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金利上昇だけでなく、<br>インフレも成長のチャンスに

資金・資産・資本の好循環が収益に結びつく 金利上昇だけでなく、
インフレも成長のチャンスに

2024年7月30日
8309 三井住友トラスト・ホールディングス
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2024年4月に創業100年を迎えた三井住友トラスト ・ グループは、 「信託グループ」 として独自のビジネスモデルを構築している。 銀行ビジネスのほかに、 資産運用 ・ 資産管理、 不動産など、 資本市場、 資産市場のあらゆるシーンに関わっている。 いわば、 “市場や経済のインフラ” ともいうべき存在である。 金利上昇だけでなく、 インフレによる資産価格上昇や投資の活性化など、 資金 ・ 資産 ・ 資本が好循環することがさらなる成長に繋がる。 中期経営計画の数値目標の前倒し達成も手繰り寄せつつある同社の “今” と100年の歴史、 そして今後の戦略について山城正也執行役にうかがった。

山城 正也( やましろ ・ まさや )
執行役(IR統括)

創業100年の節目を迎え、 10月には商号変更へ

――貴社グループは2024年4月に創業100年の節目を迎えられました。 2024年はわが国の経済も大きな転換を迎えている感がありますが、 これまでを振り返りつつ、 信託ビジネスの特徴を教えてください。

山城 1923年に 「信託法 ・ 信託業法」 という法律が施行されました。 その翌年、 同法に基づくわが国最初の信託会社として三井信託株式会社が創業しました。 さらに翌1925年には住友信託株式会社も創業、 営業を開始しています。 ちょうど、 第一次世界大戦後の経済発展に伴い、 国民の 「資産蓄積」 が進む時期でした。 一方、 1923年には関東大震災が発生しており、 三井信託の創業者は 「財産管理」 の必要性も痛感したといいます。 当グループは、 そうした社会情勢のなかで、 「安心して資産の管理や運用を任せたい」 というニーズに基づきスタートしたわけです。
 私たちは、 創業当初から現在に至るまで、 「信じて託される」 という存在であることに矜持を持ち、 お客さまの資産をしっかりと安全に守るとともに、 社会の発展に貢献してきました。

 信託という仕組みは、 時々の社会の課題やニーズに対して、 柔軟にその機能を発揮できるのが特徴です。 例えば第二次世界大戦後には、 貸付信託を開発し、 産業界に長期の資金を提供することで、 戦後の復興と高度経済成長を支えました。 1960年代にはいると、 企業の福利厚生や長期的な資産形成をサポートする年金信託を開発し、 企業年金の発展に貢献しました。 資産運用商品として皆さまにも馴染みのある投資信託も信託です。 高齢化が社会課題となる昨今では、 遺言信託のニーズも高まっています。 遺言信託などは、 大切な資産だけでなく 「想い」 も託していただく機能といえるかもしれません。

 

 また、 グループとして幅広いビジネスも展開しています。 資産運用 (アセットマネジメント) 、 資産管理、 法人および個人向けの不動産仲介、 資産の証券化、 証券代行……、 そして三井住友信託銀行では通常の銀行業務も行っています。 いずれも相応の規模があり、 金融市場、 資本市場、 実物資産市場のあらゆる場所で貢献している存在とご理解ください。


 
信託関連ビジネスを中心に多くの領域で業界トップクラスを誇る


――グループ創業100年にあたって、 商号を変更するとのことですが。

山城 2024年10月1日付で商号を 「三井住友トラストグループ」 に変更することといたしました。 先ほどお話ししたとおり、 幅広いビジネスを展開する当グループ内には、 中核の三井住友信託銀行をはじめ、 アジア最大規模の資産運用を行っている三井住友トラスト ・ アセットマネジメントや日興アセットマネジメント、 不動産分野の三井住友トラスト不動産、 「ダイナースクラブカード」 を発行する三井住友トラストクラブなどの企業があります。 これらグループ企業が、 これまで以上に一体となって新たな 「挑戦」 と 「開拓」 に取り組み、 すべてのステークホルダーに貢献する企業となるように、 商号変更を行うこととしました。

 

 


――2023年度の決算発表では、 意欲的な当期純利益の予想を公表されました。 2,400億円という2024年度の予想数字は、中期経営計画 (以下、中計) の最終年度目標を1年前倒しする形となりますが、 中計の進捗について教えてください。

山城 中計策定時 (2023年5月) に想定したペースを上回る実績を上げています。 中計最終年度の2025年度に達成を予想していた当期純利益の目標2,400億円を、 1年前倒しして、 今年度に実現することを目指しています。 この目標が達成できると、 ROEについても、 1年早く8%の達成が可能となります。

 順調な進捗の要因のひとつは、 資産運用 ・ 資産管理ビジネスを中心に、 グループの特徴と強みを活かす施策が機能してきたことです。

 また、 デフレからインフレへの転換という外部環境の変化も追い風になっています。 2024年3月に日銀が政策金利を引き上げましたが、 それにより、 2024年度の業務純益を前年度比で約150億円押し上げるプラス影響を予想しています。 ただ、 当グループの強みは、 環境変化のメリットが金利要因だけではないところです。 株価の上昇による資産運用 ・ 資産管理の残高の増加、不動産価格上昇による手数料増加など、 幅広い収益改善の効果が期待できます。


