2026年5月に新しい中期経営計画 (2026~2028年度) を公表した三井住友トラストグループ。 前中計では主要なKPI (目標数値) を前倒しで達成し、 新中計では2035年の “ありたい姿” として実質業務純益1兆円、 ROTCE16%という高い目標を掲げた。 その背景には、 30年続いたデフレからインフレへの転換によって、 家計資産が投資へと向かい、 「資金 ・ 資産 ・ 資本の好循環」 が本格化するという時代認識がある。 執行役員 IR ・ SR部長の加藤信氏に、 新中計の狙いと成長戦略を聞いた。

執行役員 IR ・ SR部長

“信託” が真に必要とされる時代が来た
――2026年5月に新しい中期経営計画 (以下、 中計) を公表されましたが、 この新中計の前提となる経営環境をどのようにご覧になっていますか。
加藤 新中計のコンセプトは 「新たな挑戦で未来をひらく」 です。 前中計期間からすでに国内金利の正常化、 NISA制度の拡充に加えて、 賃金上昇を伴うインフレが到来していました。 その結果、 前中計の目標数値 (KPI) を前倒しで達成し、 さらに2030年の到達を目指していたほぼすべての経営指標についても、 2025年度に5年前倒しで達成することができました。
経営環境において私が重視しているのは、 持続的な賃金の上昇です。 賃上げによって国民の皆さまの投資余力が高まれば、 家計が保有する金融資産が、企業の設備投資など長期で大規模な資金需要のある分野に循環していきます。 また、 物価上昇を上回るリターンを求めて、 貯蓄から投資の流れが本格的に見えてきました。 こうした資金循環が活発になるほど、 幅広い領域 ・ マーケットでビジネスを展開している信託グループの収益機会は広がりますので、 今の経営環境は非常にポジティブだと考えています。
――新中計の目標について教えてください。
加藤 今回の中計を策定するにあたり、 まず2035年をターゲットに、 10年後の “ありたい姿” について社内で議論を進めました。 当社は信託グループとして、 日本の金融課題の解決を通じた成長を掲げていますが、 そのためには、 当社が社会や金融市場から認知され、 選ばれる金融機関である必要があります。 選ばれる存在になるために必要な事業規模と収益性を示す経営指標として、 2035年の実質業務純益1兆円、 ROTCE*16%という高い目標を掲げました。
1つ目の実質業務純益について、 現在は3,474億円なので、 今後10年間で約3倍に拡大する必要があります。 2つ目は資本効率を示す指標ですが、 こちらも非常に高い意欲的な目標です。
新中計は、 これらのありたい姿の実現に向けた明確な道筋をつける最初の3年間と位置づけています。 実質業務純益5,000億円、 ROTCE13%程度などの目標を着実に達成するとともに、 将来収益に貢献する成長投資をしっかりと行ってまいります。

