2021年2月15日、 日経平均が30年ぶりに3万円の大台を回復した。 2020年3月に新型コロナウイルスの感染拡大を受けて1万6,000円台まで急落したあと急激に値を戻し、 1年足らずの間に約2倍の伸長を達成した。 絶好調に見える日本の株式市場だが、 過去30年間に10倍まで値を上げた米国ダウ平均と比較すると、 日経平均の上昇ペースはいまだ緩慢と見る識者も少なくない。
そうしたなか、 市場関係者や個人投資家の間で、 トルコ生まれの気鋭のエコノミスト、 エミン ・ ユルマズ氏の 「日経平均30万円」 説が注目を集めている。 今後30年は続くと思われる令和の時代に、 日経平均が30万円に到達するという大胆な予測だ。 日経平均30万円の根拠と、 日本経済、 日本企業の可能性について、 エミン ・ ユルマズ氏ご本人に解説していただく。
【 第2回 】 「新冷戦」の進展が日経平均30万円のトリガーになる!
トルコ出身の天才エコノミスト、 エミン・ユルマズ氏(複眼経済塾 取締役・塾頭)に日本経済の長期展望と日経平均株価の先行きを解説していただく連載インタビュー。 第2回目は、 日経平均が30万円になる論拠と日本経済の成長シナリオについてうかがいます。
安定市場=日本に向かう世界の投資マネー
―― 日経平均が30万円になるということは、 世界の投資マネーが日本に集中的に流入するということですね。 なぜそうなるのかご説明いただけますか。
エミン ・ ユルマズ (以下、 エミン) 世界の投資マネーの動きを考えるとき、 最も重視すべきキーワードは米中を両軸とした 「新冷戦」 です。 この言葉にはネガティブな印象がありますが、 ホットな戦争にならないという点で、 日本にとっては悪い話ではないと思っています。 米中間に位置する日本の地政学的な重要性が高まるので、 これまで以上に存在感をアピールできる。 また中国も、 日本がアメリカの重要な同盟国だというのはわかっているから、 真っ向から敵対することは避けたいはずです。
日本の地政学的な地位が向上することは同時に、 経済や貿易においても日本の優位性が高まることを意味します。 それが世界の投資マネーを日本市場に呼び寄せる契機となる。 前回の米国とソ連 (ロシア) の冷戦は約40年間続きました。 新冷戦もほぼ同様だと仮定すると、 スタートがシリア内戦やウクライナ危機が生起した2013年から2014年ですから、 2053年頃まで続くことになる。 日本株式市場の上昇サイクルがスタートしたのは2013年頃で、 これは偶然の一致ではありません。 世界情勢が不安定感を増すのと並行して、 世界の投資マネーが安定した市場である日本に向かっているということです。 なかでも年金基金などの機関投資家は、 どのような相場状況のなかでも運用益を求めて投資を続けなければなりません。 個人投資家の何十倍もの資産規模を擁する機関投資家がいま日本市場の成長性に注目している。 今後もこの流れは加速していくものと見ています。
新興国から成熟国へ ── 資金の流れが逆回転する
―― 世界のマネーが日本に向かい始めているとのことですが、 具体的な事例とその背景をご紹介いただけますか。
エミン 近年のトレンドをふたつご紹介しましょう。 ひとつは米国の投資マネーが日本市場に流入していることです。 2020年8月、 世界的な投資家バフェット氏は、 伊藤忠商事、 三菱商事、 三井物産など日本の大手総合商社5社の株式を、 それぞれ時価総額の5%程度取得したと発表しました。 総額6,000億円程度の投資だと見られています。 また米国の代表的なプライベート・エクイティ・ファンド (PEファンド) であるベインキャピタルも、 ここ数年、 日本での活動を活発化させてきました。 アメリカではいま株式市場が過熱化し、 行き場を失った投資マネーが新たな投資国、 投資先を求めています。 米中貿易摩擦の長期化を背景としたチャイナリスクの顕在化により、 そうした資金が中国ではなく日本に向かうようになってきた。 グロース (中国) からクオリティ (日本) への転換が進んでいるわけですね。
