個人投資家のための企業情報Webマガジン

アイアールマガジン IR magazine

  1. ホーム
  2. アイアールマガジン
  3. トップの素顔
  4. 空港の“ベスト・モデル”に挑戦しつづける
空港の“ベスト・モデル”に挑戦しつづける

空港の“ベスト・モデル”に挑戦しつづける

2026年3月19日
9706 日本空港ビルデング
  • LINE

空港運営会社の日本空港ビルデングは、2025年3月期決算で過去最高の営業利益・経常利益を達成した。
中期経営計画「To Be a World Best Airport 2025」の最終年度を迎え、田中一仁社長(61)は2030年を見据えた先進的な空港づくりを加速させる。
本稿では、田中社長の歩みを手がかりに、同社の中長期戦略を読み解く。

 日本の空の玄関口、東京国際空港(羽田空港)——。
 日本空港ビルデングは、羽田空港と歴史を重ねながら成長してきた企業だ。

 同社の原点は1950年代にさかのぼる。1952年、日本の主権回復に伴い羽田空港が米国から返還されたが、当時は民間旅客向けの本格的なターミナル施設がなかった。戦後復興の途上で国家財政が逼迫するなか、ターミナル整備は喫緊の課題となり、政府は財界に対し民間資本による建設を要請した。

 要請を受けて1953年に設立されたのが日本空港ビルデングである。設立後ただちにターミナル建設に着手し、1955年の開館以降は国内初の空港免税店運営などを通じて事業領域を拡大。1991年には東証一部(当時)に上場した。

 社会資本整備で民間資金を活用するPFIは1999年に法制化され、その後に一般化した。だが同社は、それに先立つ戦後わずか8年の時点で、100%民間資本による空港ターミナルビル事業に踏み出していた。まさにフロンティアを切り拓く挑戦だった。

 そしていま、この開拓者精神を引き継ぎながらグループを率いるのが、田中一仁社長である。
 

決めたことは途中で投げ出さない

 田中社長は1965年3月、東京都小平市に生まれた。小学校では野球、中学校ではバスケット、高校ではヨットとスポーツに打ち込み、「決めたことは途中で投げ出さず、粘り強く続ける」という信条を育んだ。学業にも力を注ぎ、中央大学の付属校から同大学法学部へと進学した。

 航空・空港業界を目指した原点はどこにあったのか。

「輸送インフラの要である空港の維持とサービスを手がけるという公共性の高さが魅力的でした。加えて、空港という非日常な空間で働いてみたいという思いもありました」

 羽田空港では、空港管理者である国の機関をはじめ、航空会社、空港機能施設事業者、グランドハンドリング、ケータリング、二次交通など多様な企業が密接に連携し、円滑な運営を支えている。このように多くのプロフェッショナルによって担保される「公共性」に強く惹かれたという。
 
 もう一つのキーワードが「非日常」だ。レジャー需要の高まりとともに、ターミナルビル内の物品販売や飲食も拡大を続けてきた。実際、同社の2025年3月期の連結売上高のうち6割以上を物品販売業・飲食業が占める。空港が単なる発着の場にとどまらず、人びとにとっての“体験の場”になっていることを示す数字といえる。

 では、社長の入社当時に時間を戻そう。
 1987年、田中社長は、新人として成田空港の免税店に配属され、空港ビジネスの最前線でキャリアをスタートさせた。利用客に安全・安心を提供するとともに、旅の高揚感を演出する。その重要性とやりがいを、現場で実感する日々だったと、社長は振り返る。
 

社長として「火中の栗を拾う」

 その後は、経理や経営企画など企業の中枢部門で経験を重ねた。2011年6月に40代半ばで執行役員(経営企画室長)に就任して以降、常務取締役執行役員(経営企画本部長)、専務取締役執行役員、取締役副社長執行役員を歴任。2025年5月に代表取締役社長に就任した。
 ただ、社長就任のタイミングは、2025年5月に発覚した同社子会社の利益供与問題で社内が揺れるさなかだった。田中社長は「火中の栗を拾う」形で、難局のかじ取りを担うことになった。

 新社長として最初に向き合う課題は、不適切事案の再発防止と、ステークホルダーの信頼回復に向けたガバナンスの再構築、そしてコンプライアンスの徹底だ。
 田中社長の言葉からは、個人の力に頼らず、組織として変革を進めるという姿勢がうかがえる。

「日々24時間365日、お客さまの安全と快適のために、職務の遂行に全力を尽くしている社員のことを私は何よりも誇りに思っていますし、これから先も彼らとともに歩んでいきたいと決意しています。また、空港の健全な運営に日々尽力されている社外パートナーとの連携もさらに強化していきます。国の航空政策に基づいて公共的な使命を果たしていく、その原動力は社員一人ひとりの見識と情熱であり、ビジネスパートナーとの緊密な共創だと信じています」

