2022年12月公開のIRレポートでは、代表取締役社長の稲畑勝太郎氏に登場いただき、2022年3月期の振り返りや長期ビジョンの解説、株主還元策についてうかがった。その記事に対し、MIR@I会員アンケートでは2,500件超ものコメントが寄せられた。今回のレポートでは、稲畑社長に再度登場いただき、MIR@I会員から寄せられた質問について話をお聞きした。
※2022年12月公開のIRレポートに寄せられたMIR@I会員コメントを一部抜粋・編集しています
稲畑勝太郎(いなばた・かつたろう)
稲畑産業は、4つのセグメントから成る「化学専門商社」
――「化学専門商社は身近でないため事業理解が難しく感じます。改めて御社の事業および特長や強みを教えてください」(神奈川県・50代・男性)
稲畑勝太郎社長(以下、稲畑) 当社は化学専門商社として、丁寧にかつ細やかに幅広いビジネスを手がけています。そのなかでも、大きく4つのセグメントで事業を展開していることを知っていただきたいと思います。
まずは、売上および利益の5割を占める「合成樹脂」です。家電、日用品、自動車、OAなど幅広い業界に販売しています。このうち、最も力を入れているのが自動車向けです。樹脂の配合や着色などを行うコンパウンド工場を海外で7拠点、フィルム製造工場を国内外で5拠点運営しており、海外売上高比率が68%と高く、アジアを中心に海外で成長しているのが強みです。
続いて、売上の3割を占めるのは「情報電子」です。ディスプレイやデジタル印刷、半導体などの材料を扱っており、今後はより大きな成長が期待される再生可能エネルギーなど最先端分野での部材の需要拡大が見込まれています。
「化学品」は当社の祖業である染料ビジネスが源流です。化学品はあらゆる産業のプラットフォームです。創業以来130年の歴史のなかで培った顧客との関係や専門性を活かし、海外での事業展開に注力しています。
「生活産業」は、医薬品から家庭用品、食品など、より消費者に近いビジネスです。大手回転寿司チェーンなど向けの水産品の加工・販売や、北海道ではブルーベリー農園の運営も行っています。最も収益性が高いセグメントで、情報電子・合成樹脂に次ぐ「第3の柱」として育成しています。
海外事業の拡大を中心に売上高、営業利益は過去最高の見通し
――「2023年3月期の売上高および営業利益は過去最高となりました。その主な要因と今後の見通しについて教えてください」(千葉県・60代・男性)
稲畑 2023年3月期の売上高は7,356億円、営業利益は203億円となり、2期連続で過去最高を達成しました。
ここまで収益を拡大できた要因のひとつとして、合成樹脂事業を中心とした海外事業の拡大があげられます。為替レートがかなり円安水準で推移したこともあり、海外での需要が大きい合成樹脂事業などは収益を拡大しました。海外売上高比率はこの20年で約25%から約60%まで拡大しています。一方、情報電子事業では、主力のひとつであるフラットパネルディスプレイ関連が、市況の悪化や在庫調整などの影響で想定以上に落ち込みました。
2023年度は中期経営計画「New Challenge2023(NC2023)」の最終年度となります。M&Aによる新規連結や円安の効果もあり、売上高8,000億円、営業利益210億円と3期連続で過去最高を更新する見通しです。第3四半期を終えた時点の通期営業利益見通しに対する進捗率は78%まできており、順調に進捗しています。
今後の成長投資のキーワードは、環境・エネルギー・食品
――「数年前から貴社の株主です。ここまで着実に成長していることは理解しています。とはいえ、やはり、さらなる成長も期待しています。今後の注力分野と最近の投資実績について教えてください」(東京都・70代・男性)
稲畑 中期経営計画「NC2023」では、重点施策のひとつに「将来の成長に向けた投資の積極化」を掲げており、M&Aなどを含めた成長投資の機会を探っています。最近では、環境・エネルギー分野や食品分野への投資を実施しました。
具体的には、うなぎをはじめとする農水産加工品の製造・販売や食品包装資材の販売を手がける大五通商㈱の株式を取得し、子会社化しました。 環境・エネルギー分野では、鳥取県境港市などでバイオマス発電事業への参画を決めています。また海外では、東洋インキSCホールディングス㈱と、EV向けリチウムイオン電池用部材を製造・販売する合同会社を米国ケンタッキー州に設立しました。
(クリックすると詳細のプレスリリースに移動します)
これからも株主還元は最重要施策のひとつ
――「貴社は中計で“株主還元は重点施策”と掲げて、累進配当など株主還元の拡充を行っています。今後も、その方針は継続するのでしょうか」(山梨県・40代・女性)
稲畑 株主の皆さまへの利益還元は最重要施策のひとつと位置付けています。
これまでも事実上、累進配当*1を実施していましたが、「NC2023」では累進配当を方針として明文化したことで、「保有するうえで、安心感が違う」と、投資家の皆さまから総じて好意的なご意見をいただいています。
さらに2022年2月には、当社の株主還元指標である総還元性向*2の目安をそれまでの30~35%から、おおむね50%へと引き上げました。現在、次期中期経営計画を策定中ですが、累進配当などの株主還元方針については、継続する方向で検討を進めています。
多くの個人投資家の皆さまに当社グループの経営方針や戦略をご理解いただき、株主として長期に応援いただくことが、当社グループの持続的な企業価値向上の基盤となるものと確信しております。引き続き、当社への変わらぬご支援をよろしくお願い申し上げます。
*1|1株当たりの配当額については前年度実績を下限とし、減配は行わず、継続的に増加させていくこと
*2|総還元性向=(配当金額+自己株式取得額)÷連結純利益×100
「愛」「敬」の人間尊重の精神について
――「IKが愛と敬を表しているのは、何度かIRレポートやIRフェアでお見かけしていて、良い印象を持っております。稲畑社長は“会社の魅力”をどのように考えていますか? 経営者としての考えをお聞かせいただけますか?」(愛知県・50代・女性)
稲畑 稲畑産業という会社を経営していくにあたって、最も大切にしている価値観は、創業期から社是として継承してきた「愛」「敬」の精神です。日々の業務で接する相手はあくまでも「人」ですから、相手をまず人として尊重し接することを、われわれは先輩方の背中から学んできました。この姿勢は若い世代にも引き継がれており、そのためなのか当社の社員は取引先の皆さまから可愛がっていただけることが多いと感じています。加えて、「今はまだ存在しないけれど、何かおもしろくなりそうなネタはないか」といった探求心が旺盛です。こうした人柄や気質は、時代に合わせて事業を広げてきた原動力にもなっています。
このような人間観や理念に基づいた経営が、時代や国境を超えて通用するのか、試されるような場面はこれまでに幾度もありました。厳しい局面にさらされるたびに、私なりに自問自答を繰り返してきましたが、「愛」「敬」の人間尊重の精神は次世代に引き継ぐべき価値観であるという考えに変わりはありません。
●会社概要(2024年2月7日現在)
概要 | |
---|---|
商号 | 稲畑産業株式会社 Inabata & Co., Ltd. |
業種 | 卸売業 |
設立 | 1918年6月10日 ※1890年10月1日 創業 |
決算月 | 3月 |
市場 | 東証プライム |
代表者 | 代表取締役社長執行役員 稲畑 勝太郎 |
資本金 | 93億6千4百万円 |
発行済株式数 | 55,914千株 |
従業員数 | 4,316人※連結・2023年3月31日時点 |
《編集タイアップ広告》