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2023年に期待できるバリュー株銘柄

テーマ 3:バリュー株 2023年に期待できるバリュー株銘柄

2023年1月13日
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「皆がダメと思っているからこそバリュー株になる」と語るのは、アイアールmagazine読者の皆さまにはお馴染みの、“スズカズ”こと、株式アナリストの鈴木一之氏です。安値で放置されている銘柄のなかから、いかにバリューを見出すか――。バリュー株投資に必要な着眼点と、2023年の展望についてお聞きしました。

※本文中の銘柄名をクリックすると最新の株価を確認できます

日本はインフレの時代に入った

――まず、2023年の日本経済の展望をお聞かせいただけますか?

 インフレの時代に入ったと感じています。物価も上がる、金利も上がる、ある程度株価も、モデレートな形で緩やかに上がっていくような状況になっていくのではないでしょうか。その過渡期が2022年だったと思います。そうした変化にあわせ、今後はさまざまな価値観、考え方が顕在化していきます。例えば、今後は中国の生産拠点だけにあまり頼らないようにしていくなど、各社の方向性もはっきりしてくるでしょう。

――ついに日本もデフレから脱却すると?

 日銀が認めていないだけで、すでにどこかの時点で抜け出していると思います。当然、金融政策も転換していくことになるのではないでしょうか。(2023年4月に)現日銀総裁の任期が終わることで金融政策がガラリと変わることはないと思いますが、ガス抜きをしながら、方針を転換していくことになるでしょう。そして株価も、この30年間とは違う世の中にシフトしていきますから、上がったり下がったりを繰り返しながらも、ボックス圏を抜け出す状況になっていくのではないかと思います。

 

2023年に注目する「バリュー株銘柄」

――インフレの時代に入ることで、これまでの価値観も大きく変わってくる。そして株価にも良い影響があるということでしたら、期待したいところです。ではそうした状況下において、鈴木さんが注目する「バリュー株銘柄」を教えてください。

 3つ候補があります。1つは自動車関連のアイシン〔7259〕。トヨタ系列の中核を担う、ガソリンエンジンにおけるトランスミッションの世界最大手です。そして、今後の電気自動車(EV)の時代を前に、「eアクスル」といわれるEVの駆動系を担う重要部品を、独自に開発済みです。世間ではトヨタのEVへの取り組みが後手に回っていると見られがちですが、そんなことはありません。EV化の波はもう避けられないとなると、いよいよアイシンの「eアクスル」が、トヨタのEVに搭載されることになります。

 アイシンは自動運転への取り組みも強力に進めているので、2023年よりもっと先になるかもしれませんが、構造改革への取り組みが、いよいよ成果を伴ってくると見ています。現在同社のPBR(株価純資産倍率*1)が約0.5倍、配当利回りが約4.8%(*2)で、株価は歴史的な底値圏にあります(以上2023年1月10日現在)。今でしたら、あまり大きなリスクを背負うことなく、狙うことができるのではないでしょうか。


*1 当該企業について市場が評価した値段(時価総額)が、会計上の解散価値である純資産(株主資本)の何倍であるかを表す指標。株価を一株当たり純資産(BPS)で割ることで算出できる。一般的にはPBR水準1倍が株価の下限であると考えられるため、下値を推定する上では効果がある。

*2 配当利回りは通常は年間配当金の予想値で計算するが、アイシンは未発表のため便宜上2022年3月期の配当金で計算。

 
日本でも電気自動車をよく目にするようになってきた。こうした将来の市場の変化に対応可能な技術力を持っているかどうかは、バリュー株を見出す際の重要な着眼点となる

 2つ目が化学品大手のクラレ〔3405〕です。同社の得意としている合成樹脂のひとつに、「ポバール」といわれるディスプレー用のフィルムがあります。2022年12月期、このポバール樹脂が米国子会社の生産設備の不具合による停止、および物流の混乱により販売量が減少しましたが、これがいずれは盛り返していくのではないかと予想しています。

