国内外の経済情勢をはじめとするさまざまな事象の分析に定評があり、 メディアなどで引っ張りだこのエミン・ユルマズ氏。 2022年は世界的にインフレが高進し、 ロシアのウクライナ侵攻など地政学リスクも高まった1年でしたが、 2023年は一体どうなるのか。 日本株の行方と合わせて、ユルマズ氏にうかがいました。
世界景気は減速する可能性が高い
結論からいいますと、 2023年は世界的な景気減速の可能性が高い一方で、 日本経済は相対的に堅調に推移すると考えています。
まず世界経済ですが、 米国ではさまざまな景気先行指数がリセッション(景気後退)入りを示唆しています。 また、 2022年夏ごろから債券市場で長短金利の逆転が起きていることも、 「近いうちに景気後退が起きて、 FRB (米連邦準備制度理事会) が利下げに踏み切る」 との見方が強まっていることを示しています。 米国のインフレは天井を打ったというのが市場コンセンサスですが、 2022年6月に前年同月比9.1%まで上昇しピークアウトした米消費者物価指数(CPI)が、 2~3%あたりまで大きく下がるかどうかポイントになるでしょう。 これが5~6%のあたりで高止まりしてしまうのは最悪のシナリオです。
米国株は、 個別では大きく下げている銘柄がたくさんありますが、 指数ベースで見ると、 調整が不十分であると感じます。 これまでの下げ方もパニック的ではありませんし、 信用残高が大きく減っているようなこともありません。 VIX指数(恐怖指数 *)が40、 50を超えるようなパニックが起きないと、 弱気相場というものはなかなか終わらないのです。 ただ、 米国ではリーマン・ショック時以上の不動産バブルが発生しており、 これが崩壊するとハードなリセッションが起きてしまうでしょう。
さまざまなリスク要因
中国を見てみますと、 不動産バブルの崩壊などに伴って、 香港ハンセン指数は2021年2月の高値から2022年10月までに半値ぐらいまで下落しており、 もはや金融危機と呼んでいい状況にあります。 ハンセン指数はその後底打ちの様相を見せていますが、 不動産バブルの崩壊は短期間で回復するようなものではなく、 その後遺症はいずれ世界の経済に大きな影響を及ぼすことでしょう。 また中国は、 それまでのゼロコロナ政策を大幅に方向転換して、 今から本当の意味でパンデミックに向き合わなければなりません。 しかも、 真実が報道されない可能性があるので、 何が起きているのかわからないというリスクもあります。
ウクライナ情勢もリスク要因です。 2022年12月、 米バイデン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領がホワイトハウスで首脳会談を行い、 米国がウクライナへの支援継続を強調しました。 これによって、 ロシアとウクライナのいずれかが決定的に敗北しない限り、 この戦争はまだまだ続くことになってしまいました。 長期化すれば、 戦火が他国にまで及ぶ恐れもありえますし、 NATOが介入する可能性もゼロではありません。 こうした地政学リスクも頭の隅に入れておく必要があります。
日本株に歴史的な買い場が到来
こうした世界情勢のなかで、 日本経済は相対的に堅調です。 円安進行は国民生活を圧迫する側面もありますが、 企業業績にはおおむねプラスに作用しています。 コロナ禍による行動制限が解消されたことでインバウンドも回復しています。 2022年10月にIMF(国際通貨基金)が公表した2023年の実質GDP成長率予測では、日本は前年比1.6%増と、 主要7カ国(G7)で最も高くなっています。 約30年間続いたデフレがようやく終わり、 これからの日本はインフレに伴って景気が活発化していくと予想します。 米国の景気が失速すれば、 その影響で日本株も下がる可能性はありますが、 波乱があった後 (それは2024年になるかもしれませんが)、 日本株に歴史的な買い場が到来するでしょう。
今の世界経済は非常にフラジャイル(脆弱)で、 ボラティリティが高い状況になっています。 私がこれまで主張してきた米中の 「新冷戦」 が過熱していることがその背景にはあります。 ここからしばらくは固定観念にとらわれず、 常に情報をアップデートしながら相場と付き合っていく必要があるでしょう。
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