――2035年のありたい姿として、 「社会課題解決型ビジネスのリーディングカンパニー」 を掲げられています。
加藤 日本が抱える大きな社会課題として少子高齢化があります。 労働人口の減少が見込まれるなか、 これまでのように労働所得に大きく依存した経済成長には限界があります。 一方で、 日本の家計金融資産は2,300兆円を超えており、 その約半分は現預金に眠っています。 この家計資産こそが、 日本の社会課題を解決に導く最後の可能性ではないかと見ています。
日本政府も 「貯蓄から投資へ」 を本格的に推進し、 家計が保有する金融資産を企業の成長投資に循環させることで国民の資産所得を増やし、 経済成長につなげることを目指しています。 こうした政府の取り組みは、 信託グループである当社のビジネスモデルとの親和性が非常に高く、 資産運用や資産管理をはじめとする幅広い業務領域で取り組みが活性化すると期待できます。
まさに今、 信託が真に必要とされる時代が来たと感じています。
――「リーディングカンパニー」 の意味するところを教えてください。
加藤 当グループが目指す 「リーディングカンパニー」 の姿として3つ掲げています。 1つ目は、 ファイナンシャル ・ ウェルビーイングのリーディングカンパニーです。 ウェルビーイングとは、 心身ともに健康で幸せな状態を指します。 しかし、 お金に関する不安や悩みを抱えていると、 豊かさや幸せを感じることは難しいでしょう。 当社は、 信託グループならではの機能や専門性を活かして、 「お金の不安に左右されることなく、 自分らしい人生を安心して描き続けられる状態」 の実現を支えていきます。 この領域で社会をリードする存在になりたいと考えています。
2つ目は、 令和版産業金融のリーディングカンパニーです。 インフラ老朽化対応や再生エネルギーなどの社会課題の解決に必要な資金需要は、 今後さらに長期化していきます。 また、 これからのインフレ局面では、 資産価値が目減りしないように、 銀行預金が減少し、 期待リターンの高い投資へと資金がシフトしていきます。 この 「貯蓄から投資」 の動きがたしかなものになるなか、 投資家のお金と事業者の長期資金ニーズを結びつけることが非常に重要です。 多様なビジネスを行う信託グループとして、 中長期的な資金 ・ 資産 ・ 資本の好循環における中核的な役割を担ってまいります。
3つ目は、 オペレーションAIのリーディングカンパニーです。 信託関連ビジネスは、 お客さまごとの事情に応じたきめ細かな対応が多く、 従来は少量多品種で標準化しにくい部分もありました。 今後はAIの活用により、 当グループの生産性向上やお客さまへの付加価値提供などを進めていきます。
個人ビジネスの強化
――新中計の最終年度である2028年度の目標達成に向けて、 金利や株価などの市場環境をどう見ていますか。
加藤 今回の中計は市場環境をほぼ横置きにして策定しています。 現在の金利や株価の水準を踏まえますと、 計画対比では相応に上振れ余地があります。経済指標以外を見ても、 「貯蓄から投資へ」 の流れが本格的に進んでいますので、 目標達成には自信を持っています。
――新中計で打ち出した成長戦略のひとつに個人ビジネスの強化が謳われていますが、 具体的にはどのような戦略ですか。
足もとでは、 家計の金融資産が現預金から長期資産へシフトする流れが顕著に見られています。 三井住友信託銀行では、 長期資産運用の手段として、 投資一任運用商品であるファンドラップを提供しています。 年金ビジネスで培ったノウハウを活かし、 株式や債券に加え、オルタナティブ資産も組み合わせた分散運用を特徴とした商品です。
加えて、 超富裕層向けビジネスにも注力しています。 2020年には、 UBSグループと日本の富裕層向け事業を展開する合弁会社UBS SuMi TRUSTウェルス ・ マネジメント株式会社を設立し、 スタートアップ起業家をはじめとするニューリッチ層に向けたサービスも強化しています。 例えば、 オーナーが保有する自己株式を担保としたファイナンスを提供し、 その資金を資産形成などに活用していただくような取り組みが進んでいます。
また、 米大手投資ファンドのアポログループなどグローバルなビジネスパートナーとの連携も重要です。 資産運用ノウハウや投資家基盤などお互いの強みを活かし、 プライベートアセット領域を中心に協業を進めています。 多様な投資機会を求める個人投資家向けへの商品 ・ サービスの提供については、 まず超富裕層向けから展開し、 徐々に富裕層などへ裾野を広げていく考えです。
――個人ビジネスで大きな可能性を持つネット銀行についてはいかがですか。
加藤 ドコモSMTBネット銀行は、 当グループにとって大きな成長機会になると考えています。 住信SBIネット銀行から商号変更し、 NTTドコモとの連携を本格的に進めていきます。
本ビジネスには大きく2つの可能性があります。 ひとつは、 NTTドコモグループという日本の縮図のような巨大な顧客基盤を活用し、 三井住友信託銀行をはじめとする当グループの商品 ・ サービスを提供できる可能性です。 従来と異なり、 非金融グループとの連携ですので、 金融商品の取り扱いに関する協業の余地が大きく広がることが期待できます。
2つ目の可能性は、 飛躍的な顧客基盤の拡大です。 店舗の少ない信託銀行にとって、 顧客数の増加は苦手な分野ですが、 NTTドコモの1億人を超える会員基盤を活用することで、 ドコモSMTBネット銀行の口座数を現在の約900万口座から3年後には1,500万口座以上へ増加させる計画です。

