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【連載企画】 日経平均が30万円になるこれだけの理由 第3回

2021/03/26(金)

MIR@I会員限定コンテンツ

2021年2月15日、 日経平均が30年ぶりに3万円の大台を回復した。 2020年3月に新型コロナウイルスの感染拡大を受けて1万6,000円台まで急落したあと急激に値を戻し、 1年足らずの間に約2倍の伸長を達成した。 絶好調に見える日本の株式市場だが、 過去30年間に10倍まで値を上げた米国ダウ平均と比較すると、 日経平均の上昇ペースはいまだ緩慢と見る識者も少なくない。

そうしたなか、 市場関係者や個人投資家の間で、 トルコ生まれの気鋭のエコノミスト、 エミン ・ ユルマズ氏の 「日経平均30万円」 説が注目を集めている。 今後30年は続くと思われる令和の時代に、 日経平均が30万円に到達するという大胆な予測だ。 日経平均30万円の根拠と、 日本経済、 日本企業の可能性について、 エミン ・ ユルマズ氏ご本人に解説していただく。


 

【 第3回 】 時代は変わった! ──「日経平均30万円」への懐疑の声に答える

トルコ出身の天才エコノミスト、 エミン・ユルマズ氏(複眼経済塾 取締役・塾頭)に日本経済の長期展望と日経平均株価の先行きを解説していただく連載インタビュー。 第3回目は、 日経平均30万円に対する個人投資家の素朴な疑問に答えていただきます
 

人口減少局面でも、 生産性の向上でGDPは拡大できる

――  バブル時代を知らない国民が多くなった今、 日経平均が30万円になると聞いても、 にわかには信じられない個人投資家が多いでしょう。 今回は、 日経平均の大幅上昇に立ちはだかる諸要因を取り上げて、 エミンさんの見解をうかがっていきたいと思います。 最初に日本の少子高齢化は、 経済成長にマイナスに作用するのではありませんか?

エミン ・ ユルマズ(以下、 エミン) 少子高齢化に直面しているのは日本だけではありません。 一人当たりGDPが3万円を超えている先進国はもとより、 中国のような新興国でも少子化の流れが加速しつつある。 少子高齢化が世界共通の課題であることをまず押さえておく必要があります。 では少子化は本当に経済成長にマイナスの影響を及ぼすのかどうか。 私は少子化による人口減少が必ずしも経済社会の発展を阻害するとは考えていません。 GDPとは国家のアウトプットで、 それは生産人口と、 一人当たりの生産性を掛け合わせることで計算できます。 つまり、 生産性を向上させることができれば、 仮に人口が減少してもGDPを増やすことができます。

過去数百年、 数次にわたる産業革命によって新たな技術が生み出され、 経済社会の仕組みが大きく変わってきました。 しかし、 どれだけ産業の革新が進んでも、 工業機械を操作する人や自動車や機関車の運行に携わる人が消えたわけではありません。 相変わらず社会の主役は人間でした。 また、 私の母国トルコでは、 オスマン帝国時代に書記や聖職者の仕事(雇用)を守るために国内への印刷機の導入を制限し、 その結果、 産業面や文化面で西洋に遅れを取ったという苦い過去があります。 

視線を現在に転じると、 先進諸国では今、 AIやICTが産業と暮らしのあり方を根底から変えようとしています。 従来の工業化、 情報化と異なるのは、 従来、 人が不可欠であった仕事がAIに置換されつつあるという点です。 極端な例を挙げると、 馬車が自動車に置き換わっても運転者は必要ですが、 自動運転が本格化すると運転者すら不要になる。 逆に言えば、 AI革命が進行する社会では、 人間の頭数ではなく、 一人ひとりの生産性や効率性が問われるということです。 人口が国家の経済規模を決める段階はすでに終わったと言っていいでしょう。 日本はAIやICTの分野で世界の先頭を走っています。 また、 諸工業における知的資産でも他の先進国を凌駕している。 私はそれが令和の経済成長を牽引していくエンジンになると考えています。 

マイルドなインフレで、 日本社会はさらに豊かに

――  日経平均が現在の10倍である30万円になっても、 物価も10倍になれば、 株式の実質的な価値は同じということになります。 エミンさんは今後の物価上昇率をどう予測していますか。 

