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【電気機器 民生用エレクトロニクスセクター】<br />
多角化戦略を理解する鍵は<br />
環境問題とデジタル化

【電気機器 民生用エレクトロニクスセクター】
多角化戦略を理解する鍵は
環境問題とデジタル化

2022年1月1日
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主力事業で培ったこれまでの技術を生かして多角化による成長を目指す電気機器民生用エレクトロニクスセクター。多角化戦略により従来のBtoCとBtoBの垣根を越えてきている。こうした多様な事業の中軸となるのが「環境問題」と「デジタル化」への対応だ。同セクター成長の鍵を岡崎アナリストに解説いただいた。

岡崎 優 氏

岡崎 優 氏

野村證券エクイティ・リサーチ部

多角化戦略を舵取りする
ポートフォリオ管理


 世界的に有名な企業が名を連ねる電気機器民生用エレクトロニクスセクターですが、企業研究を行ううえでは、まずその多くが多角化企業である点を押さえておく必要があります。

 例えば、ペーパーレス化が進展し個人の印刷ニーズが減少しているプリンターや、スマートフォンへの代替が進むデジタルカメラなどは、市場規模が縮小基調にある分野です。このように既存製品では苦戦しつつも、そこで培った技術やノウハウをほかの成長分野へと横展開させて多角化を図ることで、各社は成長ストーリーを描いています。

 ですので、一つひとつの事業の成長性よりも、どのような成長戦略で多角化を展開しているのか、どのように事業ポートフォリオを管理しているのかに注目することが重要となります。

 成長戦略について具体例をあげれば、パナソニック〔6752〕は環境問題への貢献を全社統一のテーマにしています。事業ポートフォリオの管理については、事業ごとのキャッシュフローやROIC(投下資本利益率)などのKPI(重要業績評価指標)に注目します。KPIからどのように競争優位性を管理しているのかを確認します。
 

21年度の業績を占う
在宅需要とサプライチェーン


 次に、2021年度決算に影響を与えると思われる足元の要因を見ていきます。注目点は、「在宅需要」の動きと「サプライチェーン問題」です。

 コロナ禍で増大した在宅需要、いわゆる「巣ごもり需要」は、アメリカを中心に依然として高止まりの傾向にあり、各社の業績を牽引しています。ただ、一過性の特需商品も少なくなく、そのピークアウトをリスク要因として念頭に置いてさまざまなデータを見るべきです。例えば液晶パネル価格は、2021年6月をピークに急落しています。これは、液晶テレビなどの一部の在宅需要のピークアウトを示している可能性があります。

 また、半導体不足やコンテナ不足などのサプライチェーン問題には引き続き注意が必要です。半導体不足は、徐々に解消されていくという声もあれば、まだ先行き不透明という声もあり、全体として読みづらい状況にあります。

 さらに、海上輸送運賃の高騰、資源価格の上昇などのコスト負担がのしかかっており、各社とも製品価格への転嫁に取り組んでいますが、これも短期的に見れば業績の変動要因になると考えています。
 

中長期的な成長分野は
環境問題とデジタル化


 このように短期的には不確定要素の多い状況ですが、中長期の成長領域として各社が注力しているのが、ほかのセクターと同様に「環境問題」と「デジタル化」への対応です。

 環境問題対応ではパナソニックが非常に積極的です。
 省エネ技術を活かした家電製品、自動車用のリチウムイオン電池など環境関連領域の事業は以前からありましたが、各事業の競争力をさらに高める目的で組織再編を進めています。これによって各事業が整理され、環境問題への貢献を統一テーマに、各事業部が一層の力を発揮できるようになっています。

 パナソニックで特に注目できるのが、空調関連の省エネ技術です。これまでは需要が伸びていたにもかかわらず十分な成長投資を行えていませんでしたが、新たに「くらし事業本部」として家電や、空調、照明、電気設備、業務用機器などが一体となったことで潜在力が解き放たれる可能性が出てきました。

 家電製品の省エネ需要は脱炭素化の流れのなかで欧米を中心にますます強まっていくと考えられており、パナソニックをはじめ、省エネ技術に強みを持つほかの日本の家電メーカーにとっても大きな事業機会になると思います。

 パナソニックのもうひとつの強みであるリチウムイオン電池に関しては、テスラやトヨタ自動車など業界を代表する企業と密接に取り組んでおり、今後の着実な成長が見込めると考えています。

 2つ目のデジタル化で注目できる企業は、インクジェットプリンターが主力のセイコーエプソン〔6724〕です。足元において在宅需要の恩恵をかなり受けていることから「コロナ特需で良いだけ」と見なす向きもありますが、特需後の成長ストーリーもしっかりと描いています。

 特に同社が「イノベーション領域」としている商業・産業プリンティングの成長が本格化すると見ています。セイコーエプソンのインクジェット技術は、布、プラスチックフィルム、金属といったさまざまな素材にインクを吹き付けることができるため、アパレル、建築資材、食品パッケージ、広告ポスターから将来的にはエレクトロニクス製品や医療機器まで幅広い分野に応用可能な技術として活用機会が増えていくことが期待されています。

 この技術で小ロット生産ができるため、例えばアパレル業界の在庫の大量廃棄が軽減できるなど、環境負荷低減の観点からも有望といえます。さらには、物流リスクへの対処という観点からも、近消費地生産を可能にする技術として非常に期待されています。
 

多くの企業が
デジタル化関連に取り組む


 デジタル化領域では、多くの企業がさまざまな取り組みを行っています。

 キヤノン〔7751〕は4つの新規事業 (メディカル、商業印刷、ネットワークカメラ、産業機器) の強化など事業ポートフォリオの転換に取り組んでいますが、なかでもメディカル事業の拡大に向けてカナダの半導体メーカーであるレドレン・テクノロジーズの買収を発表しました。次世代のコンピュータ断層撮影装置(CT)の実用化などを推進しています。

 キヤノンの子会社であるキヤノンマーケティングジャパン〔8060:卸売業〕も、業種は異なりますが、売上に占めるITソリューションの比率が高まっており、今後の動向は注目です。

 リコー〔7752〕も、グローバルな顧客基盤と保守ネットワークを活用した中堅・中小企業のデジタル化を支援するITソリューション事業の強化を推進しています。

 また、知名度や、売上高、時価総額などの規模は大手企業には及ばないですが、ワコム〔6727〕という会社も要注目だと感じています。同社は、「誰もが内に秘めている創造力を日常生活のなかで、またビジネスシーンで発揮するお手伝いをする」ことを使命に、ペンタブレットの分野で業界をリードしてきた企業です。

 例えば、オンライン教育の進展で、自分の手で書きながら学べるペンタブレットの使用拡大が見込まれています。これなどはまさに同社の大きな事業機会となります。今後に期待が持てる銘柄のひとつです。
 
(注)本稿は、2021年11月30日時点の情報に基づく解説です。  
業績表数値の出所は、2021年11月30日時点における「有価証券報告書」並びに「決算短信」。未開示情報は「-」と表記。
なお、「売上高」「経常利益」(共に単位末端の数値を切り捨て)については、IFRS(国際財務報告基準)ならば「営業収益」「税引き前利益」など、各会計基準の類似科目の数値を掲載



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