 物販の現場からスタートし、事業戦略や財務戦略を幅広く統括してきた経験があるからこそ、社員やビジネスパートナーの重要性を強く認識しているのかもしれない。
 

空港の可能性を広げる

 日本空港ビルデングは、長期ビジョン「To Be a World Best Airport」の実現に向けて「2030年に目指す姿」を掲げている。現在は中期経営計画(2022~2025年度)の総仕上げにあたる局面だ。

 足元の業績は好調だ。航空需要が回復した2025年3月期の連結決算では、売上高2,699億円、営業利益385億円と、営業利益は過去最高を更新した。
 2026年3月期も、前期を上回る水準での着地を見込む。羽田空港の離着陸数は2025年(暦年)に約49万回、利用者数は9,000万人に達した。日本の航空旅客数も増加傾向にあり、同社を取り巻く事業環境は堅調に推移する見通しだ。2031年度にはJR東日本の羽田空港アクセス線(仮称)の開業も予定され、追い風となる。

 一方で田中社長は、「好調だからこそ次の一手が問われる」と気を引き締める。
 日本が国策として訪日外国人旅行客6,000万人を目指すなか、羽田空港には国際線と国内線の乗継機能の強化など、受け入れ体制の高度化が求められている。将来的には第1・第2ターミナル接続に向け、国による人工地盤整備の調査も本格化しつつある。

 こうした要請に応えるべく同社が掲げるのが、空港全体での最適化を目指す「トータル・エアポート・マネジメント」(TAM)だ。これまで空港運営は、事業者ごとに最適化された運用、個別最適の積み重ねになりやすかった。TAMはそこから一歩踏み込み、関係者が共通のデータを「見える化」し、空港全体のKPI(定時性、待ち時間、処理能力など)を定めて最良の結果を出す、全体最適を目指す枠組みである。

 その第一歩として進めているのが、足元のボトルネック解消だ。例えばランプバスでは、航空会社や運行事業者と連携し、アルゴリズムを用いた配車システム「RBAS」(アルバス)を導入。配車判断の属人性を減らし、需要変動に合わせて配車・運行を最適化することで、繁忙時間帯の遅延を抑制する狙いがある。

 保安検査でも、予約データ等に基づく需要予測を活用し、開設レーン数や要員配置を機動的に調整することで、スループット(単位時間あたりの処理人数)を高め、待ち時間の平準化を図る。
 田中社長は、将来的には二次交通やCIQ(税関・入管・検疫)なども巻き込みTAMを羽田の標準モデルへと磨き上げ、同様の課題を抱える国内の他空港にも広げていくことに意欲をのぞかせる。

 さらに、羽田空港に隣接する研究・開発拠点「terminal.0 HANEDA」では、匂いや音といった五感を通じて快適性を高める試みをはじめ、空港における諸課題を解消し、空港の可能性を広げるための取り組みを異業種の参画企業と連携して検討している。

「羽田空港の利用者数が増加していくなかで、お客さまに最高のひと時をご提供すること、最適な空間設計で混雑や遅延のストレスを緩和し利便性を向上させることの重要性を改めて感じています。快適性と利便性を高次元で調和させ、お客さまやステークホルダーの皆さまからの評価を高めることが、当社の企業価値向上につながると考えます」
 

日本の航空産業の一翼を担う

 日本空港ビルデングは、すでに品質面において対外的に高い評価を得ている。
 羽田空港の旅客ターミナルは、英国 SKYTRAX社が実施する2025年の国際空港総合評価「World's Best Airports」部門で世界第3位を受賞。「World Airport Star Rating」でも世界最高水準の「5スターエアポート」を12年連続で獲得している。

 それでもなお田中社長は、決して現状に安住せず、同社創業時に発露された開拓者精神のごとく、新たな領域に挑戦しつづける。

「2030年までの5年間は、将来の成長投資に備えて『質的成長』に取り組むフェーズと位置付けています。資本コストを意識した経営を徹底し、稼ぐ力を強化する。不採算事業の見直しなどにも目を配りながらキャッシュフローを創出し、株主還元の方針も明確にしていきたい。さらに2040年以降の羽田空港のあり方も見据え、日本の航空旅客数を最大化するというビジョンのもと、当社に何ができるかを若手メンバーと経営が一緒になって考えています。日本の航空産業の一翼を担う存在として、役職員が自覚を持ち、お客さまからもそう見ていただける会社へ——。その輪郭を、この5年間で示していきます」

 空港運営に「これで終わり」はない。安全・安心を守りながら、快適性と利便性を磨き続ける営みだからだ。
 田中社長の手腕と舵取りに業界の内外から期待が集まっている。
 

●会社概要(2025年3月31日時点)

  概要
商号
日本空港ビルデング株式会社
Japan Airport Terminal Co.,Ltd.
業種
不動産業
創業
1953年7月
決算月
3月
市場
東証プライム
代表者
代表取締役社長    田中 一仁
資本金
38,126百万円
発行済株式数
93,145千株
従業員数
314人(2025年9月30日現在)


《編集タイアップ企画》