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第2特集 <br />
「ファン株主」って何だ!?

第2特集 
「ファン株主」って何だ!?

2022年7月15日
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「株主のファン化を図りたい」。近年、こうした思いを抱く企業が増えています。企業の「ファン」であり株主である「ファン株主」は、長期保有を志向し、企業活動を支援しつつ、積極的に商品を購入してくれるなど、企業にとって多くのメリットをもたらす存在といわれています。しかし、企業によってその捉え方はさまざまで、そもそも「ファン」とはどんな存在なのか、その実像はつかみづらいものと思われます。ここでは、「ファン」という概念から、「ファン株主」とはどんな存在なのかを改めて明らかにするとともに、企業と個人株主の新しい関係性について、考えていきたいと思います。

 今回、「ファン株主」を考えるうえで重視したのが、「ファン」という存在について。お話をうかがったのは、株式会社ファンベースカンパニー代表取締役社長/CEOの津田匡保さんと、同COOの星隆祐さんです。

 ファンベースカンパニーは、「ファン」という存在に着目し、ファンをベースにして中長期的に売上や事業価値を高めていく「ファンベース」という概念を提唱した、コミュニケーションデザイナーの佐藤尚之氏が中心となって設立された企業です。

 まさに「ファン」と企業のコミュニケーション構築に日々取り組まれている津田さんと星さんに、「ファン」そして「ファン株主」について詳しくお聞きしました。

 

右:津田匡保(つだ・まさやす)さん
株式会社ファンベースカンパニー 代表取締役社長/CEO
2002年ネスレ日本入社。ブランドマーケティング業務を担当しつつ、2012年よりファンとの共創によるオフィス向けコーヒー宅配サービス「ネスカフェ アンバサダー」を立ち上げる。2019年ファンベースカンパニーに創業メンバーとして参画。ファンベースの考え方や自社ソリューションを軸として、幅広い企業・ブランドの事業支援に従事。

左:星 隆祐(ほし・りゅうすけ)さん
株式会社ファンベースカンパニー 取締役/COO
2005年野村證券入社。支店業務をはじめニューヨーク駐在などさまざまな業務を経験した後、2020年4月より現職。

「ファン」とは何か?

――まずお聞きしたいのが、「ファン」とは何かということです。

津田 私たちは、「企業やブランドが大切にしている価値を支持してくれる人」と定義しています。大切にしている価値とは、企業の価値観や大事にしている考え方、経営理念などですね。そうしたものに共感を覚え、気持ちの面でつながっている人が「ファン」と考えています。

 具体的に説明しましょう。「ファン」は、3つの価値を感じていると定義しています。それが、機能価値情緒価値未来価値です。

津田 情緒価値や未来価値を生み出す要素、商品やサービスの裏側にある「考え方」や「人」などについては、企業自体への深い理解が必要になります。

 例えば、「これはとっても美味しい食品ですよ」と企業がアピールするとします。美味しいというのは機能価値です。でもそれだけじゃなくて、その食品を作るための苦労とか、なぜ世に出すのかという信念、その先に何を目指しているのかというところに、情緒価値や未来価値が生まれて共感を呼び、感情面でも好き、つまり「ファン」になっていきます。

 私たちが「ファン」に着目するのは、今後少子高齢化が進み、国内の人口が減っていけば、顧客の絶対数が確実に少なくなっていきますし、現代は物や選択肢があふれる「超成熟市場」なので、機能価値は残念ながら陳腐化してしまいます。優れた機能価値ほど、すぐに競合他社にコピーされてしまいます。機能価値だけで勝負するには厳しい時代です。でも、情緒価値や未来価値などがしっかり伝わっていると、機能面は他と同じでも感情面で好きなので、支持し続けてくれる人が増える。支持基盤が固まるということです。

――株主ということで考えると、支持基盤を作っておけば、例えば株価が下落基調になったとしても、ファン株主だったらしっかり支えてくれる存在になるのではないかと?

