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ITシステムの歴史を塗り替えた<br />
創造と革新の軌跡

ITシステムの歴史を塗り替えた
創造と革新の軌跡

2022年12月23日
4847 インテリジェント ウェイブ
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カード決済の世界で独自の地位を築いてきたITサービス企業、インテリジェント ウェイブ(IWI)。その最初の開発製品である「NET+1」(ネットプラスワン)は、販売開始から30年以上を経た現在も、大手カード会社の8割以上が利用し、*その信頼性と革新性は高い評価を受けている。「NET+1」はどのように生み出されたのか。そしてIWIは、今後どこに向かおうとしているのか。国内ソフトウエア業界の黎明期を駆け抜けた若者たちの奮闘の軌跡と、クラウド時代を見据えた成長戦略を追う。

* インテリジェント ウェイブ調べ

FEP――カード認証システムの心臓部

 お店でクレジットカードを利用すると、その情報はカード会社の認証システムに瞬時に送られ、利用可能なカードであるかどうかが確認されればシステム内で処理が進み、取引が成立する(オーソリ取引)。この、クレジットカードの使用を認めてよいかどうかを判断するシステム領域を、FEP(Front End Processor)と呼ぶ。現代において、FEPの安定性およびセキュリティ機能の強化は、決済インフラの健全性を担保するうえで最重要課題となっている。

 こうした決済インフラの安定稼働を支え、キャッシュレス社会の進展に貢献しているのがIWIである。同社が1989年に送り出した、FEP領域を担う決済ネットワークの接続・認証システム「NET+1」は、販売後30年以上を経過した現在も、業界のデファクトスタンダードとなっている。

 IWIは現在、カード不正利用検知システム「ACEPlus」、内部情報漏洩対策システム「CWAT」など、カード決済分野だけでなく、金融・証券関連システム、情報セキュリティなどの領域でも存在感を示している企業だが、なぜ「NET+1」はかくも長き年月にわたり、唯一に近い接続・認証システムとして命脈を保つことができたのだろうか。時計の針を1980年代に戻して、「NET+1」の開発当時のIWIの様子を見ていこう。

安達一彦氏が1人で立ち上げたIWIだったが、以後数年で氏のビジョンに共鳴した若いエンジニアが続々と集まった

「自社開発」にこだわった若きエンジニアたち

 IWIは、日本のソフトウエア産業の黎明期である1984年、外資系コンピュータ会社の社長を歴任した安達一彦氏が、自ら設立した企業だ。その目的は、当時米国では実現済みの24時間365日無停止によるオンラインカード決済の、日本での実現である。

 安達氏のプランは、米国で開発された無停止サーバーを利用し、そのOS上で動くソフトウエアを開発しようというものだった。氏は手始めとして、その無停止サーバー上で動くソフトウエア「ON/2」の総代理店権を獲得。国内での販売を始めた。

 しかし、この海外製ソフトウエアの販売のみに専心していたら、おそらくIWIの今日の隆盛はなかっただろう。当時のIWIは、安達社長のビジョンに共感し、参集した若いエンジニアやマーケティング担当者が、システム開発や新規顧客の開拓に奔走していた。主に20代の若き俊英たちだ。彼らは「ON/2」の市場浸透に注力する一方で、顧客のニーズが海外製の「ON/2」の性能・機能のみでは補えないことを実感していた。

「ないなら作るしかない」

 ソフトウエア開発に無限の可能性を見出していた若きエンジニアたちには、チャレンジ精神がみなぎっていた。既存の商品の特性や機能を大幅に改良・刷新した新しいソフトウエア、すなわち「NET+1」の開発に着手した。

IWIの創業者、安達一彦氏

 海外製品の国内適用が業界の常識であった時代、自社開発にこだわったのは、開発業務を通じて社内に技術と知見を蓄積できること、ソフトウエアを知り尽くしたエンジニアが顧客企業のシステム運用を的確にサポートできることなど、複数の理由があった。

 IWIの黎明期を牽引した若きエンジニアたちは、夜を日に継いで開発に熱中した。開発を主導したエンジニアのひとり、中村晴彦氏はこう振り返る。

「私の師匠でもある山田修一部長(当時)の指揮のもと、深夜残業や徹夜もいとわず、開発業務に取り組みました。現在なら問題になったかもしれません(笑)。でもチームの雰囲気も良く、皆が『開発小僧』といった趣で、楽しんで仕事をしていました。自社開発に踏み切ったこと、それこそがIWIが今日の地位を築くことができた要因だと感じています」

