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“泰平の眠り”から目覚め日経平均は12万円に?

“泰平の眠り”から目覚め日経平均は12万円に?

2023年4月13日
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上場基準適用の経過措置に期限が設けられたことで起こる変化について「兜町カタリスト」編集長・櫻井英明氏は、「相応の時間は要するが、TOPIXは1万ポイントに近づき、日経平均は12万円になる可能性がある」と語ります。櫻井氏に解説してもらいました。

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※ 東証の市場改革の概要やこれまでの経緯についてはこちらの記事を参照してください

投資家にとってプラスはあってもマイナスの影響はない

――2023年1月30日に東京証券取引所(東証)が、上場維持基準に関する経過措置の終了時期をそれまでの「当分の間」から「2025年3月以後に到来する基準日まで」と公表しました。このことをどう捉えていますか。
櫻井 東証は、市場を“泰平の眠り”から目覚めさせたと思いますね。期限が決められたことで、新市場移行時に上場維持基準を満たせず「上場維持基準の適合に向けた計画」(適合計画書)を提出していた、いわゆる経過措置適用企業の変化のスピードも上がっていくでしょう。
 東証の意図は「中長期的に魅力的な企業像を示しなさい」(意訳)ということです。投資家は、未来への道のりがいかに示されるかを見定めることが重要になります。

――経過措置適用企業の今後の動向と、投資家への影響をどう見ますか。
櫻井 経過措置適用企業の多くで未達になっている項目は上場維持基準の「流動性」、なかでも特に「流通株式時価総額」(プライム市場基準・100億円以上)ですから、上場維持基準を満たすため流通株式時価総額の向上に努める必要があります。
 一方、投資家への影響ですが、さすがに上場廃止にまでなる企業は出てこないと思います。だとすれば経過措置適用企業は、上場する市場の変更があったとしても実態としては現状維持。つまり、投資家にとってプラスはあってもマイナスの影響はないと思います。

企業に求められるのは、正しいアプローチによるROE向上

――経過措置適用企業は、どのようにして流通株式時価総額の向上を図ろうとしているのでしょうか。
櫻井 政策保有株式の解消など即効性のある手は、すでに多くの企業が打ってきています。
 とはいえ、それだけでは難しいので、結局は株価の上昇が必須になりますね。

――株価を高めるにはROE(自己資本利益率)の向上が必要といわれます。
櫻井 確かにそのとおりなのですが、大切なのはどのようなアプローチでROEの向上を図るかです。
 例えば自社株買いでもROEは向上します。「ROE=当期純利益÷自己資本」なので、自己資本を減らして自社株買いをすれば分母が小さくなりROEは向上するという理屈です。
 でも、これでは中長期的な成長にはつながりませんから、分子である当期純利益を増やしてROEを高める努力が求められます。

――東証が主催する市場区分見直しに関する有識者会議からは、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に「十分な対応が求められる」との見解も出されています。
櫻井 東証がPBR1倍割れの企業に改善を求めたことは、投資家にとって好感できるニュースです。経営者はこれまで以上に、資本コストや株価を意識した経営をするようになるでしょう。

理論株価を示した適合計画書で収益向上を決意表明

――経過措置適用企業の取り組み事例を紹介いただけますか。
櫻井 適合計画書の内容で個人的に注目したのは、プライム市場の住江織物〔3501〕ランドコンピュータ〔3924〕の2社です。両社とも「流通株式時価総額」と「1日平均売買代金」(プライム市場基準・2,000万円以上)の2項目を満たしていません(2022年4月3日時点)。
 注目点は、どちらも株価判断指標を用いて算定根拠を示していることです。住江織物は、PBRが1倍、PER(株価収益率)が19.2倍になったと想定した理論株価と流通株式時価総額(*1)を、ランドコンピュータはPERが22倍になったと想定した流通株式時価総額(*2)を、それぞれ掲載しています。そこを目指してがんばるという決意表明ですね。
 具体的には、中期経営計画をベースにして、小手先じゃなくて本業でどう収益を高めるかを詳しく示しています。

*1 理論株価:PBR1倍=4,450円、PER19.2倍=4,897円。流通株式時価総額:PBR1倍=約170億円、PER19.2倍=約188億円。想定PERは、東証1部上場企業直近10年間の平均
*2 115.9億円。想定PERは、情報通信(東証1部)平均PER26.0倍を基に保守的に設定



――今回の市場改革は、証券市場全体にどのような影響を与えるのでしょうか。
櫻井 1982年のアメリカでは、上場銘柄の約6割がPBR1倍割れだったといいます。当時は「株式の死」と呼ばれたそうですが、今ではPBRが約4倍になっています。
 現状、プライム市場でさえ上場企業の約半数がPBR1倍割れの日本で同じことが起きれば、TOPIXは1万ポイントに近づき、日経平均は12万円になる可能性があります。相応の時間は要するでしょうが、私たちがそういう変化の始まりにいるのは間違いありません。
 今回の市場改革は個人投資家もウェルカムな取り組みだと考えるべきではないでしょうか。




 

■ 東証市場改革の概要 「経過措置期限公表が株式市場を活性化させる」を読む
■ 解説・鈴木一之氏 
「ROE向上への取り組みを積極化する企業が増える」を読む


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