加速するEV化の流れにどう対応するのか? 円安が及ぼす影響は? 多くの個人投資家が日本の自動車業界の行く末を気にしていることが、アンケートからも伝わってきました。野村證券の桾本将隆アナリストに、業界の現況と今後について解説していただきました。
桾本 将隆
Masataka Kunugimoto
野村證券 エクイティ・リサーチ部
EV化と自動運転でも日本メーカーは十分な競争力を持つ
自動車業界の長期的なトレンドとしては、EV(電気自動車)化と自動運転の2つがあります。
EVについては、日本車は燃費規制等で余裕があり、メーカーはインフラ整備や購入意欲の動向などに対応しつつEV化を進めればいいという立場です。対して諸外国の自動車メーカーは燃費規制等に余裕がないため、EVやプラグインハイブリッド車(PHEV)を急いで売らざるを得ないという状況にあります。
このため日本メーカーが出遅れているという印象を持つ方も多いのですが、実際には、23年以降、日本のメーカーも続々とEVを投入予定で、十分な競争力を持っています。
また異分野からの新規参入で、既存の自動車メーカーが埋没するということも考えにくいです。工場はそのまま使えますし、サスペンションにせよボディにせよノウハウの塊です。それらでアドバンテージを持つ自動車メーカーの優位が消えることはありません。
もう1つの自動運転ですが、日本では路線バスの社会実験が始まった状況です。アメリカや中国ではタクシーの運用も始まっていますが、一般の自家用車での自動運転は2030年代以降の話で、それも社会全体が自動運転に対応していくことが不可欠であるため、一気に進む状況ではありません。話題性が先行していますが、投資家としてはこれらの点を認識しておく必要があります。
米市場での販売増と円安効果で23年・24年3月期は最高益を予想
足元と当面の自動車業界については、大きく以下の3点に注目していく必要があります。
第1が、北米市場の堅調さです。米国の金利上昇により一般的には自動車販売は低迷するはずですが、コロナ禍での半導体不足によって2020~2023年に約600万台が供給不足だったとされ、その先送りされた需要が2023~2024年に力強く生まれることで、2023年では約1,720万台が売られると予想しています。また日系メーカーのディーラー在庫も4分の1程度にまで減少しているため、在庫積み直しと小売り販売の回復で好調が期待できる市場環境です。
第2が円安の影響です。日本の完成車メーカー7社合計で1ドル当たり1円、円安になると営業利益が約840億円増加します。豪ドルとユーロではそれぞれ121億円の増益要因です。
逆風としてコスト上昇があります。7社合算で22年3月期の原材料費が1.4兆円、23年3月期では2.5兆円になりますが、アルミや銅などの原材料価格はすでに反落しているため、24年3月期にはコスト高の影響も大幅に縮小する見込みです。結果として、仮に1ドル130円程度で推移すると、23年3月期の営業利益は5.4兆円、24年3月期には6.5兆円になり、いずれも過去最高を更新して大幅に円安メリットを享受できることになります。
第3が、8月16日に制定されたアメリカのインフレ抑制法(IRA)の影響です。北米での現地生産比率の条件を満たしたEVやPHEVに対して、多額の補助金が出るという法律で、影響は24年以降に表れてきます。車載電池を北米で生産しているかどうかも条件に含まれますが、これへの対応が重要です。
このような3点から見て、私が注目している銘柄はトヨタ自動車[7203]です。特にIRA対応では、PHEVの現地生産が進みバッテリーの現地調達への対応が迅速に可能だという競争優位があります。
また、これら3点以外の点からも注目しているのが、日産自動車[7201]です。同社はこの間リストラを進め、同時に値引きに頼らない販売への転換を進めてきましたが、それらの成果がこれから表れてくると思われます。