株主還元の方法は、配当と自社株買い(自己株式取得の一種)の2つに大別されます。
パート1では、野村證券の「日本企業の21年度株主還元状況」を基に、配当総額の動向と配当に着目した投資(配当株投資)の留意点などについて、株式アナリストの鈴木一之さんに解説していただきました。
大学卒業後、大和証券に入社し、長年にわたり株式トレードの職務に従事。2000年、インフォストックスドットコムに入社し、日本株チーフアナリストとして活躍。2007年よりフリーとなり現在に至る。主な著書 は『きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ』『これならできる! 有望株の選び方』(ともに日本経済新聞出版)など。出演番組に「東京マーケットワイド」(TOKYO MXテレビ)などがある。
配当総額は2年連続で過去最高更新の見込み
野村證券の「日本企業の21年度株主還元状況」によると、2021年度の配当総額は15.2兆円で2020年度比10.8%増となり過去最高を記録したと見られています。
さらに2022年度は、2021年度から10.9%増加の16.8兆円を見込み、2年連続で過去最高を更新する見通しとされています。
このように上場企業の配当が増え続けていることは、個人投資家にとっても大きな注目点です。
私(鈴木氏)は、常々「配当株投資(配当に着目して株式投資するスタイル)は株式投資の王道」と言ってきました。
まずは、株式投資において配当を重視することのメリットから解説しましょう。
配当株投資の有効性を実証したのが、米国ペンシルベニア大学大学院教授のジェレミー・シーゲル教授です。過去200年の投資商品やS&P500指数の長期リターンを研究するなど、データを基にした緻密な投資分析で知られる、株式投資研究の世界的権威です。
シーゲル教授の著書『株式投資 長期投資で成功するための完全ガイド』(日経BP社刊、第4版)には、1800年代から2000年代までの200年間の米国市場における金融商品のトータルリターンの分析結果が掲載されています。
これによると、1801年に投資した1ドルの株式が2001年にはなんと880万ドル(880万倍!)に膨らんでいることが示されています。
この投資パフォーマンスは、債券や金などと比べても圧倒的な高さです。
このトータルリターンの7割から8割は配当金を再投資する、つまりインカムゲイン(配当収入)によってもたらされた結果であるとシーゲル教授は指摘しています。
「すべては配当に価値があり、再投資することにより価値が向上する」ことを、シーゲル教授は見事に実証したといえます。
ただしこれは、200年という超長期での話。言い換えれば、長期投資であるほど、配当株投資は有効であるといえます。
日本企業の配当利回り(株価に対する年間配当金の割合)は数%程度です。このため、値上がり益狙いのように投資額の何倍ものリターンを短期で得ることは難しいですが、長期保有を前提とすれば、着実で手堅い投資スタイルであることは間違いありません。
配当利回りは2.5~3.5%が銘柄選びの目安
では、実際に配当株投資をする際には、どのような点に着目したらいいのでしょうか――。
配当利回りや配当性向(当期純利益に占める年間の配当金の割合)が注目されますが、実は、必ずしも配当利回りの高い銘柄に投資すればよいというわけではありません。
配当利回りがあまりにも高い銘柄は、減配リスクに留意する必要があります。
また、計算式(配当金年額÷現在株価)の分母である株価が低すぎるケースも考えられます。この場合は、株価が低迷している要因をチェックする必要があります。
さらに、株価の動きと合わせて配当利回りの推移もチェックポイントです。業績は堅調であるにもかかわらず、市場環境などのさまざまな要因によって株価が下落する時もあります。株価下落に伴い、通常は2%程度の配当利回りであったものが4%程度に上昇するなどといった場合は、投資のタイミングとして狙い目となります。
投資判断における一応の配当利回りの目安としては、2.5~3.5%であれば十分に高利回り銘柄といえます。これに加えて、堅調な業績を維持していればベストといえるでしょう。
配当株投資は、株価チャートを読むなどといったテクニカル分析が苦手な方や初心者の方でも取り組みやすい投資スタイルです。
値上がり益狙いの投資スタイルの方にとっても、配当株投資を組み合わせることで全体の投資パフォーマンスの安定性を高めることができると思われます。
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