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基幹事業の質的転換と<br>新たな柱の創出に挑むDIC

長期経営計画「DIC Vision 2030」 基幹事業の質的転換と
新たな柱の創出に挑むDIC

2022年9月7日
4631 DIC
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大日本インキ化学工業から現社名に変更して14年──DICグループは今、 さらなる進化の途上にある。 印刷インキ、 有機顔料などで世界トップシェアを誇るグローバル化学メーカーだが、 推進中の新長期経営計画 「DIC Vision 2030」 では、 事業ポートフォリオの変革スタンスを鮮明化させている。 見据えているのは2030年のサステナブルな未来社会だ。 グループの将来ビジョンと中長期の成長戦略について、 猪野薫社長に聞いた。 

猪野 薫

猪野 薫
いの・かおる
代表取締役 社長執行役員

パラダイムシフトに対応した事業構造の確立

――前中期経営計画「DIC111」の振り返りをお願いします。

 昨年(2021年12月期)終えた3カ年の中期経営計画「DIC111」では、 多くの成果を残すことができました。 2021年6月には独化学品大手BASF社のグローバル顔料事業 (BASF Colors and Effects)を買収し、 DICグループの有望分野である顔料事業の盤石化が図れたほか、 印刷インキ事業においてパッケージ分野へのシフトが加速するなど、 既存事業の質的転換も進展しました。 また、 これまでの既存テクノロジーをさらに高度化する製品体系に合わせるために、 その核となる無機材料技術やヘルスケア関連技術の獲得・蓄積に成功したことも、 新事業の創出に向けた意義ある収穫と受け止めています。 

 一方、 米中貿易摩擦や新型コロナウイルスの感染拡大、 ロシアのウクライナ侵攻などによってサプライチェーンに分断が起こり、 その影響で当初掲げていた目標数値は未達に終わりました。 ただ、  「DIC111」において注力した事業構造変革の取り組みは、 今期以降の成果として結実していくものと考えています。 

――新たな経営ビジョンを掲げられましたが、 その狙いは?

 世界は今、 歴史的なパラダイムシフトに直面しています。 カーボンニュートラルの実現に向けて大きく動き出したほか、 新型コロナウイルスの感染拡大を契機に「ニューノーマル」が常態化しつつあります。 また、 DX(デジタルトランスフォーメーション)がビジネスと暮らしの変容を加速させています。

 当社グループは、 短期的な経済利益の確保を目指すだけでなく、 こうしたパラダイムシフトに対応した事業構造を確立することで、 中長期的な企業価値向上を追求していく ── そのために、 従前の 「Color & Comfort」 という経営ビジョンをより進化させ、 「彩りと快適を提供し、 人と地球の未来をより良いものに −Color & Comfort−」を新経営ビジョン(パーパス)として再定義しました。 提供する社会的価値の極大化を図るという当社グループの使命を、 ステークホルダーの皆さまと共有しつつ、 "パーパスドリブンな経営" を推し進めていきたいと考えています。 

事業ポートフォリオの変革とサステナビリティへの貢献

――新しい経営ビジョンをどのように実現していくのでしょうか。

 新経営ビジョンの具現化プロセスをまとめたのが、 2022年2月に策定した長期経営計画「DIC Vision 2030」です。 本計画では、 2030年に向けて当社グループが貢献したい社会を、 地球環境の保全に努める 「グリーン社会」、 DXが経済社会の在り方を変革する 「デジタル社会」、 そして人間的な本分の復権を図る 「QOL社会」 としました。 そのうえで、 当社グループの強みと社会からの要請が重なり合う5つの重点事業領域を定め、 経営資源を集中させていくことを明らかにしています。
 

 すでに確固たるポジションを築いているスマートリビング、 カラーサイエンス、 サステナブルパッケージの3領域においては、 Value Transformationを通じて事業の質的転換を図り、 提供価値のさらなる向上を目指していきます。 新たな挑戦分野となるサステナブルエネルギーとヘルスケアの2領域については、 New Pillar Creationのスローガンのもと、 社会課題の解決に寄与する新たな事業の創出に注力します。 サステナブルエネルギー領域に関しては、 すでに技術的なプラットフォームは確立しており、 今後は資金調達も含めて事業化・収益化の取り組みを進めていく計画です。