成長投資と株主還元の両立
――政策保有株式の保有ゼロを打ち出されていますが、 現在の進捗状況はいかがですか。
加藤 2021年5月に 「従来型の安定株主としての政策保有株式は保有しない」 と宣言してから5年が経ちました。 政策保有株式の保有企業数、 取得原価のいずれの面も、 半分以下まで削減することができました。
政策保有株式ゼロを最初に打ち出したのは当社ですが、 2023年に東京証券取引所がPBR1倍超の実現に向けた取り組みを要請したこともあり、 多くの企業で政策保有株式を見直す動きが広がっています。 当初と比べると、 保有先企業からのご理解も得やすくなってきました。 引き続き、 粘り強い交渉を進めて削減活動を加速していきます。
――総還元性向50%以上を打ち出されていますが、 成長投資とどう両立させますか。
加藤 株主還元方針については、 利益の50%以上を還元することを明確にお約束しています。 あわせて、 1株当たりの配当金は累進的な運営を継続しますので、 利益成長とともに配当を増やしていく方針に変更はありません。 株主の皆さまに還元する下限を50%と明示していますので、 ダウンサイドを心配いただく必要はなく、 どれだけ上振れる余地があるのかだけを気にしていただければと思います。
50%を株主に還元した残りの資本については、 将来の還元を拡大していくための成長投資に活用させていただきます。 中計期間の3年間では約6,000億円を成長投資に充てる計画です。 引き続き、 株主還元と成長投資のベストバランスを追求してまいります。

1対4の株式分割を実施
――1対4の株式分割を発表され、 この記事が公開される直前の2026年8月1日 (実質的には8月3日) に効力発生日を迎えます。
加藤 前回2024年1月に1対2の株式分割を実施して以降も、 当社の株価は大きく上昇しました。 (このインタビューの行われた2026年6月26日時点では) 6,000円前後で推移しており、 1単元 (100株) を購入するには60万円程度の資金が必要です。 NISAでの投資や分散投資のしやすさを考えると、 個人投資家の皆さまにとって、 より投資しやすい投資単位にする必要があると考え、 今回の株式分割を実施しました。
――最後に、 読者である個人投資家の皆さまへのメッセージをお願いします。
加藤 信託グループで働く私たちからすると、 「ようやくこの時代が来た」 という感覚があります。 日本はこの30年間、 長らくデフレ環境が続き、 預金を中心に資産を保有することが合理的な時代が続きました。 いくら 「貯蓄から投資へ」 と言われ続けても、 資金はなかなか動きませんでした。
しかし現在は、 インフレ経済の再来を背景に、 資金がより高いリターンを求めて活発に循環する環境へと変わりつつあります。 こうした変化の中で、 信託が果たす役割はこれまで以上に大きくなると考えています。 まさに今は 「信託の時代」 です。 国民の資産所得を増やし、 ファイナンシャル ・ ウェルビーイングを実現するうえで、 私たち信託グループは資産の運用 ・ 管理 ・ 承継をはじめとする幅広い領域に関わっています。 わが国における資金 ・ 資産 ・ 資本の好循環の実現が即ち、 当グループの成長に直結するということです。
個人投資家の皆さまにおかれましては、 信託らしい長期的な成長ストーリーや、 収益 ・ 事業基盤が分散された独自のビジネスモデルにぜひご注目いただき、 中長期的な視点で当社への投資をご検討いただければ幸いです。 三井住友トラストグループの今後の成長にご期待ください。

●会社概要(2026年3月末日現在)
| 概要 | |
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三井住友トラストグループ株式会社 Sumitomo Mitsui Trust Group, Inc. |
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銀行業 |
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2002年2月 |
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3月 |
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東証プライム、 名証プレミア |
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取締役執行役社長(CEO) 大山 一也 ※2026年6月末日現在 |
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2,616億8百万円 |
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698,812千株 |
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22,526人 (連結) |













