配当利回りの良さから、もともと個人投資家からの人気の高い投資テーマだった「商社」。昨今の資源エネルギー価格の高騰も、さらに注目を高めた要因の1つです。野村證券の成田康浩アナリストに、セクターの現況と今後についてうかがいました。
成田 康浩
Yasuhiro Narita
野村證券 エクイティ・リサーチ部
商社はインフレがポジティブに作用する
商社セクターの特徴は、国内では数少ない、インフレがポジティブに作用する企業であることではないでしょうか。
日本の大手総合商社の収益は、主にトレード事業と事業投資によって生まれますが、トレード事業の場合、市況が上がると収益機会が増えます。コロナ禍後、物流網の目詰まりなどの影響でモノの需給バランスが崩れた結果、各社が軒並み好業績を発表しました。
大きな流れとして、現在のグローバルでのインフレは商社の業績を押し上げており、株価もそれによって上がっているということになります。
脱炭素化社会への対応は大きな課題
こうした状況とは別に、商社セクターにおける最も大きな環境変化が、脱炭素化社会への対応です。大手総合商社がこれまでやってきたこと(石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料由来のエネルギー調達と活用)が、ある意味否定されているわけですから、影響は非常に大きいといわざるを得ません。
各社とも2050年までの方針(温室効果ガス〈GHG〉の排出量ネットゼロ)は揃って掲げているので、そこに向けて、どう達成していくかが焦点です。特に三菱商事[ 8058 ]と三井物産[ 8031 ]は歴史的に「資源」に強く、現在のエネルギー調達から得ている多大な利益を、どのように転換していくのかが注目されます。
なお、国内では太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー(再エネ)を生み出すプラントは、石炭や石油の火力発電所と比べて非常に小さい規模のものになってしまうので、現状の資源分野の収益を肩代わりさせるのは不可能です。再エネは、エネルギーシフトのなかの1つのピースとして取り組む対象という位置付けです。
ちなみに、セクターのなかで再エネを唯一売り物にできそうなのが、豊田通商[ 8015 ]です。同社は、「ユーラスエナジーホールディングス」という日本最大規模の再エネ事業会社を傘下に収めており、欧州における電力不足の影響もあって、かなりの利益をあげています。グローバルで見ても大規模な再エネ事業会社なので、今後に向けて注目していきたい企業です。
では、三菱商事や三井物産はどうするのか。現在のところ、燃焼時にCO₂を出さないアンモニアを使っての火力発電が有力です*¹。ただし、アンモニアを天然ガスから作る際に、大量のCO₂が出てしまうので、CO₂を地中に埋め戻してカーボンニュートラルを実現するという計画(CCS)*²が進んでいます。まだ技術的に確立されていない部分があるので、今はそうした事業化調査を実施している段階です。
ただ、アンモニアプラントを造るにも2~3年かかることを考えると、政府の燃料アンモニアの輸入計画によれば2023年か2024年くらいには投資決断(FID)しないと間に合いません。投資規模も大型な投資になる可能性が高いので、今後数年にかけて大きなテーマになってくると思われます。
参照:https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/3-8-2.html
*2 「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、「二酸化炭素回収・貯留」技術と呼ばれる
参照:https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccus.html
各社の強みや得意分野を活かした取り組みに注目
一方、エネルギー分野に強みを持つ三菱商事、三井物産などと違い、 生活消費関連の商社として“川下戦略”をとる伊藤忠商事[ 8001 ]は、強みを持つDX(デジタルトランスフォーメーション)やフィンテック、小売りなどの分野に注力していくことになります。
現在、総合商社における重要な投資テーマとしては、「エネルギーシフト」と「DX」が1丁目1番地といわれていますが、各社ともそれぞれの強みを活かしたうえでの取り組みとなってくるところに、注目してほしいと思います。
例えば前述の豊田通商のように、再エネで利益をあげているところを応援していきたい、あるいはエネルギーシフトに取り組む三菱商事や三井物産の将来性に投資するといった形で、自分が共感できるストーリーを持つ企業を投資先として選ぶのが、個人投資家の皆さまには一番よいやり方ではないかと思います。
最後に、昨今の円安が商社に与える影響について、言及しておきましょう。
基本的にはプラスに影響します。どの企業も、海外での利益が7~8割を占めるので、単純に換算すると利益が増えます。また、商社は海外にアセットを多数持っていますから、外貨建て資本を換算すると、株主資本が増加します。これは、株主還元の余力が大きくなることを意味します。
もちろん、内需を頼りにする面が大きい伊藤忠商事のような商社にとっては、円安局面ではデメリットが多くなるかもしれません。しかし、彼らも化石燃料由来のエネルギー調達を行っていますから、同業他社に比べて若干見劣りするぐらいのイメージでいてよいでしょう。
ウクライナ紛争の影響もあって、安定したエネルギー調達の重要性を多くの人が再認識しました。各社それぞれの強みを活かしエネルギーシフトに取り組む商社の動向は、今後も要注目です。
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