 

 

  「DIC Vision 2030」では、 事業ポートフォリオの変革と並んで、 サステナビリティへの貢献を基本戦略に位置づけました。 当社ラインアップに占めるサステナブル製品の割合を高めるとともに、 自社の生産活動における環境負荷の低減に努め、 持続可能な社会の実現を牽引していきます。 

 具体的な目標としては、 「DIC Vision 2030」の最終年度2030年に、 サステナブル製品の売上高比率を60% (2020年は40%)まで引き上げる計画です。

――顔料ビジネスの将来をどのように展望していますか。

 この世界からカラー(インキ、 顔料)がなくなることはありえませんが、 遮熱性やセンサーへの反応性など、 求められる機能は以前より格段に多様化し、 高度化しています。 今後は機能性顔料や次世代表示材料などの開発を通じて、 カラー&ディスプレイ分野の新たなニーズに対応し、 より競争力のある事業モデルへの転換を図っていきます。

 また、 冒頭で述べましたように、 当社は2021年6月に独BASF社のグローバル顔料事業を買収しました。 得意分野・地域を補完し合える世界最大手の2社が融合したことで、 市場における優位性がさらに高まりました。 品揃えが幅広い両社ですが、 ポートフォリオに重複が少ないため製品補完性が高く、 顔料事業の質的転換の加速が期待できる状況となっています。 

――サステナブルパッケージ領域の将来性についてお聞かせください。

 現在、 わが国では廃プラスチックの処理や再利用が早急に対処すべき社会課題となっています。 DICグループでは1970年代から、 来たるべき循環型社会を展望しつつ、 包装用多層フィルムの開発と生産を通じて、 3Rや独自の5R* を念頭に 「サーキュラーエコノミー」 の世界を模索してきました。 また当社グループが提供する食品包装用のフィルムは密閉性が高いため、 食品の鮮度を長く保ち、 昨今問題となっているフードロスを減らすことにもつながります。 今後は包装用フィルムを回収・再利用する仕組みを構築し、 地球環境への負荷低減に取り組んでいく方針です。 プラスチックの包装材は、 現代社会ではややもすると敬遠されがちな存在ですが、 ごみにならない形でのリサイクルスキームが進展すれば、 敬遠されるどころか、 間違いなくビッグビジネスになると確信しています。

  5R Reuse、 Reduce、 Recycle、 Redesign、 Reduce CO₂


 

社会から信頼される独創的なグローバル企業を目指す

――最後に、 この記事を読まれている方々にメッセージをお願いします。 

 DICグループは 「インキ業界の最大手」という称号をいただいており、 これは10年後も変わらないと思いますが、 この先、 新聞 ・ 雑誌、 チラシ、 書籍など向けの印刷インキの需要は減少傾向が見込まれています。 一方、 パッケージ向けのインキ、 フィルム、 接着剤をトータルに提案するパッケージソリューションや、 機能性顔料、 あるいはエコ製品などのウエートが高まり、 全体の収益性が上がって2030年にはそれが整っている、 そのようなビジョンを持っています。 事業ポートフォリオの変革が着実に進み、 サステナブル製品の比率を着実に高めていくことが、 ビジョン達成のキーになると思っています。

 私たちは既存事業の再構築と新たな柱の創造により、 社会から信頼される独創的なグローバル企業を目指していきます。 社会的正義、 社会的意義、 社会的利益を追求して、 そこに価値アリということが続いていけば、 必ずや経済的価値として還ってくる──そういう信条のもとに私たちは事業活動にあたっており、 その姿を見ていただけたら幸いです。 引き続き、 DICグループの企業活動へのご理解とご支援をよろしくお願いいたします。



 

●会社概要(2022年6月30日現在)

商号

DIC株式会社
DIC Corporation

業種

化学

設立

1937(昭和12)年3月
※創業1908(明治41)年2月 

決算月

12月

市場

東証プライム

代表者

代表取締役 社長執行役員  猪野 薫

資本金

966億円

発行済株式数

95,156千株

従業員数(連結)

22,474人  ※2021年12月31日現在


 


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※DICの「ヒットの裏側」
液晶ディスプレイの色環境を刷新したカラーフィルタ用グリーン顔料