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【銀行業】<br />
進行する大きな「変化」から<br />
新しい銀行像を探る

【銀行業】
進行する大きな「変化」から
新しい銀行像を探る

2022年1月1日
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資本規律の欠如が、株価が長年低位に置かれていた要因のひとつといわれてきた銀行業界。ところが現在、政策保有株式売却、株主還元強化、資本規律強化といった動きから、変革へと臨む姿が見えてきている。高宮アナリストに解説いただいた。

高宮 健 氏

高宮 健 氏

野村證券エクイティ・リサーチ部

銀行の今を測る
4つのポイント


 銀行業界は、マイナス金利政策のなかで厳しい資金運用環境が継続しています。さらに他業界からの参入、AI技術の進歩、デジタルマネーの拡大などを受けて変革期を迎えています。こうしたことから、銀行はこのまま減益を続けるイメージを持たれやすいのですが、実態としては異なっています。現状を捉えるには「株主還元」「株価動向」「業績安定性」「業績トレンド」の4つを押さえておくとよいでしょう。

 まず株主還元についてですが、大手銀行は配当利回りが高く、特にメガバンクは2022年3月期の増配を公表しており、配当面では魅力的な銘柄群だといえます。

 株価動向については、金利動向に左右されるボラティリティの高い銘柄であることに留意する必要があります。

 業績安定性の観点では、与信費用比率(*1)の低位コントロールと、株・債券関係の運用収益をボトムラインとしたストックビジネスが安定的に推移しています。

 業績トレンドとしては、前述のとおり、コアとなる資金利益(*2)に対してマイナス金利政策に伴う継続的な下押し圧力がかかっている構造に変わりはありません。

 結論を言えば、2021年度の銀行セクターの利益環境は、コロナ禍による不透明感は拭えないものの、「悪くない」流れで推移しています。

 大手銀行では好調な顧客部門の業務純益、海外子会社の業績回復、さらに与信費用の下振れなどもあり、純利益総額が最高を更新するなど各社増益で推移しています。こうした増益傾向は2022年度も継続することが期待できます。

 地方銀行(地銀)にとっては厳しい環境が続きますが、日本銀行からのプレッシャーもあり、毎年1~3%程度の経費削減を加速させていることを見落としてはなりません。こうした経営基盤強化策に加えて日本銀行が導入した特別当座預金制度もあり、ほとんどの地銀が黒字で、横ばい推移の利益確保ができています。この間にどのような変革を進めていくかが、中長期的な成長に影響します。


*1 与信費用比率=与信費用÷貸出金平残。与信費用とは、「貸倒引当金繰入額」や「償却額」など 
*2 貸付利息や有価証券利息など資金運用で得た収益から預金利息など資金調達費用を差し引いたもの

 

中長期の成長を占う
3つの「変化」


 中長期では「政策保有株式売却」「資本規律強化」「株主還元強化」の3つのテーマに着目しています。

 政策保有株式売却については、日本の金融システムが抱える構造的・歴史的問題といえるものでした。これに対し三井住友トラスト・ホールディングス(SMTH)〔8309〕が安定株主としての政策保有株式は原則すべて保有しないという方針を表明しました。

 資本規律強化については、これまで銀行に欠如しているといわれてきた資本効率性を意識したものであり、株価を上げるファンダメンタルズ材料にもなるのでで個人投資家にもぜひ注目してほしい点です。例えば、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)〔8306〕が資本運営を定量的に示し、追加の株主還元あるいは収益力強化に向けた資本活用実施を説明会資料に明記したことや、米国ユニオンバンクの売却に踏み切ったことなどは重要な変化といえます。

 MUFGが投資家とのコミュニケーション手段として定量的な尺度を明示したことの意義は大きく、こうした銀行サイドの意識の変化が、「株主還元を考えてこなかった銀行は低バリュエーションでも良い」という市場の見方を変える契機となるでしょう。
 

世のなかの「変化」に応じ
ファイナンスの力を生かす


 銀行が置かれている厳しい環境が、各社のコミュニケーションへの意識を変化させています。各社の統合報告書のトップメッセージは、それぞれの社長・頭取の人柄も出ており、自社の問題点を把握し、その対処について時間軸で説明するなど熱意を感じる内容の良いものも多く見られます。個人投資家の方はそこから銀行の変化を感じ取っていただけると思います。

 また、世のなかの動きにやや出遅れ感のあった銀行ですが、サステナブルという観点ではカーボンニュートラルや社会貢献への対応にも変化が見られます。政策的な背景があったものの、これまで石炭火力への融資が大きいという批判を常に受けてきたこともあり、MUFGが宣言したファイナンスを通じた脱炭素化実現へのコミットメントは注目すべきものです。カーボンニュートラルへの対応は今後30年間で100兆ドルの投融資が計画されているといわれており、ビジネスチャンスにつながるものと期待しています。サステナブルファイナンスなどで融資の力を活かせれば、銀行が世のなかを前に動かすカタリスト(触媒)になり得るかもしれません。

 フィンテック企業の新規参入の影響については、長期的には脅威になり得る可能性はありますが、短期的な影響は今のところ見えていません。先進国では、フィンテックの台頭によって大手銀行の経営が圧迫されたといった事例はなく、むしろオペレーション(貸し出し、与信能力など)のインフラや顧客接点の強みがあるため、当面、両者は協調共同しながら歩んでいくと思います。
 

2022年度の
注目銘柄はコレ


 2022年度の注目企業については、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)〔8316〕とMUFGに注目しています。

 SMFGについては、2021年の年初来の株価上昇局面で大手行他社に劣後していますが、2022年にかけて業績モメンタムは堅調で、相対的な魅力度が増しています。2021年度上期決算で増配と自己株式取得をあわせて公表するなど株主還元姿勢を強めているのも好印象です。

 MUFGが新中期経営計画においてROE(株主資本利益率)の低迷に正面から向き合い、財務目標・資本政策について明瞭な方針を示したことは、株式市場で一定の評価を得ています。同社株価は米長期金利の上昇もあり、年初来継続して好調に推移してきましたが、今後は中計に沿った収益性・効率性の着実な改善と資本政策の実行、ユニオンバンク売却に伴う余剰資本の活用と株主還元の姿勢など、これまでの施策の刈り取りの進め方で市場の期待を超えることができれば、株価がさらに上昇する可能性があると思います。

 地銀では千葉銀行〔8331〕に注目しています。置かれている環境に適した戦略により法人顧客を中心にしっかりと収益を上げていること、適切な経費管理を進めつつもDX(デジタルトランスフォーメーション)やキャッシュレスといったトップラインへの投資を着実に実施していることがその理由です。
 
(注)本稿は、2021年11月30日時点の情報に基づく解説です。  
業績表数値の出所は、2021年11月30日時点における「有価証券報告書」並びに「決算短信」。未開示情報は「-」と表記。
なお、「売上高」「経常利益」(共に単位末端の数値を切り捨て)については、IFRS(国際財務報告基準)ならば「営業収益」「税引き前利益」など、各会計基準の類似科目の数値を掲載




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