日本ゼオンは2030年のありたい姿と、 その実現に向けた中期経営計画を発表し、 ステークホルダーを意識した経営を徹底して持続可能な社会の構築に貢献していくことを明らかにした。 足元の業績も好調に推移しており、 新たな成長軌道の確立に社の内外から期待がかかる。 ゼオングループの将来ビジョンと中長期の成長戦略を田中公章社長に聞いた。
田中 公章
kimiaki tanaka
代表取締役社長
10年間の長いスパンで目指す方向性と戦略を策定
──2020年度に続いて、2021年度も良好な経営状況が続いていますが、要因は何でしょうか。
2021年度は自動車向け合成ゴムが好調を維持していることに加え、光学樹脂、光学フィルム、リチウムイオン電池用バインダーなどの高機能材料関連製品が売り上げを伸ばしています。当社グループはこれまで、独創的な先進技術を駆使して新たな技術と事業領域の開拓・深耕に努めてきました。そうした取り組みの成果が顕在化してきたことに、将来への確かな手応えを感じています。
──2021年度の期初に設定された「2030年のビジョン」についてお聞かせください。
将来ビジョンの検討には、中堅・若手社員も巻き込んで、時間をかけて議論を重ねました。その結果、〝ありたい姿〟として「社会の期待と社員の意欲に応える会社」を打ち出すに至りました。今後10年、持続可能な社会の構築に向けて官民一体となった取り組みが展開されていくでしょう。そうしたなか、ゼオングループがさらなる成長を実現するためには、社会課題の解決に寄与する製品・サービスを拡充し、SDGs(持続可能な開発目標)に貢献していくことが欠かせません。
同時に、成長の原動力でありステークホルダーである社員の意欲に応えることで、闊達な企業文化の醸成に努めていくことも必要です。社員の意欲に応えることが社会の期待に応えることにつながるという信念を「2030年のビジョン」に託しました。10年という長いスパンで目指す方向性と実行すべき戦略・施策を打ち出した点も、今回のビジョンおよび中計の意義のひとつだと考えています。
新中期経営計画で掲げた3つの全社戦略
──今期からスタートされた新中期経営計画の骨子をご説明ください。
新中期経営計画は2030年度までの10年間を見据え、3つの全社戦略を掲げています。
第1が、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーを実現する「ものづくり」への転換です。事業構造の変革を通じてSDGs貢献製品の売上高比率を50%まで高めていきます。
第2の全社戦略は、既存事業の「磨き上げ」と新規事業の「探索」です。高機能樹脂と電池材料を中心に既存事業の競争力強化を図ると同時に、新規事業では重点分野を定めて経営リソースを集中投入し、新規事業の売上高を2019年度比でプラス600億円まで高めていく方針です。
第3の「『舞台』を全員で創る」については、多様性を尊重する企業風土の確立に努め、従業員エンゲージメント75%、外国人/女性役員比率30%を達成させます。
投資計画に関しては、今後10年間に、既存事業の能力増強に2,000億円弱、環境対策・DXなどに約500億円、新規事業に約1,000億円の総額3,500億円の投資を実行する予定です。

既存事業の「磨き上げ」と新規事業の「探索」
──既存事業の「磨き上げ」と新規事業の「探索」について教えてください。
既存事業の「磨き上げ」については、高機能樹脂と電池材料の一層の強化と既存SBU(戦略的事業単位)の勝ち残りに注力します。高機能樹脂ではタイムリーな能力増強投資を継続します。先日(2021年10月28日)は、大型テレビの市場拡大に対応し、敦賀工場の世界最大幅2,500㎜の光学フィルムの製造ラインの2系列目増設を発表しました。また、フィルムの材料となる光学樹脂の新たな生産拠点への進出についても検討を開始しています。
電池材料については、成長著しいリチウムイオン電池市場において、電池の長寿命と高生産性に寄与する新たな製品群などを市場投入して事業基盤のさらなる拡充を図る方針です。こうした取り組みを通じて、2030年度には既存事業のROIC(投下資本利益率)9.0%を達成したいと考えています。
一方、新規事業の「探索」については、CASE ・ MaaS、医療・ライフサイエンス、情報通信(5G/6G)、省エネルギーの4分野に経営リソースを集中することで、新規事業の創出と基盤整備を進めていきます。具体的な一例として、新しく開発した耐熱樹脂を用いたフィルム回路基板やシート系熱界面材料などの早期の事業化・収益化に注力していく計画です。
先駆的なR&Dで企業価値の最大化を図る
──最後に、投資家の皆さまにメッセージをお願いします。
当社グループは長年の間に培った研究開発力を競争優位の源泉として、今日まで着実な成長を実現してきました。今後も総合開発センターを中核に自社開発に注力することはもちろん、私が会長を務めるナノテクノロジービジネス推進協議会(NBCI)と連携してカーボンナノチューブの社会実装に積極的に取り組むなど、先駆的なR&Dを通じて企業価値、株主価値の向上を図り、社会の期待に応えていく考えです。投資家の皆さまには、これまでと同様のご支援を賜りたくお願いいたします。

日本ゼオン 先駆者たちの大地「化学の可能性を社名に託して ~独創の先進技術で未来を拓く~」に続く