エミン 令和の30年間に物価が2倍から3倍になる可能性はあると思います。 日本の平成時代、 わが国をはじめとする先進諸国はデフレの進行に悩まされてきました。 日本では国民所得から国民総支出を差し引いた経常収支が常にプラス圏で推移してきました。 また、 中国が安価な製品を大量に輸出する一方、 欧米や日本はものづくりから撤退するようになり、 その流れがデフレスパイラルを加速してきた。 政府・日銀が主導した金利の引き下げや量的緩和もその効果は限定的なものにとどまっています。 しかし、 こうした長引くデフレ環境も、 新冷戦の勃発で崩れつつあるというのが私の現状認識です。 

私たちの日々の生活を振り返っても、 ここ数年、 物価の上昇を実感する機会が多いのではないでしょうか。 スマホなどの通信機器、 各種家電、 自動車などの価格は確実に上昇しています。 世界的な半導体不足と新型コロナウイルスの感染拡大に伴う電子機器需要の増大により、 数年前なら5万円程度で購入できたパソコンがその値段では買えなくなっています。 新冷戦によって世界がブロック化すれば、 中国をはじめとする新興国の輸出が減少するので緩やかなインフレが進行することになります。 

もちろん、 先進諸国は過度なインフレを抑制するため適切な金融政策を講じるでしょうから、 ハイパーインフレが起きる可能性は少ないでしょう。 インフレ率が局所的5%程度まで上がることはあるかもしれませんが、 おそらくは2%前後の穏やかなインフレが常態になるのではないかと見ています。 インフレはお金の価値が減少することですから、 人々は預貯金よりも消費を選好するようになり、 それが経済を回していく原動力になる。 30年後、 マクドナルドのハンバーガーは500円になっているかもしれませんが、 日本経済はその値段が気にならないほど豊かになっているはすです。 

日経平均株価と米国ダウが逆転する可能性も

――  緊急事態宣言の再発令以降、 新型コロナウイルス感染症の新規確認数は減っていますが、 ここに来て減少ペースが鈍化しているのが気がかりです。 この先、 感染症の長期化が日本経済の成長を阻害する恐れはないのでしょうか。 

エミン 新型コロナウイルス感染症の終息時期を明言することはできませんが、 株式市場では2021年の夏頃までには落ち着くとの見方がコンセンサスになっています。 ワクチンの効果も実証されていますから、 今後は感染者数も減少ペースを速めていくのではないでしょうか。 メディアは感染の拡大や医療の逼迫など、 ネガティブなニュースを好んで流す傾向にありますが、 この先、 日本の産業・経済に与える新型コロナの影響は限定されたものになるだろうと判断しています。 

むしろ気になるのは、 売り圧力が強まるのではないかということです。 日米の株価は、 新型コロナウイルス感染症が終息した後の経済復興を織り込んで上昇してきました。 企業業績も最悪期を脱して回復しつつある。 感染症が完全終息したあと、 期待感に押されて株式市場に流入していた投資資金が流出していくかもしれません。 ただ、 相場は調整を挟みながら上昇していくものです。 日経平均株価は、 ドルベースではすでに過去最高値を更新していますが、 超長期のサイクルで見ると、 感覚的には未だ下げ相場の只中にあり、 ようやく再浮上の端緒についたところです。 これからも細かい上下動を繰り返しながら値を上げてゆき、 過去の最高値3万8,915円を超えて始めて本格的な上昇相場に移行するものと見ています。 
米国ダウ平均は連日、 最高値を更新するなど依然として好調を維持していますが、 上昇ペースが急激だった反動で、 次の調整では大きく値を下げることが予想されます。 一方、 日経平均株価は小さな調整を入れながら、 史上最高値をめざして駆け上っていく。 そう遅くない時期に、 ダウ平均と日経平均が逆転するかもしれません。 私も期待をこめて日米両国の株式市場を注視していきたいと思います。 
 

( 第4回に続く )

【 第4回 】 日本に世界の投資マネーが還ってくる 


前回までの記事はコチラ ↓
【 第1回 】  エミンさんってどんな人? 日経平均30万円って本当!?  
【 第2回 】  「新冷戦」の進展が日経平均30万円のトリガーになる !