 

 そのほかにも、 社会の変化に伴う、 企業のお客さまからの当社へのニーズ拡大もあります。 お客さまは、 コーポレートガバナンスの強化や、 ROE ・ PBRの向上といった課題に面しておられます。 このような課題に対して、 ガバナンスに関するコンサルティング、 資産効率化のための保有不動産の売却の仲介など、 信託グループならではのサービスを提供しており、 利益成長につながっています。

 日本企業の価値向上、 投資の活性化、 資金 ・ 資産 ・ 資本の好循環といった変化が、 信託関連ビジネスの成長へとつながるという意味で、 当グループは環境変化のメリットをより大きく享受できるのです。


 

累進的な配当運営と100周年記念配当

――株主還元について教えてください。

山城 2024年度は100周年記念配当1株当たり10円を含め、 年145円の配当を予想しています。 これは2023年度から35円、 30%以上の増配です。 連結配当性向は記念配当も含めて43.5%になります。
 当グループでは、 利益成長の果実を、 株主の皆さまへ中長期にわたって安定的に還元していきたいと考えております。 連結配当性向に関しては40%以上を目安としているほか、 1株当たり普通配当金については、 前年度を下回らない “累進的な配当運営” を2023年度から導入しています。

 特に個人株主層の拡充には力を入れています。 配当利回りのコントロールはできないものの、 「配当利回りが高め*である」 と注目もいただいているようです。 ぜひ、 幅広い個人の方にも当社株に投資をしていただければと思っています。 財務健全性と安定的な利益成長、 それに伴う還元の充実といった取り組みを進め、 株主の皆さまのご期待に応えていきたいと考えております。

*配当利回り3.86%(2024年7月12日時点)

 

ROE10%を前倒し達成へ

――今後の成長戦略について教えてください。

山城 2030年度にはROE10%以上を目指すとしていますが、 実はもっと早く達成できる可能性があると考えています。 先ほども申し上げたとおり、 2024年度にはROE8%の達成を目指していますが、 政策金利があと0.4%上昇すると業務純益が350億円程度の増益になると試算しており、 ROEも9%近くになります。
 加えて先ほど申し上げた資産運用 ・ 資産管理、 不動産といった当グループの強みである信託関連ビジネスで利益成長のスピードを加速させれば、 ROE10%を早期に達成する可能性が高まります。

 日本の資産の状況、 社会構造を考えると、 信託関連ビジネスを活かし、 拡大させる領域はさらに広がります。
 現在、 日本の個人資産は3,000兆円を超えるといわれ、 現預金と有価証券などの運用、 不動産にそれぞれ約1,000兆円ずつ振り分けられています。 投資されていない現預金1,000兆円が投資に向かうと、 資産運用・資産管理のビジネスの成長が期待できます。 資産運用については、 政府も 「資産運用立国」 を掲げています。 ただ、 われわれの場合、 投資を活性化させていくだけでなく、 個人の資金が企業の脱炭素や新しい技術への投資に繋がるように、 プライベートアセットなどの非伝統的な投資手法も含め、 日本の資本市場を発展させ、 当グループも利益成長をしていきたいと考えています。
 また、 団塊世代から若い世代に資産移転が起きるなかで、 信託銀行が得意とする相続サービスや、 資産の大きなウエイトを占める不動産の仲介のビジネスも強化をしていきます。


──最後に、 読者の皆さまへのメッセージをお願いします。

山城 おかげさまで、 当グループは2024年4月15日に創業100年を迎えました。 信託制度とともに当グループが歩んできた 100年は、 「信託の力」 でお客さまのニーズにお応えし、 社会課題を解決することにより、 わが国の発展に貢献してきた歴史です。 社会の発展とともに、 当グループも発展し、 今を迎えることができましたのも、 ひとえに私たちを支え、 応援してくださったステークホルダーの皆さまのご支援の賜物と、 心より感謝申し上げます。

 現在では信託銀行を核とする金融グループとして株式を上場しているのは当社だけですが、 信託の受託者精神に立脚し、 新たな価値創出に果敢に 「挑戦」 し、 わが国の発展に貢献する 「開拓」 の姿勢は、 創業以来いつの時代も変わりません。 高い専門性を有する当グループ各社の力を結集し、 信じて託される長期の信任関係を大切に、 次の100年も資本市場の発展と豊かな未来づくりに貢献してまいります。 今後とも一層のご支援を賜りますよう、 お願い申し上げます。


 

●会社概要(2024年3月末日現在)

  概要
商号
三井住友トラスト・ホールディングス株式会社
Sumitomo Mitsui Trust Holdings, Inc.

※2024年10月1日付で商号変更予定
業種
銀行業
設立
2002年2月
決算月
3月
市場
東証プライム、 名証プレミア
代表者
取締役執行役社長  高倉 透
資本金
2,616億8百万円
発行済株式数
728,051千株
従業員数
22,911人 (連結)


 

三井住友トラスト・ホールディングス