2020年9月、住江織物は各種店舗の設計・製造・施工を手がける株式会社シーピーオーを子会社化し、空間設計ビジネスに本格参入した。自動車・車両向けの内装材や伝統あるカーペット事業に加え、新たに空間設計機能を拡充したことで、住江織物グループは持続的成長への新たなステージに足を踏み入れている。創業から138年、長い歴史を刻んできた名門は、どこへ向かおうとしているのか。同社の現況と中長期的なビジョンを永田鉄平・代表取締役社長に聞いた。
永田 鉄平
Teppei Nagata
代表取締役社長
伝統と革新性を併せ持つ 業界の先駆者としての矜持
――はじめに、住江織物の事業の特徴や強みを教えてください。
永田鉄平社長(以下永田) 当社グループは「業界の先駆者としての誇りをもち、和協、誠実、不屈の精神をつらぬく」を社訓としています。
創業から現在まで、この社訓を事業運営の指針として、常に革新的な経営姿勢を堅持し、新たな事業領域の開拓と社会に役立つ製品の開発・提供に取り組んできました。
例えば、1990年には使用済みペットボトルから再生したポリエステル長繊維「スミトロン®」(*1)の開発に成功しました。また1998年には、光や電気を使わずにホルムアルデヒドやタバコ、汗などの生活臭を消す加工技術「トリプルフレッシュ®」を開発、2011年には最大84%の再生材比率を達成した水平循環型リサイクルタイルカーペット「ECOS®」をリリースしています。
当社グループはカーペットを中心とした各種インテリア製品や自動車・公共交通機関向け内装材で盤石の地位を確立していますが、そこに安住することなく、新たなビジネスに挑戦し、世界の人々の豊かな暮らしに貢献しつづけています。
同時に、美術工芸織物の製造も継続し、緞通の伝統技術を次代へと継承してきました。業界の先駆者として、伝統文化の継承と革新的な技術・製品の創造に邁進していることが、当社グループ事業の特徴であり強みであると受け止めています。
*1 下記、住江織物の事業ポートフォリオより「機能資材事業」参照

連結業績は堅調に回復 再びの成長軌道へ
――新型コロナウイルス感染症の影響と、業績の回復状況はいかがですか。。
永田 新型コロナウイルスの感染拡大と長期化により、当社グループの事業も大きな影響を受け、2021年5月期の連結業績は前期比で減収減益を余儀なくされました。
厳しい状況でしたが、2021年下半期を迎え、当社グループ事業に関連のあるインテリア業界において国内の新設住宅着工戸数が回復し、自動車業界も半導体不足の影響があるものの、国内外ともに前年同期を上回るペースで生産台数が伸びてきました。
鉄道・バス内装材は利用者減少の影響が残っているものの、2022年5月期第1四半期は売上高が前年同期を大幅に上回るなど、業績の回復基調が鮮明になっています。総じて成長軌道への早期復帰が視野に入ってきました。
継続してきたESG経営のもと、各事業の業容拡大に注力
――2021年7月、住江織物は中長期経営目標「SUMINOE GROUP WAY 2022~2024~2027」を策定・公表しました。目標策定の狙いと目標達成に向けた戦略をご説明ください。
永田 現在、わが国と世界の経済社会は少子高齢化に伴う労働人口の減少や、ESG/SDGs意識の高まり、DXの加速など、産業構造や暮らしの在り方が根底から変わる歴史の転換期を迎えています。
こうした時代の潮流を的確に捉え、住江織物グループのあるべき姿を追求するため、当時の吉川会長兼社長のもとで中長期経営目標と3年間の連結収支計画を策定しました。これまで当社グループが継続的に取り組んできたESG経営のもと、社会課題の解決に貢献する商材の開発と拡販、そしてグローバルな事業運営体制の最適化にグループ社員が一丸となって取り組むことで、さらなる成長が実現できると確信しています。
中長期目標の達成に向けて、まずインテリア事業においては、環境対応型商材などの高付加価値商品の開発に注力して利益率の改善を図るとともに、2020年9月に子会社化したシーピーオーを中核に空間設計ビジネスの拡充に取り組んでいく方針です。
自動車・車両内装事業は、デザイン性の高い合成皮革製品の拡販や当社の強みである高度な遮音技術を活用した次世代自動車内装の開発といった新たな施策を着実に遂行していきます。
機能資材事業では加工技術や製品の用途開発を加速させるとともに、各部門との連携と営業力を強化させます。
また全事業部門を対象として、当社グループが保有する高度な抗菌・抗ウイルス機能加工技術を活用した新たな商材の開発と市場浸透に力を注いでいく考えです。
ステークホルダーから信頼され、期待される企業グループを目指して
――最後に株主還元の考え方も含め、個人投資家の皆さまにメッセージをお願いします。
永田 2022年4月には東証において新たな市場区分が始動する予定であり、当社グループでも現在、市場選択への準備や施策を進めています。中長期目標のビジョンをマネジメント層と社員一人ひとりが共有し、その実現に向けた取り組みを加速することで、プライム市場への上場を維持できるものと考えています。
株主の皆さまへの利益還元については、安定的な配当と内部留保の充実を勘案しつつ、適正な成果配分に努めることを基本方針としています。2022年5月期の配当金(年間)に関しては、前期より1株当たり35円増配の70円とさせていただく予定です。
当社グループは今後も、最先端の空間づくりを見据えた実効性ある将来投資を実行して企業価値の向上を図り、株主・投資家の皆さまをはじめ、すべてのステークホルダーから信頼され期待される企業グループを目指していきます。なお一層のご理解とご支援を賜りますようお願いいたします。
