発電プラントなどの建設と補修で75年もの歴史を有する太平電業は、 現在のエネルギー危機のなかで原子力設備の安全対策工事や再生可能エネルギー設備のEPCなどの新しい取り組みにも注力し、 カーボンニュートラル社会の実現に向けて果敢な挑戦を行っている。
同社の挑戦を率いる野尻 穣社長に、 その取り組み内容と展望をうかがった。
代表取締役社長
発電プラントなどの建設と補修を両輪にした安定的収益構造
―― 太平電業とはどのような企業で、 どのような収益構造を持っているのでしょうか。
野尻 当社は発電プラントを中心に、 建設、 メンテナンス(補修)、 また規模によってはプラントマネジメントを担う独立系企業で、 戦後すぐの1947年に設立されてから75年の歴史を有しています。
当社の収益構造は、 主として発電設備 ・ プラントなどの建設と補修に大別されます。 建設は受注金額が大きいものの、 着工から完成まで長期にわたり、かつ多くの動員を必要とします。 また、 工事完了から次の工事着工までに間隔が空くこともあり、 収益に大きな波が生じます。
これに対して、 安定的な収益を確保できるのが補修です。 補修には継続性が求められ、 プラントの耐用年数まで長期に渡り工事量を確保することが可能で、 リピート効果によるコスト削減を図りながら、 安定した収益をあげることが可能になります。 このことから当社は、 一過性で収益性の厳しい建設工事に参入することで、 収益性の高い補修工事受注を優位に進め、 全体的バランスを図っています。 つまり建設と補修の両輪を揃って回すことが安定的収益の源となります。
設計・調達・建設を一括受注するEPC
―― 最近、 注力されているEPCの意義について教えてください。
野尻 このような建設と補修を二本柱とした当社の事業構成ですが、 最近新たに力を入れているのがEPC (Engineering, Procurement and Construction)という、 ひとつのプラントの設計、 調達、 建設工事のすべてを一括受注する方式です。 建設工事は金額が大きいといっても、 実はひとつのプラントが完成するまでの一部に過ぎず、 プロジェクトの大部分は設計と調達が占めています。 EPCによって、 プラントプロジェクトを一括で受注することで、 売上高が飛躍的に増加することになります。
しかし、 調達には資金投入が先行するため、 準備資金など会社の体力が必要です。 現時点では、 小規模火力発電所などをターゲットとしています。 また、 それに伴いエンジニアリングや調達力強化のために、 外部からの人材登用などノウハウの蓄積にも力を入れています。
そしてこのEPCが加わることにより、 小規模火力発電所の運転 ・ 保守、 補修工事や解体工事まで、 プラントのライフサイクルを一社で請け負うことが可能になります。
どのような事態にも対応できる動員能力が強み
―― 太平電業の競争優位となる「強み」を教えてください。
野尻 当社の75年の歴史を通じて、 最大の強みは 「動員能力」 です。 建設工事に携わる企業では、 一般に多くの協力会社と請負契約を結ぶことで動員力を確保しています。 工事が完了するとそれらの請負契約は終了となり、 せっかく集めた動員は離散していきます。 しかし当社は、 協力会社とのパートナーシップを維持するために、 請負契約終了後もすぐ次の工事を発注できるよう、 常に工事量を確保するよう努めております。 その工事量は6,000人/日から10,000人/日規模におよびます。 この活動により、 有事の際にも迅速に対応できる体制を維持しています。
さらに、 社員一人ひとりが建設にも補修にも対応できるスキルを有しており、 効率的かつフレキシブルな対応を実現しています。
例えば、 東日本大震災時は2,000人を即座に動員し、 復興に寄与するとともに、 顧客の操業維持に貢献したことで強い信頼を得ることができました。
2025年3月期に売上高1,500億円を目指す
―― 中期経営計画の進捗状況はいかがですか。
野尻 本年度、 中期経営計画(2020年4月~2023年3月)の最終年度ですが、 順調に推移しています。 原子力発電所の再稼働に向けた動きが本格化したことで、 安全対策整備が急務となっており、 当社が施工する工事においても現時点で1プラント700~800人を動員しています。 このことが目標達成の追い風になっています。
また発電設備以外にも、 製鉄所の高炉や環境施設が更新時期を迎えており、 受注に大きく寄与しています。
海外工事については、 コロナ禍で遅れていた各種プラント建設が動き始めていることに加えて、 現地拠点の増設や人材確保など投資継続の結果、 フィリピン、 台湾、 インドネシア、 タイ、 ミャンマー、 香港などでの受注が活発化しており、 計画達成につながるものと期待しています。
しかし、 現在の中期経営計画は、 収益構造の基盤を構築し、 2025年3月期に連結売上高1,500億円達成の前段に過ぎません。 現在の売上高は1,300億円ほどですので、 目標達成のためには残り数百億円を上乗せしていく必要があります。 これまでの建設工事と補修工事に加え、 売上高向上の特効薬となるのが先に述べたEPCを確実に進めることです。 今の体質改善のスピード感を維持できれば、 売上高目標1,500億円の達成は十分に可能だと考えています。
エネルギー危機による環境変化を成長機会と捉える
―─ 世界的なエネルギー危機は、 経営にどのような影響を与えていますか?
