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【連載企画】 会社四季報で有望銘柄を探す! 第3回

2021/02/19(金)

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渡部塾長がレクチャーする、 『会社四季報』(東洋経済新報社、以下「四季報」)を活用した有望銘柄の探し方。

第3回は、 「四季報はこう読む ~次のテンバガーを見つける方法」の後篇をお届けします。 


 

【 第3回 】 四季報はこう読む ~次のテンバガー(10倍株)を見つける方法 ・ 後篇 ~ 

蟻塚の理論 ── 市場別集計で日本経済のマクロを見る

―― 四季報の各ページ上段に掲載されている 「株価指標」 で、 特に重視されている指標はございますか?

渡部 私はPER(株価収益率)よりもPBR(株価純資産倍率)を見ることが多いですね。 PBRは資産価値に基づく指標ですので、 株式の下値を見定めるのに有効ですから。 一般的にPBRが1倍を下回ると株価は 「割安」 と言われますが、 注意してほしいのは自己資本比率が高く、 なおかつPBRが0.7倍以下になっている場合です。 これは財務の健全性が高いにもかかわらず株価が安値で放置されているということなので、 その要因を見極めることが必要になります。

―― 四季報には、 巻頭に市場別の決算業績集計や業種別の業績展望、 各種ランキングなどが掲載されています。 これら諸データのなかで渡部塾長が特に注目されているものを教えてください。

渡部 四季報の第3ページにある 「市場別集計」 は、 毎回しっかりとチェックしています。 これは上場会社3,418社(集計対象企業)の決算数値を合算したものにすぎませんが、 個別企業のデータ (ミクロ) を積み上げていくと市場全体の動向 (マクロ) が分かるという点できわめて有効な情報です。 小さな砂粒を運んでいるアリ一匹一匹を見ても、 彼らが何のために働いているのか理解することはできませんが、 砂粒が集まった蟻塚を見ればアリたちの行動目的や作業の成果が一目瞭然になる。 そういった意味で、 市場全体に着目することを私は 「蟻塚の理論」 と呼んでいます。

ところで2021年新春号の市場別集計では、 今期の売上高が8.4%の減収、 営業利益が14.5%の減益となっています。 しかし来期はそれぞれ7.6%の増収、 32.0%の営業増益と予想している。 つまり日本経済を大きな流れで捉えると、 今は回復局面にあると分かるわけです。 もうひとつ大事なことは、 市場別集計の数値が企業の平均を示しているということです。 つまり、 個別企業の来期予想をチェックする際の基準点として利用することができる。 A社は来期、 10%の増益を予想しているが、 市場平均を大きく下回っているので、 業績の回復力はさほど強くない、 といった評価が可能になるわけですね。

増えてきたポジティブコメント ── 「減益幅縮小」 が252件に

―― 6、 7ページに掲載されている業種別業界展望はどういった点に注意して読めばいいのでしょうか?

渡部 第3ページの 「市場別集計」 で日本経済全体の動向を概観した後は、 業種別の業界展望で、 東証33業種の状況と、 どのセクターが日本経済の回復基調を牽引しているのかをチェックします。

注目するのは、 特に売上高、 営業利益それぞれの 「来期予想」 です。 2021年新春号を見ると、 輸送用機器の営業利益の前期比増減率が今期は69.6%減益で、 来期は314.5%の大幅な増益になっている。 つまり日本経済の急回復を牽引するのが輸送用機器、 とりわけ自動車産業であることが、 このデータから明らかになっているわけです。

また、 業種別の業界展望は第2ページの 「見出しランキングで見る業績トレンド」 と併せて読まれることをお奨めします。 2020年秋号では 「反落」 「続落」 などのネガティブな見出しが目立っていましたが、 2021年新春号では 「減益幅縮小」 が前号の 134から 252に増えるなど、 ポジティブなコメント (見出し) が目立ってきました。 見出しの数で日本企業全体の業績トレンドを大まかにつかみ、 業種別の業績展望でセクターごとの状況を把握 ・ 分析するとよいでしょう。

自動車などの大型バリュー株に復活の兆し

―― 2021年新春号で特に注目されたトレンドや個別企業の動向を教えてください。

渡部 全体のトレンドを理解するため、 私は四季報の本文にどのようなキーワードが登場しているかに注目しています。 たとえば新春号では 「コロナ」 が 1,500件超登場して最多となっていますが、 前号からは30%くらい減少しているのですね。 つまり、 株式市場の動向を探る上では、 新型コロナはすでに最大のテーマではなくなりつつあるということです。

一方、 増加しているキーワードが 「回復」 です。 登場回数は約1,300件で、 前回より約55%増えている。
わが国最大の産業である自動車が好調を取り戻し、 経済 ・ 産業の回復を牽引しつつある、 それが日本の株式市場における現在のトレンドだと言えるでしょう。
また、 自動車などの輸送機器セクターにはPBRが 1 倍以下の企業、 つまり大型のバリュー株が多い。 新型コロナウイルスの影響で出遅れていた大型バリュー株が本来の評価を取り戻しつつある判断できます。

―― わが国の代表的な産業である自動車が、 引き続き回復基調を維持していけば、 日本経済の復興もより確かなものとなりますね。

渡部 その通りです。 景気の循環を考えると、 耐久消費財の動向は比較的安価なスマホなどの通信機器がいち早く回復したあと、 ちょっと高い家電などの電気製品が復調し、 今最も高額な耐久消費財である自動車が回復基調を辿っています。 徐々に高額商品が好調となり、 最後に自動車産業が復調することで日本経済がうまく回り始めることは確実です。

また、 現在は、 自動車産業にとってさまざまな追い風が吹いています。 自動車はローンを組んで買うことが多いので金利の影響を受けますが、 今は世界的な金融緩和により低金利が定着し、 自動車の販売を後押ししています。 また、 今般の新型コロナウイルス感染症の影響で、 「非接触の」 プライベート空間を確保できる自動車が移動ツールの主役となってきた。 さらに原油安によってガソリン価格が下落して自動車のランニングコストが低下傾向にある。 こうした複数の要因が作用して自動車販売が復調し、それに伴ってタイヤやカーナビなどの周辺部品、 周辺機器の売り上げも拡大しています。

自動車関連は膨大な雇用を持つ裾野の広い産業ですので、 その成長がこれから日本経済全体の再生をリードしていくことになります。 昨今は欧州や米国を中心に電気自動車 (EV) の需要が伸長していますが、 米国も日本も膨大なガソリン車のストックを抱えており、 それがすべてEVに置き換わるには20年かかると言われています。 私はコロナ危機以後の経済復興を支えるのは、 ガソリン車、 ハイブリッド車などの自動車ビジネスであると考えています。
( 第4回に続く )


前回までの記事はコチラ ↓
【 第1回 】  四季報はいかにすぐれた投資ツールであるか  
【 第2回 】  四季報はこう読む  ~次のテンバガー (10倍株) を見つける方法 ・ 前篇 ~