渡部塾長がレクチャーする、 『会社四季報』 (東洋経済新報社、 以下「四季報」 )を活用した有望銘柄の探し方。
最終回となる第4回は、 経済 ・ 産業の最新トレンドと注目企業についてお話を伺いました。
【 第4回 】 加速する日本企業のコスト構造改革
産業社会のパラダイムシフトを牽引するDX
―― 前々回、 前回と、 会社四季報の読み方を中心に教授していただきました。 今回は 「四季報」 の新春号(2021年第1集)をベースに、 私たちが押さえておくべき経済 ・ 産業の最新トレンドについて教えてください。
渡部 最大のトレンドはDX (デジタル ・ トランスフォーメーション) でしょう。 今、 至るところでDXが喧伝されていますが、 情報管理をペーパーレス化する、業務をデジタル化するという文脈で取り上げられることが少なくありません。 しかし、 DXの本質とは、 ICTを駆使して企業のコスト構造を変え、 産業自体の在り方を変えることです。
例えば、 企業の固定費で一番大きいのは人件費ですが、 これには通勤手当も含まれます。 ならば、 リモート勤務にして通勤費をカットしてしまおう、 というのが新型コロナウイルスの感染拡大を受けた昨今の流れですね。 リモート勤務が浸透すれば、 本社や事務所を都心に置く必要もなくなりますから、 地代家賃の削減にもつながります。 また、 従来のテレビを主体とした企業の広告宣伝活動も、 SNSなどのネットに移行しつつある。 さらに付け加えますと、 政府は今、 さかんにスマホなどの料金が高すぎると言っていますが、 DXは通信の改革でもあるので、 そのコストを引き下げない限りデジタル革命が加速しない、 という危機感があるからです。
一方、 変動費に目を向けると、 ネットを活用してメーカーが直接、 受注 ・ 販売活動を行うことで、 販売手数料や外注費を圧縮しています。 DXにはたしかにデジタル技術で業務の効率化を図るという側面もありますが、 重要なことは、 DX活動によって企業や産業のしくみが変わり、 それに従って私たちの生活様式や価値観にパラダイムシフトが起きるという点です。
成長企業の横顔 ── デジタル技術を原動力に新たな市場を開拓
―― DX関連で注目すべき企業はありますか?
渡部 DXはほとんどすべての産業や企業に関係しますが、 そのなかで私が気になっている銘柄をいくつかご紹介したいと思います。
第一は、 ラクーンホールディングス(3031)です。 衣料 ・ 雑貨の企業間電子商取引 「スーパーデリバリー」 を運営しているほか、 企業間の後払い決済サービスやネット完結型の売掛保証サービスも行っています。 ITを基盤とするEC事業、 決済事業、 保証事業を運営することで、 企業間取引の分野で新しいインフラの創造に取り組んでいる。 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、 今、 企業の諸活動 ── 仕入れ、 卸売り、 小売などの非対面化が進んでいます。 また脱ハンコ化や電子承認システムの導入も着実に進展しています。 こうした社会情勢の変化を考えても、 ラクーンホールディングスは時代のトレンドをしっかり捉えた企業と言えるのではないでしょうか。
電子書籍の取次で国内首位を快走している メディアドゥ (3678) も要注目の1社ですね。 書籍や雑誌の取次は、多品種少量という商品特性もあって、 かなり非効率なビジネス形態になっています。 その複雑なシステムを、 電子書籍の普及によって効率化している。 ウィズコロナの社会環境を踏まえても将来有望な企業だと考えています。
仕入や決済などの商取引をデジタル化するのではなく、 販売員や販売スタイルを効率良くできないか、 という斬新な発想で事業を展開しているのが、 コパ・コーポレーション (7689) です。 コパ ・ コーポレーションは、 自社の販売士が卸先企業のテレビ通販番組やインターネットサイトで日用品の実演販売を行うというユニークなビジネスモデルを構築しました。 これまでは、 スーパーの店頭などで 10人程度のお客様を相手に行っていた実演販売を、 そのままインターネットの世界に持ち込むことで、 1万人相手の商売に変えてしまった。 モノを売る力、 たとえば消費者心理を上手に掴んだ歯切れのよいセールストークは、 アナログそのものです。 そのアナログをネットの動画配信というデジタルと融合することで、 従来のネット販売のシステムに楔を打ち込んだ。 そこに、 コパ ・ コーポレーションの革新性があると言っていいでしょう。
四季報で日本経済のポテンシャルを読み解く
―― 最後に、 渡部塾長の今後への抱負と、 本連載を読んでくださっている方々へのメッセージをお聞かせください。
渡部 私が複眼経済塾の前身である複眼経済観測所を設立してから、 約6年が経過しました。 この間、 経済塾の活動や書籍による啓蒙活動が奏功してか、個人投資家の間で 「四季報」 を投資ツールとしてもっと活用しよう、 という気運が強まってきたことを実感しています。 また、 証券会社やマスコミ、 一般企業から四季報の活用法について話してほしいという講演の依頼が、 数多く舞い込むようになってきました。
私がそこで話すのは、 「四季報」 の読み方や使い方、 いわば 「四季報」 という素材の調理方法です。 「四季報」 には日本の上場企業に関するあらゆる情報が詰まっています。 日本の経済 ・ 産業にかかわる森羅万象が掲載されています。 しかし、 情報量が膨大であるがゆえに、 漫然と眺めていても、 そこから有益な情報を汲み取ることはできません。 「四季報」 をどのように調理し、 味わい、 日々の栄養としていくか。 私は今後も、 「四季報」 を基軸に置いた実効性ある投資方法を、 広く発信していきたいと考えています。
昨今、 諸外国から日本企業の労働生産性の低さが指摘されることが多くなりました。 また、 企業の収益性を測る指標としてROE (自己資本利益率) への注目度が増してきました。 たしかに、 ビジネスにおいて無駄を省くことは大切ですが、 高級ホテルのサービスのように効率性だけで語れない、 語ってはいけない分野があることも事実です。 もともと日本には、 上場非上場を問わず、 数百年、 数十年と続いている老舗企業が多く存在します。 長い時間をかけて培った社会的な信用や顧客 ・ 取引先との信頼関係は、 お金には換算できないものです。
個人投資家の皆さんには、 企業のグローバリゼーションやデジタル化といった最先端のトレンドだけでなく、 日本の伝統企業が持つ、 地域社会で築き上げてきたステータスや、 競合の厳しい市場でプレゼンスを維持してきた持続可能性の高さにも注目していただけたらと思っています。
これからも共に、 長期的な視点に立って、 日本企業と日本経済のさらなる発展を応援していきましょう。
〈 完 〉
前回までの記事はコチラ ↓
【 第1回 】 四季報はいかにすぐれた投資ツールであるか
【 第2回 】 四季報はこう読む ~次のテンバガー (10倍株) を見つける方法 ・ 前篇 ~
【 第3回 】 四季報はこう読む ~次のテンバガー (10倍株) を見つける方法 ・ 後篇 ~
https://www.forestpub.co.jp/author/watanabe_seiji/book/B-1877
会社四季報の達人が教える10倍株・100倍株の探し方
https://str.toyokeizai.net/books/9784492733479/