野尻 昨今、 世界的なエネルギー危機を迎えているなか、 資源の無い日本は原子力をベースロード電源として加えることが鮮明になってきています。 原子力発電所の再稼働にあたり、 安全対策工事やその後の補修工事の増大が予想され、 長年その工事に携わってきた当社にとって受注また収益確保につながると考えています。
さらに、 電力の安定供給確保を目的として、 退役した老朽火力発電所も再稼働準備に入っています。 その補修工事の受注増加もあり、 収益のプラス要因となっています。
その反面、 ガス ・ 石炭 ・ 木質バイオマスなどの燃料費が大きく高騰することで、 一部のプラント建設工事の中止や延期も生じており、 当社の受注環境にも影響を及ぼしているのも事実です。 しかし、 それら環境変化を成長機会ととらえより精力的に業務遂行にあたっているところです。
産官学が連携した「西風新都バイオマス発電所」
――広島市に西風新都バイオマス発電所を建設 ・ 運営し、 CO2回収にまで取り組んでいますが、 その狙いは何でしょう。
野尻 当社は2019年、 広島市に西風新都バイオマス発電所を建設しました。 そして2022年6月には、 CO2回収装置を追設し、 この発電所で生じる排ガスからCO2を分離 ・ 回収して、 イチゴ ・ トマトなど農作物に吸収させることで生育促進や甘味増加に活用するシステムの実証実験を開始しました。
目的は、 設計 ・ 調達 ・ 建設のEPCに加えて、 全てを自社で運営することにより当社の技術を総合的に向上させることです。 この活動は、 顧客からの信頼向上につなげると同時に、 この環境システムがEPC引き合いのパイロットモデルとして機能しています。 もちろん、 売電という直接的な収益確保にもつながっています。
また見方を変えますと、 バイオマス発電所で使用される燃料は間伐材などから作られる木材チップです。 バイオマス発電の普及で、 荒廃した山林の伐採 ・ 植林活動による健全化を促し、 山崩れ、 がけ崩れ、 水害などの防止と、 農林業の復興による地域活性化実現に向けたサイクルを確立することは、 社会貢献活動の一環でもあります。 これには広島県、 広島市、 広島大学、 名古屋大学、 重電メーカーなどからの賛同や提携を得ており、 文字通り産官学一体の取り組みとなっています。
言うまでもなく、 西風新都バイオマス発電所は、 元々がカーボンニュートラルであるバイオマス発電方式ですが、 CO2分離設備や農作物育成設備を加えたことで、 それを超えた「カーボンネガティブ」 への可能性を開くもので、 バイオマス発電所の付加価値を更に高め、 広く普及することを願っています。
―― 最後に、 個人投資家の皆さまへのメッセージをお願いします。
野尻 当社は日本の電力インフラを75年間支え続け、 これからもその一翼を担っていきます。 政府はカーボンニュートラルの2030年と2050年の目標を明示し、 積極的な取り組みを進めていますが、 当社としてもこれに応えられるよう、 風力、 地熱、 水力発電、 発電燃料転換工事等にも積極果敢に挑戦し、 そのなかで社会課題の解決と同時に企業価値向上を目指し、 投資家の皆さまのご期待に応えていきたいと考えています。
●会社概要(2022年3月31日現在)
概 要 | |
---|---|
|
太平電業株式会社 |
|
建設 |
|
1947(昭和22)年3月25日 |
|
3月 |
|
東証プライム |
|
代表取締役社長 野尻 穣 |
|
4,000百万円 |
|
20,341千株 |
|
1,970人(連結) |
《編集タイアップ広告》