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液晶ディスプレイの色環境を刷新した<br />
カラーフィルタ用グリーン顔料

液晶ディスプレイの色環境を刷新した
カラーフィルタ用グリーン顔料

2022年9月7日
4631 DIC
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スマートフォンやパソコン、 大型テレビなどの色彩表現を担っているカラーフィルタ。 そこに使われているのが光の三原色 ── レッド、 グリーン、 ブルーの顔料だ。 有機顔料のトップメーカー*であるDICは、 亜鉛の化合物を使用したまったく新しいグリーン顔料を開発し、 液晶ディスプレイの色環境に革命を起こした。 優れた色彩再現力と高い環境性能を両立した「G58シリーズ」はどのように生み出されたのか。
DIC調べ

カラーフィルタ用顔料で世界のトップを快走するDICグループ

 私たちの暮らしは色に囲まれている。 布、 紙、 プラスチック、 建材、 金属製品など人工物の色はすべて「色材」を用いて着色したものだ。 そして色材には大きく分けて染料と顔料がある。 いずれも色を帯びた粉末だが、 染料が水や油に溶け、 紙や布に染み込むのに対して、 顔料は水や油に溶けず、 定着材を加えて対象物に塗ることで着色するという違いがある。 では、 私たちが普段使っているスマートフォンやパソコンの液晶画面、 あるいは大型テレビの高精細画面はどのようにして鮮やかな色を表現しているのだろうか。 

 液晶画面には、 色を生み出すカラーフィルタが装着されている。 カラーフィルタのガラス基板には、 赤、 緑、 青(RGB)と格子部を形成するブラックマトリクス(BM)の計4色のカラーレジストが一定のパターンで塗布されていて、 バックライトの白色光がそこを透過することで発色するという仕組みである。 よく耳にする「画素」とは、 RGBの組み合わせのことで、 例えばフルハイビジョンのテレビは約207万画素なので、 RGBが207万セットあることを意味する。 このカラーレジストの主原料が顔料なのだ。 つまり、 顔料の品質と特性が液晶および有機ELディスプレイの画質や色彩の再現性を決定するといっても過言ではない。 そして、 このカラーフィルタ用顔料の分野で世界のトップを走っているのがDICグループである。 

液晶ディスプレイの構造

独自の微細化技術で、世界トップレベルのコントラストを実現

 DICがカラーフィルタ用顔料の世界に革命を起こしたのは2007年──。 それ以前、 広く普及していたグリーン顔料「G36」には、 銅の化合物が使用されていた。 しかし、 大型液晶テレビが急速に普及し、 高画質へのニーズが高まるなか、 銅の化合物を使ったカラーフィルタでは、 期待する明るさや鮮やかさを得ることができなかった。 また、 輝度を高めようとすると消費電力が大きくなり、 産業界の省エネの風潮に逆行してしまう。 

 当時、 カラーフィルタ向けの開発を通じて顔料事業の拡充を図ろうとしていたDICグループは、 銅に代わる新たな金属の採用を模索する。 もちろん、 それは簡単なことではない。 候補となる金属はひとつではないし、 その金属を使った化合物の組み合わせも無数にある。 どうすれば、 より鮮やかなグリーンが得られるのか。 DICのエンジニアたちは、 コンピュータシミュレーションと人の手による実験を繰り返していった。 

 開発を支えたのは、 長年の顔料開発で培った高度な技術と豊富な知見である。 DICの顔料事業は、 1925年に印刷インキ用顔料の自給を開始して以来、 1世紀近くの歴史を持っている。 また、 一般用途の有機顔料で世界のトップシェアを有していることに加え、 インクジェット用や化粧品用など、 さまざまな産業分野に高品質な製品を提供してきた実績を持つ。 

 エンジニアたちはこうした技術や知見を活用しながら、 試行錯誤の末、 2007年に新たな顔料「G58シリーズ」を世に送り出した。 亜鉛を中心金属とすることに成功した「G58」の上市は、 カラーフィルタ用グリーン顔料の常識を覆した。 DICは独自の微細化技術により、 世界最高レベルの輝度とコントラストを実現したのである。 また、 G58を使用したディスプレイは、 バックライトの光量を抑えられるため、 節電とCO2の削減につながるという優れた環境性能も併せ持っていた。 

BASF Colors & Effects買収で顔料事業はさらなる発展へ

 2008年の量産開始後、 G58シリーズは着実に市場シェアを高めていったが、 その成長の道のりは決して平坦なものではなかった。 2011年3月には東日本大震災が発生し、 顔料を生産する鹿島工場が操業停止に陥ってしまう。 需給が逼迫するなか、 必死の復旧活動に努めた結果、 被災から約1カ月で生産を再開。 その後は、 顔料に樹脂や溶剤を混合するミルベースメーカーのみならず、 より川下に位置するパネルメーカーからの注文もこなしながら、 G58の市場浸透を進めていった。 そうした取り組みが奏功し、 G58は市場投入から数年でカラーフィルタ用グリーン顔料のトップシェア*を獲得する。 

 しかし、 そこはまだゴールではない。 2010年代になると、 4Kの衛星放送が始まり、 家電メーカーは4K対応テレビの生産に本腰を入れ始めた。 パネルメーカー各社も4K、 さらにその次の8Kを見据えた製品開発を加速していく。 従来よりも広い色域を表現したいというパネルメーカーの要望を受けて、 DICはG58に続く新たな製品の開発に着手する。 そして2014年に誕生したのが「G59シリーズ」だ。 先行製品であるG58の置換基を長い時間をかけて極限の繊細さで調整した結果、 それまで表示できなかった色彩の再現が可能になった。 

 現在、 カラーフィルタ用顔料市場におけるDIC製品のシェアはグリーンが約85%、 ブルーが約50%、 いずれも圧倒的なNo.1*だ。 この市場占有率が象徴するとおり、 DICの技術と品質に対する顧客企業の信頼には絶大なものがある。 さらにDICは2021年6月、 ドイツの化学メーカーBASF社の顔料部門Colors & Effects (C&E) 社を買収した。 今後は両者の経営資源を相互活用しながら、 レッドやイエローなどの新顔料の開発を加速していくほか、  自動運転に対応したLiDAR(ライダー)**塗料用顔料など、 カラーリングにとどまらない機能性領域でも業界をリードしていく構えだ。 

 製造 ・ 販売 ・ 技術が三位一体となって、 新しいものに挑戦しようというマインドを強力に推し進めることができるのがDICの強みである。 「G58」 を生み出したイノベーションと熱意は、 顔料事業の将来にさらなる成長と広がりをもたらすだろう。

*    DIC調べ 
** 
Light Detection and Ranging または Laser Imaging Detection and Rangingの略称。 対象物にレーザーを照射して散乱光や反射光を分析し、 対象物までの距離や性質を測定するリモートセンシング技術のこと



 

 

 

取材協力 DIC株式会社
三田昌弘(カラー&ディスプレイ事業企画部 部長)/依田峰男(カラー&ディスプレイ事業企画部 カラーマテリアル担当 マネジャー)/秋山直十(カラーマテリアル製品本部 顔料グローバルセグメントグループ GM)/嶋田勝徳(カラーマテリアル製品本部 技術統合担当 マネジャー)

 

DIC|IRレポート 「基幹事業の質的転換と新たな柱の創出に挑むDIC」 に続く