えており、 PBRは本来2倍、 3倍であるべきだと思っています。 基盤となる安定収益についていいますと、 物流会社は不動産の含み益があるほうが強いと思われがちですが、 そうではないと考えています。
櫻井 とおっしゃいますと?
古賀 当社は賃貸ビルを複数カ所に所有していますが、 これはもともと港湾地区の物流施設に適していた土地が、 時代の変遷を経て周辺の市街地化が進み物流施設には適さなくなった結果、 ウォーターフロントの賃貸オフィスビルにしたものです。 売れば高く売れますが、 そうはせずに賃貸収入を得ています。なぜかといえば、 当社は全国の数百カ所に物流施設があり、 古くなれば当然建て直します。 そうすると投資負担が増えるので、 その物流施設は一時的に収益性が低下します。 その分を賃貸ビルからの安定収入でカバーしています。 つまり、 ビルも含めてトータルで物流業なのです。
櫻井 安定的基盤の上に、 先進的な取り組みをスピード感をもって展開させている。 そのことを開示して対話する姿勢を、 マーケットも認めてきたということですね。
ソニー、 トヨタとの合弁事業
櫻井 ソニーグループとの合弁事業についてはいかがですか。
古賀 福岡と熊本と長崎と鹿児島にアクセスが容易な、 福岡県の甘木インターチェンジ近くに物流センターを開設しました。 九州にはソニーグループさまをはじめ、 多くのメーカーさまの半導体製造工場が集積しており、 当社もそれらのメーカーさまの物流業務を受託しています。 当初は、 半導体は小さいものなので物流センターをフル稼働させるのは大変だと思っていたのですが、 半導体業界では原材料の調達需要が旺盛で、 非常に大きなロットで部品 ・ 部材が入庫し、 初日から物流センターがフル稼働しています。
それから、 マレーシアにも世界各国の電機メーカーさまの工場が集まっています。 当社グループはその物流を担ってマレーシアで造られた家電製品や、 精密機器を世界中に送っています。 そのマレーシアには自動車工場もあり、 ここではマレーシア国内向けの自動車が造られています。 つまり、 船でマレーシアに行く便では自動車の部品を運び、 マレーシアからの帰りには家電製品を運んでいるわけです。
櫻井 それはまさにこれからの共同配送ですね。
古賀 すでに国内で試験的に家電量販店さまとメーカーさまの貨物を共同で輸送しており、 ホームセンターや紳士服店でも取り組みが始まろうとしています。 どこも店舗はロードサイドにありますから、 いくつもの企業をまとめて共同配送すればトラックが1台で済むし、 CO2も削減できます。 それができるのが当社グループの強みです。 物流の2024年問題も絡んで、 各メーカーや量販店はそうしたことを今すごく望んでいます。
櫻井 これは将来的にさらに拡大する分野と期待できそうですね。 トヨタグループとの合弁事業についてはいかがですか。
古賀 完成車は専用の船で運ばれますが、 当社グループのトヨタ自動車さまとの合弁事業のメインは全世界から自動車部品を航空機で運ぶことです。 これはスピードが求められるし、 なかには試作車の部品など高い機密性が求められるような貨物も含まれます。 当社グループのノウハウが活かせる高付加価値の物流であり、 お客さまから非常に高く評価いただいています。 まさしく当社グループの優位性を活かせている分野です。
複数の受賞が示すサステナビリティへの注力
櫻井 前回の対談記事に対する読者からのアンケートを見ますと、 サステナビリティ関連のコメントが意外と多いんですね。個人投資家の方々も、銘柄選別をする際に、こうした点については厳しい視線を向けているようです。 貴社グループはサステナビリティに関して、どのような取り組みを行っていらっしゃいますか。
古賀 CO2削減は世界の課題ですが、 メーカー側では 「CO2削減の約15%は物流で」 という考えです。 しかし、 その計算が容易ではありません。 そこで当社が提供する 「SustainaLink (サステナリンク)」 というサービスの一環で、お客さまの物流のCO2排出量を第三者認証を受けた計算手法で算定するツールを開発し、 メーカーや商社 ・ 小売業のお客様に代わって全部計算して提供しており、 まさにその取り組みを拡充させているところです。 海外も国内も対象ですが、これが可能なのはおそらく日本の物流企業でも当社だけだと思います。また、 「現在これだけのCO2を年間で排出していますが、 その削減のためにこういう物流に変更したらどうですか?」 という提案にもつながります。 この物流CO2排出量算定システムは、 2023年の第24回物流環境大賞表彰において 「先進技術賞」 を受賞しました。
櫻井 そのほかに、 花王、 いすゞロジスティクスと3社共同でも受賞されていましたよね。
古賀 2023年6月に、 3社共同で第24回物流環境大賞の 「特別賞」 をいただきました。 「コンテナラウンドユース」 という取り組みで受賞したのですが、 これは空コンテナを港から内陸の工場まで運んでくることにより、 輸送効率の低下とCO2排出量増加が生じていたのを、 輸入の際に使用したコンテナをストックしているICD (インランドコンテナデポ) を活用することで、 コンテナの共同使用と輸送距離を短縮することが可能となり、 コストもCO2も削減できる取り組みです。
櫻井 コストは高いけれどCO2は削減できる、 という取り組みは数多くありますが、 経済合理性に欠けるため長続きしません。CO2が削減できて、 コストも下がるのであれば当然採用します。 分析とコスト削減、 両方を追いかけることによって貴社のニーズもさらに高まるということですね。
古賀 予想以上の反響に、 私も驚いています。
櫻井 お話をうかがっていると、 他社に先駆けてスピード感を持ってやってこられたのは強みですし、 今後もその方向で行かれるのでしょうか。
古賀 過去100年以上も物流業界が経験しなかった変化が、 ここ数年で起きています。 幅広い物流ノウハウを持ち、 トータルソリューションを提供できる当社グループにとっては、 さらなる飛躍のチャンスです。 社員に対しても、 動き続ける時代に合わせて自ら主体的に動き、 お客さま、 物流、 社会の未来を動かし続ける存在になってほしいと伝えています。 そして、 この変化の時代を先駆けることで、 新しい物流業を創造し、 “安定的成長企業” として躍進していきたいと考えています。
●会社概要(2023年9月末日現在)
概要 | |
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三井倉庫ホールディングス株式会社 MITSUI-SOKO HOLDINGS Co.,Ltd. |
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倉庫 ・ 運輸関連業 |
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1909(明治42)年10月 |
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3月 |
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東証プライム |
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代表取締役社長 古賀 博文 |
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11,219百万円 |
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24,957千株 |
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8,004人 |
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