もうひとつのトレンドは、 世界の製造業における 「脱中国」 の流れです。 2000年代以降、 世界の経済は中国の生産に大きく依存してきましたが、 その構造が次第に崩れつつある。 アメリカ商務省は2020年12月に中国の半導体大手SMIC社を、 安全保障上の利益に反する企業を列挙したエンティティリストに追加しました。 また2021年1月には、 国防総省が世界第3位のスマホメーカーである中国 Xiaomi 社を国防ブラックリストに追加しています。 半導体については、 台湾の半導体ファウンドリTSMC社が中国に代わって米国向けの生産を担っていますが、 拡大する需要の全量を賄えるわけではありません。 そこでルネサスエレクトロニクスは今年1月に、 TSMCなどに委託していた製品の一部を自社生産に切り替えました。 これはわが国の先端産業が中国から日本へサプライチェーンを戻し始めていることを意味します。
このように新冷戦の進行は、 日本に好景気をもたらすと同時に、 日本株にとっても貴重な追い風になるでしょう。 かつてグローバル資本は、 米ソ冷戦の終結を受けて日本をはじめとする成熟国から、 中国やロシア、 旧共産圏の新興国に軸足を移しました。 投資マネーの流出により日本経済は長期の停滞を余儀なくされた。 同時に、 日本のメーカーも生産コストの安い中国や東南アジアに生産拠点を移転したため、 国内産業の空洞化が社会的な問題となりました。 しかし、 新冷戦はこうした動きを逆回転させていくでしょう。 米中の対立により世界が大きくふたつにブロック化すれば、 資本は簡単には動けなくなる。 自由主義陣営における日本の地位がさらに向上し、 未曾有の好景気が現出することはまず間違いありません。
注目分野は 「コンテンツ」 と 「脱炭素」
―― わが国の景気や株式市場の上昇トレンドを牽引していく存在として、 とくに注目されている業種や産業分野はありますか。
エミン ふたつの業種に期待しています。 ひとつは、 ゲームなどのコンテンツビジネスです。 以前は米国のハリウッドが世界のコンテンツ業界を席巻していましたが、 十数年前から日本発のコンテンツが台頭してきました。 いまでは世界中の人々が日本のアニメやゲームを通じてひとつにつながっています。 またコンテンツの在り方も、 映像から体験へ、 さらにオンデマンドへと進化し、 ゲームの原則やデザインをマーケティングや企業の組織運営に応用する 「ゲーミフィケーション」 が世界の産業と暮らしのなかに浸透しつつある。 コンテンツ分野で日本は強力なポジションを保持していると思います。 さらに近年は、 日本在住の外国人が YouTube などを通じて、 日本の観光地や日本人の生活を世界中に発信し、 膨大な再生回数を稼いでいます。 世界の人びとの日本に対する憧れや関心がかつてない高まりを見せるようになってきました。 平成時代は一般に 「失われた30年」 と総括されますが、 少なくともコンテンツビジネスに関しては世界に日本製のアニメやゲームの素晴らしさを発信することができた 「種まきの時代」だったと捉えています。
もうひとつは、 「脱炭素」 です。 もともと経済社会に省エネルギーの概念を最初に持ち込んだのが日本であるように、 今後の脱炭素の世界的な流れをリードしていくのは日本の政府であり企業であると考えています。 中国はいま世界の製造業で重要な位置を占めていますが、 環境対応の面では日本や欧米に遅れを取っています。 水力、 風力、 太陽光といったクリーンエネルギーの分野で日本は豊富な経験と知見を有している。 脱炭素は先進諸国と新興国で取り組み姿勢に違いがある、 いわば冷戦としての一面を持っています。 脱炭素戦略やクリーンエネルギー革命における日本および西側先進国の優位は当面動かないものと認識しています。
【 第3回 】 時代は変わった! ── 「日経平均30万円」への懐疑の声に答える
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【 第1回 】 エミンさんってどんな人? 日経平均30万円って本当!?
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キャッシュレス時代 日本経済が再び世界をリードする
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