 同社は電子部品や自動車部品にもかなり力を入れていますので、自動車生産が挽回してくることになれば、アイシンと同様、株価も盛り返してくると思われます。現状のPBRで約0.5倍、配当利回りが約4.0%です(以上2023年1月10日現在)。素材セクターですから景気に敏感な銘柄になりますが、インフレによる景気の悪化が懸念される今こそが購入のチャンスといえます。

 そして、最後が地方銀行(地銀)です。地銀の場合、東北にお住まいの方は関西の地銀の評判やニュースを入手しづらいでしょうし、逆もまたそうでしょうから、よく知っている、お住まいの地域の地銀株を見ておけばよいと思います。その代表的存在が、島根と鳥取の両県にまたがる山陰合同銀行〔8381〕です。

 実は今、地銀を評価しうるポイントが数えきれないほどあります。代表的なものは、日本の金融政策が変更される可能性が高いこと。マイナス金利が解除されれば、銀行株は今以上に評価されることになります。また、リモートワークの普及や副業の解禁で、地方にいながら仕事ができるという世の中に変わってきたことから、移住しやすい状況が生まれつつあります。

 そして、2021年11月に銀行法が改正され、地銀がカバーできる業務範囲が広げられました。これにより地銀は、人材派遣にコンサルティング業務、M&Aの斡旋もできるようになり、地方の特産物を仕入れて売るといった商社のようなビジネスも可能になったのです。

 地方に人が移住すれば産業が生まれる土壌が育ちます。また経済安保の関係で、海外製造拠点の国内回帰の現象も見られます。工場は地方に作りますから、そこから新しい融資の案件も出てくるでしょう。地方には今、複数の事業拡大の糸口が広がっています。

 この移住に関して、一番熱心なのが鳥取県です。平井伸治知事が音頭をとって、移住を推進し、産業の誘致を進めています。山陰合同銀行は2022年3月期決算で過去最高収益でした。それでもPBRが約0.4倍で、配当利回りが約4.5%です(以上2023年1月10日現在)。どこかで修正されてもおかしくありません。ほかにも広島のひろぎんホールディングス〔7337〕、岐阜の十六フィナンシャルグループ〔7380〕、群馬の群馬銀行〔8334〕などは、いずれも配当利回りが4.0%前後、PBRが約0.3~0.4倍(2023年1月10日現在)ですから、そんなに業績がひどくなければ、地銀株は狙いどころではないかと感じます。

 

バリュー株を見つけるポイント

――どの銘柄も非常に納得のいくご説明をいただきましたが、そうしたバリュー株を見つける際のポイントを教えていただけますか?

 バリュー株というのは、配当利回りが高く、株価が安い銘柄です。ではなぜ株価が安いところに放置されているのか。その理由を把握すべきでしょう。それをある程度把握したうえで、今後解消されそうかどうかというところがポイントです。バリュー株は皆がダメだと思っているからこそバリューになるわけで、基本的には万年割安で、何かきっかけがないと動きません。実際、なかなか良いと思うような銘柄は少ないものです。

 そのきっかけがいつ来るか、何がきっかけになるかがわからなくても、その何かをずっと待っているというのが、バリュー株投資の本質です。その意味では、その業界、あるいは会社が「好き」ということも大事な要素です。その企業が自分の「大のお気に入り」でないと、将来何か変化が起こると信じて待ち続けることができないと思うからです。

 ですから、無理やりバリュー株探しをする必要はないと思います。その会社にとても興味があるところから始まって、株価が割安だなと思った時に、今はダメだけど好きでたまらないこの業界・会社が、浮上できる芽はどこにあるんだろうと考えてみる。想像力を思いきり広げて未来を空想してみてください。あとは、未来を信じて待ち続ける。きっかけや手がかりは、意外なほど日常の生活のなかにあるものです。バリュー株投資は、そんなところから始めてみればよいのではないでしょうか。


 

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