津田 そうです。それが「ファンベース」の考え方です。「ファン株主」で考えると、ある企業が大好きで、情緒価値や未来価値を感じて株を購入している人がいる。企業はその方々にしっかり目を向け、誠実に向き合い、もっと好きになっていただく。情緒価値、未来価値を伝えていくことで、一緒に会社を支えてくれる存在になっていくわけです。

 会社の理念とか中長期的に描いているビジョンなどに共感している人たちは、何があっても応援しつづけてくれるでしょう。たとえ株価が下落したとしても、この会社の未来を信じられる。そういう方が「ファン株主」といえるのではないでしょうか。

目の前のお客さまを大事にする

――貴社の企業名でもある「ファンベース」について、改めてご説明いただけますか。

津田 「ファンベース」とは、「ファン」を大切にして、「ファン」をベースに中長期的に売り上げや企業価値を高めていくという考え方です。決して新しい考え方ではなく、昔からある考え方を体系化して、言語化したものと考えています。要は、目の前のお客さまを大事にしていこうということですから。

 ひとつ例をあげます。イケウチオーガニック( 非上場)という今治タオルの会社があります。あるとき取引先の倒産のあおりを受けて経営が行き詰まり、民事再生法の適用を申請された。そこに1本の電話がファンの方からかかってきた。「あと何枚イケウチのタオルを買えば御社が倒産せずに済みますか?」と。同社は、その電話をきっかけに自社ブランド商品を主軸にして、ファンと共に会社を立て直していった。つまり、熱烈なお客さまの声、ファンの方々に触れることによって、企業も勇気づけられたり、さまざまなヒントがもらえたりして、中長期的な未来を描いて進んでいくことができたということです。

 よくいわれるように、「ファン」は売り上げを支えてくれる存在であり、商品を推奨してくれるなど、ビジネスを支えてくれる存在です。でもそれだけではなく、ビジネスをやっているのは人間ですから、やっぱり気持ちが大事。その気持ちも支えてくれる存在が、まさに「ファン」ではないか。会社を中長期で成長させていこうという時に、人が人を支えてくれる。これがファンベースの本質だと考えています。

 一方、「ファンベース」を取り入れたら瞬間的に何かが変わるというわけではありません。「ファンベース」を実践すると、これまでやってきたことの良さ・正しさに気づかされて――イケウチオーガニックの場合はきっかけがファンからの1本の電話でした――それによって自分たちがやりたいこと、やるべきことが明確になって、未来に向かっていける。つまり、企業や商品の本質的な価値をよく知るファンの意見を参考にしつつ、一緒に未来を目指していきましょうというのが、「ファンベース」の考え方です。

ファンを増やすのではなくファンと出会う

――「ファン」とコミュニケーションをとることで、企業が自分たちの価値を改めて理解して、その価値をもっと伸ばしていこうと考える。「ファン」とは一種の鏡のような存在とも考えられますか?

津田  「ファンベース」では、基本的に“イイトコロ”を伸ばしていきます。もちろん課題を直していくことも必要ですが、それはそれでやりつつ、イイトコロをちゃんと伸ばしていくことが大事だと思っています。

 イイトコロは、「ファン」が知っています。ファンが愛している価値をちゃんと知って、伸ばしていく。企業もファンとコミュニケーションをとりながら自社のどこを愛しているかを教えてもらって、それを伸ばしていく。そこでファンとのコミュニケーションが重要になってくると思います。

 ひとつのアイデアですが、株主総会ではいろんな意見が出ますよね。株主総会に来られた方って、大変な労力を使って会場まで来られて何か伝えたいことがあるわけですから、すでにファンという方も大勢いらっしゃると思います。そんな方が「ここだけは直したほうがいい」と言ってくれている改善点については、受け入れることも大切だと思います。一方企業は、こうしたファンから、株主総会以外のところで、企業のイイトコロだけを傾聴する場を持ってもいいのではないでしょうか。そうすると改善点と伸ばすべきところが分かってくる。そんなふうにファンとつながっていけると思います。

――その企業が好きで、愛着があるから株を購入した「ファン株主」は、企業にとってもかけがえのない存在となりうる。そんな「ファン株主」を経営者の皆さんも増やしたいと思うはずです。

津田 ここで気をつけたいのが、“増やす”ことだけを目的にしてしまうと、自分たちの価値を見失ってしまいがちなことです。企業活動ですから、KPIとか目標がもちろんあると思いますが、まずはその企業が持っている、あるいは大事にしている考え方や価値をしっかり開示して、そこに共感できる人と中長期的に“出会っていく”というスタンスが大事だと思います。

