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  4. 新NISAについて個人投資家3.3万人に聞いてみた|Part.1 制度改正の背景にある“異次元の本気度”
Part.1 制度改正の背景にある“異次元の本気度”

Part.1 制度改正の背景にある“異次元の本気度”

2023年7月14日
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2024年からスタートする新しいNISA(少額投資非課税制度)。現行NISAから大幅に制度改正され、使い勝手が飛躍的に向上したといわれています。そこで、個人投資家(MIR@I会員)3万3,000人から新NISAについて疑問・質問を募集。数の多かった質問のなかからいくつかをピックアップし、人気の株式アナリストのスズカズこと鈴木一之氏に答えていただきました。

Part.1では、NISA制度改正の背景などについて解説してもらいます。

制度設計は、驚くほどシンプルに

スズカズさん

鈴木 一之
Kazuyuki Suzuki
株式アナリスト

――新NISAについて個人投資家からたくさん質問をいただいているのですが、それに答えていただく前に、まずは新NISAの概要から解説していただけますか?

鈴木 現行NISAから変更となるのは、①非課税投資枠拡大、②非課税保有期間の恒久化、③売却分の非課税保有限度額の再利用が可能――の3点です。

 ①については、現行NISAでは年間非課税投資枠が「つみたてNISA」40万円、「一般NISA」120万円のいずれかの選択ですが、新NISAでは「つみたて投資枠」120万円、「成長投資枠」240万円となり、2つの同時併用も可能になります。2つの投資枠を併用した場合、年間非課税投資枠は360万円までとなります。

   ②については、現行NISAの非課税保有期間が「つみたてNISA」20年間、「一般NISA」5年間とされています。これが恒久化されます。

   ③は、現行NISAで売却した場合、投資枠は復活しませんが、新NISAでは売却した分の非課税保有限度額(総枠)が翌年以降に再利用可能になります。

――全体的に制度設計がシンプルになった印象を受けますね。

鈴木 驚くほどシンプルです。実は2019年12月にも政府からNISA改正案が出されていましたが、当時の案は、いわゆる2階建て構造など、たいへん複雑な内容でした。今回は複雑さが解消されていて、非常にわかりやすくなっています。

 拡充内容もかなり充実していて、特に恒久化については「よく実現できたな」と思いましたね。

 

個人金融資産2,000兆円が動き出す!?

――かなり思い切った改正内容だということですね。今回、MIR@I会員から寄せられた疑問、質問で目立ったのが、改正理由や狙いについてでした。背景には何があったのでしょうか?


MIR@I会員からの質問

NISAは廃止の方向へ行くと思っていましたが、増額され、かつ5年から無期限になりました。その理由を教えてください。(兵庫県・男性・70代以上・会社員)
※質問の文言は、文意を損なわない程度に修正しています

 


鈴木 2022年6月7日に公表された「骨太の方針2022」のなかに「資産所得倍増プラン」の実現手段としてNISAの拡充が明記されたことです。
 資産所得を倍増させるためには、国民の株式や投資信託への投資を活性化させる必要があります。そこで政府は、日本の家計の金融資産約2,000兆円を投資に振り分けさせようと試みているわけです。

 家計の金融資産約2,000兆円の内訳は、現預金が約55%で、株式、投資信託が約14%(2022年12月31日)ですから、少々乱暴な言い方になりますが、資産所得を倍にするというのは株式、投資信託をさらに約280兆円(2,000兆円×14%)増やすということです。280兆円とは、東京証券取引所(東証)の合計時価総額785兆円(2023年5月31日)の36%弱です。簡単に実現できることではないですが、仮に「資産所得倍増プラン」が実現するとしたら、それだけ巨大な資金が金融市場に流れ込むことになります。


――投資をしやすくするには新NISA以外の施策も必要だと思います。40代男性の方から「今後、株式分割は積極的に行われるようになるのか」という質問がありました。東証は、望ましい投資単位として5万円以上50万円未満という水準を明示しています。また、市場改革も行い、さらには「PBR1倍割れ」企業への改善要請も出しています。こうした東証の動きと、今回のNISA制度改正は、何か連動しているように感じます。

 
MIR@I会員からの質問

今後、個人投資家が買いやすいように企業側で株式分割が積極的に行われるか。(東京都・男性・40代・会社員)
※質問の文言は、文意を損なわない程度に修正しています

 

鈴木 新NISAと東証の一連の市場改革に直接的な関連はありませんが、通底する文脈は同じ「株式市場の活性化」です。市場の活性化のために、東証は上場企業に企業価値向上の要請を行い、政府は投資家に有利なNISA制度の拡充を行ったわけです。


――実際、株式分割を実施する企業が目立つようになっています。

 

鈴木 2023年5月にNTT(日本電信電話)[9432]は、2023年6月30日を基準日とした1:25の株式分割を発表して話題になりました。このリリースのなかで「2024年から新しいNISA制度が導入されることも踏まえ、株式分割を行い、投資単位当たりの金額を引き下げることにより、より投資しやすい環境を整え」と明確に新NISAについて言及しています。どこまでが意図的かはわかりませんが、結果として政府、東証、企業の3者が軌を一にして動いています。

※銘柄名をクリックすると、野村證券の銘柄詳細ページに移動します


 日本政府は長らく「貯蓄から投資へ」という目標を掲げてきましたが、今回の新NISAからは岸田政権の資産所得倍増への“異次元の本気度”が感じられます。将来的には、非課税投資枠がさらに拡大されることも考えられるでしょう。
 
 こうした周辺の動きまで俯瞰すれば、新NISAは、これまで微動だにしなかった個人金融資産2,000兆円という山を動かす最初のきっかけになるのかもしれません。

 

「Part.2 スズカズがズバリ答える新NISA活用法」はこちら
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個人投資家が選ぶ! 新NISAで買いたい銘柄トップ20はこちら

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