 中村氏はまた、IWIのエンジニアが自在に操ることのできる独自製品であるがゆえに、カードブランドごとの制度変更にも迅速に対応することができたと、自社開発の有効性を強調する。

ベンチャー企業としてスタートしたIWIの成長を牽引したのが、若きエンジニアたちの情熱だった。彼らは新しいものづくりの醍醐味に魅せられ、夢中でシステム開発に取り組んだ

革新的なアイデアで「ノンストップシステム」を実現

 クレジットカードの情報処理はカード会社のFEPと基幹システムで行われるが、「NET+1」が登場するまで、カード認証を行うオーソリ取引は基幹システムで行われており、FEPはホストコンピュータへのゲートウエイ(入り口)としてのみ位置付けられていた。

 ところが、オーソリ取引を基幹システムに委ねると、基幹システムが売上処理や請求処理などのバッチ業務を行う時間帯にオンライン取引の稼働停止を余儀なくされる。つまり、その時間帯はカード決済できず、海外の日中取引も同様である。

 この問題を解決したのが、FEPにオーソリ機能を代行させるという革新的なアイデアを製品化した「NET+1」である。今では当たり前の24時間いつでもどこでもキャッシュレス決済が可能となった背景には、当時のIWIエンジニアの奮闘があったのだ。

 さらに、営業部隊の地道な活動も「NET+1」の市場浸透に大きく貢献した。創業期から「NET+1」の市場浸透期にかけて、この重要な役割を担ったのが、大山景司氏たち営業部門の面々だった。彼らが最も大切にしたのは、目先の売上や利益ではなく「お客さまとの絆」だ。

「私たちの仕事は顧客企業を理解することからスタートします。お客さまの声に耳を傾け、事業構造と直面している課題を把握し、その課題を解決するためのソリューションを提案する。システムの構築に当たっては、お客さまの元に幾度となく足を運び、時にはエンジニアも同道して討論を重ね、緊密な協働関係を形成します。こうして1社1社に向き合う姿勢は業界内でも広まり、他社への展開にも弾みをつけました。お客さまとの信頼関係こそ、当社成長の原動力であり、かけがえのない経営資産であると考えています」(大山氏)
 

エンジニアの努力はもちろんのこと、営業部門の「絆」を大切にする姿勢が、IWIの成長をさらに後押しする力となった

ものづくりに魂を込める

 「NET+1」に要求されるシステムの内容には、業務的な機能のほかに、大量データのリアルタイム処理や高速レスポンス、障害発生時の復旧時間を短縮する仕組み、無停止でプログラムの更新ができる仕組みなどがあり、さまざまな非機能要件を完璧に満たすことが求められる。顧客の要求レベルを技術力で着実にクリアしていくことで、「NET+1」の市場における信頼性は確固たるものとなっていった。

 前出の中村氏は、こう語っている。「導入企業が増えるたびに、顧客の要望を柔軟に取り入れ、製品自体をパワーアップさせていったことが、『NET+1』がその後30年以上もトップシェアを保持できる製品となった要因だと考えています」

 そして、この改良に大きく貢献したのが、大山氏や中村氏の数年後にIWIに加わった、楠本美智雄氏や下條和彦氏らエンジニアで、「NET+1」の自社開発に多大な貢献を果たした。彼らもまた山田氏や中村氏の「ものづくりに魂を込める」良い意味での熱心さを受け継いだ。

 「彼らは、頭のなかに製品の仕様書がすべて入っているので、お客さまの要望を聞いて、その場でできるかできないかを判断し、帰社後にすぐに仕様書を修正してお客さまに提案していましたね。エンジニアのこの対応力が、他社にはない強みになったと思います」(大山氏)

「NET+1」が市場を席巻できた要因は、第1は製品の持つ革新性とIWIの卓越した技術力にあるが、業界の常識を打ち破る柔軟な発想力やエンジニアの対応力も、その成功に大きく寄与したことは間違いない。

 ちなみに、「NET+1」の開発で得た知見やノウハウは、カード不正利用検知システム「ACEPlus」の開発にもつながっている。これも海外製品が多いなか、唯一の国内製である。顧客のニーズに対する的確なソリューションから生まれたソフトウエアは高いシェアを獲得し*、IWIの収益基盤を支える「第2の柱」となっている。