 短期的に獲得したもの、短期的に積み上げたものは、得てしてすぐなくなります。人の信頼を得て、積み上げていくことは、簡単に短期的にできることではないですよね。焦って短期的な結果を積み上げても、結果10年後には何も残らない……ということを、経験を積まれてきた経営者の方ほどよく理解しています。

人は急にファンにはならない

――これまでのお話は、企業と株主がコミュニケーションをとり、お互いにとってより良い方向に進んでいきましょう、という流れにも合致していると感じます。

 現状ではまだまだ企業の個人投資家向けのコミュニケーションは手薄になりがちですが、個人投資家に向けてもしっかり情報を開示していくという流れは、重要になってきていると思います。ファン株主は、中長期的に会社を支えてくれて、本業も応援してくれるという存在ですから、大きな視点で見た時に、会社にとって無視できない存在になるのではないかと感じます。

――ただ企業によっては、ファンのつきにくい企業があると感じます。例えばBtoBの企業は、個人投資家、あるいは生活者とどうコミュニケーションを図っていくべきでしょうか。

津田 BtoB企業でも、その企業の考え方などが好きな人は必ずいると思うので、まずはそうした人を探します。弊社が開発したファンを探すアンケート設問を使用いただければ、探すことができます。仮に100人株主がいれば、そのうち10人から20人ぐらいの人は、「好きだ」といってくれるはずです。その方々が「好き」といってくれる理由、イイトコロをまず聞く。これが基本です。これを着実に行うためにも、直接会ってお話を聞き、企業のどこが愛されているのか、どういう情緒価値や未来価値を感じてくれているのかをしっかり把握する……というのが一歩目になります。

 その後は長い道のりになります。ファンではなかった人が急にファンになることはありえないので、そこはコツコツ地道に、ファンが愛してくれているイイトコロを知ったうえで、ファンの気持ちが高まっていくような施策を積み上げていきます。これがすごく大事なポイントです。ステップとして、まずファンを知るということ。次にそれを活かして施策設計をしていくこと。これが、一番の近道だと思います。ちなみに弊社でも「Fan道」というデジタルサービスを開発・提供しており、「知識」「体験」「交流」などの施策を通じて顧客やファンとつながっていく道のりをサポートしています。

――今後、好きな企業の株を買って応援しようという動きが多くなるかもしれません。

津田 そうですね。コロナ禍でクラウドファンディング市場がすごく盛り上がったこともそうだと思いますが、「応援投資」ということですね。また、“推し活”もすごく盛り上がってきていて、何千億という市場になってきています。今後、「好き」に投資するという流れは加速していくと思います。そうなれば、やはり「ファン株主」も増えていくと思いますし、企業からすれば、そうした方々とつながって、どんどん好きになってもらうということの大事さが、より増してくるのではないでしょうか。

 現代は、あらゆる情報があふれていて、一般生活者に情報を受け取ってもらうこと自体が難しい社会ですが、ファンであり、株主であるという方々は自ら情報を受け取りにきてくれます。企業にとっては、高い確率で情報を届けられる貴重な存在でもあるといえます。その意味でも、「ファン株主」は、ますます注目を集めていく存在になるのではないかと感じます。


「ファン」とは、企業やブランドが大切にしている価値を支持してくれる人。特に津田さんが強調していたのは、気持ちのつながりです。津田さんはこんなこともおっしゃっています。

「基本的にファンベースというのは、顧客の信頼を積み上げていく作業だと思っています。信用と信頼という言葉がありますが、信用というのは過去の成果や実績に対するもの、信頼は未来の行動に対する期待や投資です。すなわち、信用は機能価値で信頼は情緒価値です。いかに信頼を積み上げていくか=情緒価値を積み上げていくかという話なのです」。

「ファン」に着目することで、社会のなかでの企業の存在価値が明確になる。これは、生活者だけでなく「株主」においても同じことがいえると思います。そう考えると、企業の個人株主への眼差しも、情報開示の仕方も、今後大きく変わっていくかもしれません。

 


参考図書
佐藤尚之著「ファンベース—支持され、愛され、長く売れ続けるために」(ちくま新書)
佐藤尚之/津田匡保著(漫画=おぐらなおみ) 「ファンベースなひとたち ファンと共に歩んだ企業10の成功ストーリー」(日経BP)

取材協力
株式会社ファンベースカンパニー