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経過措置期限公表が株式市場を活性化させる

経過措置期限公表が株式市場を活性化させる

2023年4月13日
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東証の新たな市場区分が始動し、上場企業の多くは東証1部からプライム市場へ、東証2部からスタンダード市場へといったように、それぞれの希望する新市場へ移行しています。
一方で、希望する市場の上場基準に適合しなかった企業は、暫定的な経過措置として適合計画書の提出を条件に上場が認められました。
さらに2023年1月に、東証は、この経過措置について「2025年3月以後に到来する基準日まで」と期限を公表。こうした東証の市場改革の一連の経緯を振り返るとともに、個人投資家への影響を検証します。

東証新市場区分移行の経緯

 2022年4月、東京証券取引所(東証)の新たな市場区分が始動。東証1部、2部、マザーズ、ジャスダックが廃止され、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3市場が発足しました。
 東証は市場再編の理由を、旧市場は、①各市場区分のコンセプトが曖昧だった、②上場企業に積極的で継続的な企業価値向上を促す仕組みになっていなかった、と説明しています。①は投資家の利便性に、②は市場全体の魅力に関わることから、東証が現状の市場のあり方に危機感を覚えていたことが推測できます。

 新市場区分への移行に伴い、東証1部からスタンダードへの移行を選択する例もありましたが、各市場の上場(維持)基準に適合する企業の多くは東証1部からプライムへ、東証2部からスタンダードへといったように、それぞれの新市場へ移行しています。
 

東証が経過措置の期限を公表

 他方、この新市場への移行にあたっては、新上場基準に適合しないものの東証1部からプライムなどへの移行を希望した企業もありました。これらの企業には、暫定的な経過措置として、「上場維持基準の適合に向けた計画」(適合計画書)の提出を条件に希望する市場への上場が認められました。2022年12月末時点で、新上場基準に適合せず経過措置を受けた企業(経過措置適用企業)は、プライム269社、スタンダード200社、グロース41社となっています。

 さらに東証は2023年1月に、“当分の間”としていたこの経過措置について2025年3月以後に到来する基準日までと期限を公表しました。経過措置適用企業は、期限到来から順次、本来の上場維持基準が適用されます。
 期限までに上場基準に適合できなかった企業は、さらに1年の猶予期間が与えられますが、それでも未達だった場合には、監理銘柄・整理銘柄に原則6カ月間指定されたうえで上場廃止となります。
 なお、旧東証1部からプライム市場に移行した企業は、この改正規則施行日(2023年4月1日)から6カ月の間にスタンダード市場への移行を選択すると、適合基準に合致するかの審査を受けることなく移行できることになっています。

出所:東京証券取引所「論点整理を踏まえた今後の東証の対応」(2023年1月30日公表)

期限公表は市場改革のカンフル剤?

 今回の東証の経過措置期限の公表について「兜町カタリスト」編集長の櫻井英明氏は、江戸末期の黒船来航になぞらえ「東証は、市場を“泰平の眠り”から目覚めさせた」と語ります。経過措置適用企業のなかには10年といった長期で計画期間を設定している企業もありました。そうした企業は実質的に適合計画の前倒しを迫られたからです。東証の放ったこの“黒船の号砲”は、一連の市場改革を前進させるカンフル剤になっているといえます。
 

一連の改革をどう見ればいいのか?

 個人投資家は東証の市場改革、さらに今回の経過措置期限公表をどう見るべきでしょうか。当企画では、「そこに投資のチャンスはあるのか」を、前出の櫻井英明氏と株式アナリストの鈴木一之氏の2人の識者に尋ねました。
 櫻井氏は、市場改革は「個人投資家もウェルカム」とし、経過措置適用企業の株価上昇への取り組みが加速すると見ています。ただし、そのための方策が小手先ではなく、本業の成長によるものかに注目すべきだと述べます。

⇒「“泰平の眠り”から目覚め日経平均は12万円に?」

 鈴木氏も、「投資家にとっての千載一遇のチャンスが生まれるきっかけ」と市場改革を肯定的に捉えています。同氏は、経過措置適用企業が「株主還元策の強化や設備投資の積極化を進めるだろう」と語ります。
 また、経過措置適用企業の基準適合の進捗を見極める指標として、流通株式時価総額の読み方などにも触れてもらいました。

⇒「ROE向上への取り組みを積極化する企業が増える」


 

大きな潮目を迎える株式市場に期待

 東証の市場改革はまだ途上にあります。しかし、今回の経過措置期限の公表で東証の目指す方向性と本気度が明確になったといえるでしょう。
 櫻井氏、鈴木氏ともに、日本の株式市場が今後数年にわたり、大きな潮目を迎えると見ています。個人投資家も今後の動向には注視が必要だといえるでしょう。

 また、東証はTOPIXについても、流通株式時価総額100億円未満の銘柄については、2025年1月末に構成銘柄から除外するとしていますので留意してください。




 

■ 解説・櫻井英明氏 「“泰平の眠り”から目覚め日経平均は12万円に?」を読む
■ 解説・鈴木一之氏 
「ROE向上への取り組みを積極化する企業が増える」を読む


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