* インテリジェント ウェイブ調べ
当記事はIWIの初期メンバーへの取材によって構成した。エンジニアの中村晴彦氏(前列左)、楠本美智雄氏(後列左)、下條和彦氏(後列右)と、マーケティング担当の大山景司氏(前列右)。大山氏は後に取締役を務めた

次代の金融インフラ構築に向けた新たな挑戦

 2000年代に入ると、あらゆる業界においてシステムのオープン化が進んできた。「NET+1」も少し遅れてオープン化を果たしたものの、決済業界のオープン化はなかなか進まず、採用している顧客はそれほど多くはない。24時間365日、1秒たりとも稼働を止められないという、究極の信頼性と安定性を求められるがゆえである。

 また、システムの“所有”から“利用”の流れに合わせ、IWIが開発する決済インフラをクラウドサービスとして提供を始め、2018年には「NET+1」の機能を受け継いだ「IGATES」のサービスを開始したが、このサービスにオーソリ機能は搭載されていない。ハードウエアの性能に依存することなく「NET+1」の機能をすべて実現することは、非常に難しいためだ*。

 その流れが、今大きく変わろうとしている。大手カード会社を中心に、FEPシステムをクラウド化しようという動きが本格化してきたのだ。次世代「NET+1」の開発を担う岡崎一真執行役員は、次のように語る。

 「世のなかのシステムがこの先、オープン化、クラウド化への傾斜をさらに深めていくことは間違いありません。FEPのクラウド化を行う上で、24時間365日無停止の運用に近づけていくにはまだ課題が山積みですが、当社は業界のトップ企業としてこの流れをリードしていかなければなりません。

 また、『NET+1』『ACEPlus』に次ぐ、新たな決済領域を拡大していくことも、私たちに課せられた役割だと考えています。当社にはカード業界で30年以上にわたって築いてきた確固たるポジションと、お客さまとの信頼関係があります。先輩たちの意志を引き継ぎ、これからは私たちがIWIの新たな成長を築いていきます」


*「NET+1」は高性能な無停止サーバーのOS上で動いており、ハードウエア側の性能も高い
執行役員第三システム本部担当 兼 第三システム本部長の岡崎一真氏

 IWIは創業者・安達一彦氏と、志を同じくした数人の社員でスタートした文字通りのベンチャー企業であった。その創造と革新の軌跡は、キャッシュレス決済の世界では名の知れた企業となった現在も、社員一人ひとりのなかにしっかりと継承されている。それがさらなる成長へのエンジンとなる。

 IWIは2022年7月、決済、金融、セキュリティといった重要な社会インフラを担う企業として、「ビジネスリライアビリティ(事業の信頼性)を支えるITサービス会社」として、持続可能な社会への貢献を目指していくことを宣言した。

 IWIはこれからも先駆的な事業展開とITの未来を創造するシステムの開発によって、業界関係者、資本市場関係者、そして私たちに新鮮な驚きを与え続けてくれるはずだ。
 

沿革

●1984(昭和59)年
12月、安達一彦氏がインテリジェント ウェイブを創業。社名の由来は時代を新しくする衝撃波の震源地に立つという志から

●1989(平成元)年
カードネットワークの接続・認証システム「NET+1」発売

●1996(平成8)年
金融・証券関連システムのメッセージングミドルウエア「RIX AGENT」発売

●1999(平成11)年
クレジットカード不正利用検知システム「ACEPlus」発売

●2001(平成13)年
4月、日本証券業協会(後のJASDAQ市場)に店頭登録
店頭登録記念写真

●2003(平成15)年
内部情報漏洩対策システム「CWAT」発売

●2010(平成22)年
4月、大日本印刷によるTOB成立。同社グループ会社に

●2014(平成26)年
11月、創立30周年記念パーティー開催
設立30周年記念祝賀会写真

●2016(平成28)年
決済インフラのクラウドサービス「Iシリーズ」を提供開始

●2019(平成31)年
3月、東京証券取引所市場第1部(現プライム市場)銘柄に指定


インテリジェント ウェイブ IRレポート
「多様で個性豊かな人財が集うもっとワクワクする会社へ」に続く

 

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