2024年2月9日に配信した第2回対談記事では、アイエックス・ナレッジの歩み、市場における優位性、成長戦略を紹介した。第3回となる今回は、同社の好業績の要因や経営環境の見通し、さらには中期経営計画の基軸となる人的資本経営に焦点を当てる。安藤文男代表取締役社長とストックウェザー「兜町カタリスト」編集長・櫻井英明氏が、これらのテーマについて語り合った。
DX関連ビジネスの拡大で増収増益を達成
櫻井 前回の対談では、御社の事業の軌跡と競争優位の源泉についてうかがいました。なかでも金融証券・情報通信の分野で優れた実績を残されてきた。それを受けて今回は、今後の中長期戦略、特に事業の土台となる人的資本経営について聞かせてください。
まずは足元の業況ですが、2024年3月期は、売上高、経常利益が共に過去最高を達成されましたね。要因はどこにあったとお考えですか?
安藤 現状の受注環境は良好で、コロナ禍を契機としたIT需要の拡大は今後も継続すると見込まれています。ただ、中身を見ると、業務の効率化を目的とした従来のシステム開発が減少する一方で、昨今注目されているビジネス変革に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)関連の開発ニーズが急拡大しています。こうした中で、当社は基本路線としてDX案件への対応力の強化に優先的に取り組んできました。IT需要が活況であることに加え、そうした取り組みを進めてきたことが最大の要因だと考えています。
櫻井 DXという潮流によって情報サービス業界も活況であることがよくわかるお話です。御社はそうした追い風を最適な受注戦略で受け止められたことで好業績につながっているわけですね。ただ他方で、投資家目線で「DX」や「生成AI」というテーマを見た場合、半導体関連などハードウエアのほうが注目されがち。ハードとソフトは一体になってこそ機能するものなのに、あまりソフトウエアは注目されていない。業界全体としては伸び盛りなのに、それが個人投資家に伝わっていないと感じます。情報サービス業界は、自社の価値や業界の将来性をもっと積極的に発信していくべきなんじゃないですか?
安藤 かつてのメインフレームが隆盛だった時代は、ソフトウエアはハードの“おまけ機能”と見られがちでした。いまだにこの業界の注目度があまり高くないのは、そうした歴史的な経緯が尾を引いているのかもしれません。ただ、デジタルによる社会変革が進展すれば、システム開発に対する認識も変わってくるのではないかと期待しています。
櫻井 銀行のATMとか、投資家の皆さんの多くが御社のシステムに触れているはずです。ただ残念ながら社名が入っていないから知られていない。もうちょっと投資家に理解してほしいなと思います。
ITと顧客業務に精通したプロフェッショナル人財育成に注力
櫻井 では、今回のメインテーマである人的資本経営についてお聞かせください。DXや生成AIが産業と人々の暮らしを変革しつつある今、専門的なスキルを持った人材の確保・育成が、業界にとっても御社にとっても喫緊の課題といえるのではないですか?
安藤 確かに、業界全体で技術者は何十万という単位で不足しています。当社では「人財」と表記していますが、文字通り人が当社の宝です。人的資本経営の人財戦略方針では「プロフェッショナル人財育成・リスキリング」を人財戦略アクションプランの柱として設定しました。現在は、DXのプラットフォームであるアマゾンのAWSやマイクロソフトのAzure*などに対応できる技術者の育成に注力しています。
* 共に代表的なクラウドコンピューティングサービス。AWS(Amazon Web Services)はAmazon社が、Microsoft Azureは、Microsoft社が提供している。
櫻井 一口にDXといっても、技術領域は日々拡大し、開発手法も多様化していますよね。
安藤 人財育成において大切なことは、技術に関する知見を磨くことに加え、お客さまやお客さまが属する業界の事業モデルと業務スタイルを深く理解することです。当社の言う「プロフェッショナル人財」とは、この2つを高い次元で兼ね備えた社員を指しています。例えば、金融と物流では業務内容がまったく異なります。当然、システムによって解決すべき課題も、解決のためのアプローチも異なるわけです。高い技術力があっても、お客さまやその業界に関する知識がなければ的確な提案も開発もできません。
多様性ある組織風土がイノベーションを生む
櫻井 確かに、業務を正しく理解していないと顧客企業の課題がどこにあるのかわかりません。顧客企業の“現場”に精通することが不可欠ということですね。その点、御社は、長い業歴のなかで顧客企業との密接な関係を培ってきた。そうした下地がプロフェッショナル人財の育成を後押ししているのではないですか?
安藤 ただ、社員全員が画一的なプロフェッショナル人財に育つのかといえば、必ずしもそうではありません。技術に秀でた者もいれば業務知識に強みを持つ者、またマネジメントで力を発揮する者もいます。そこは、適材適所の人員配置などで柔軟に対応する必要があるでしょう。いずれにしても、当社としては人財育成こそが、サービスのクオリティを高めるうえで最も重要な取り組みだと認識しています。
櫻井 経済産業省が主導する国のデジタル人材育成政策も、人手不足に悩む業界にとっては援護になりますね。経済産業省、厚生労働省、農林水産省などが省庁の垣根を越えてデジタル人材の育成に取り組んでいます。
安藤 育成に加えて、職場環境の整備や多様性のある組織体制の構築に注力することも、当社の人的資本経営の大きなテーマです。人財戦略方針でも「プロフェッショナル人財育成・リスキリング」に加えて、「ダイバーシティ&インクルージョン推進」と「エンゲージメント&職場環境向上」を目標に掲げています。
櫻井 活力ある企業文化を維持していくためには、多様な属性や価値観、バックグラウンドを持った人材を積極的に採用することも不可欠ですよね?
安藤 当社ではアジア系の人財確保に注力しています。また、女性の採用と活躍支援にも力を注いでいます。
櫻井 人的資本経営についての狙いと取り組みを理解することができました。どの業界、企業においても、今は人手不足が大きな課題です。それだけに、投資家は企業の人材戦略に強い関心を持っています。御社の取り組みは投資家が共感できるものだと思います。
ステークホルダーの信頼と期待に応えるために
櫻井 最後に、安藤社長から一言、メッセージをいただけますか。個人的には、情報サービス業は日本になくてはならない基幹産業だと思っていますし、業界の未来は明るいと信じています。
安藤 当社の株主の皆さまは、配当を期待した長期保有の方が多いという印象を持っています。そこで当社では、安定的かつ継続的な配当により株主の皆さまのご期待に応えることを利益還元の基本方針としてきました。今後も長期にわたってご支援いただけるよう、持続的に成長しつづけることを決意しています。
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。大学卒業後、証券会社での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月から現職。幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。
●会社概要(2024年3月末日現在)
概要 | |
---|---|
|
アイエックス・ナレッジ株式会社(略称:IKI) I X Knowledge Incorporated |
|
情報・通信業 |
|
1979年6月 |
|
3月 |
|
東証スタンダード |
|
代表取締役社長 安藤 文男 |
|
11億8,089万7千円 |
|
10,800千株 |
|
1,264人 |
《編集タイアップ広告》