アイアールマガジン

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トップの素顔

継承と挑戦――
新たな時代を作るために

牧平 直

牧平 直
Sunao Makihira
代表取締役社長


半世紀ぶりの世代交代で
持続的な成長を目指す


地域密着型の事業運営が求められるクリーニング業界では、これまで中堅・中小企業による群雄割拠の状態が続いてきた。そうしたなか、いち早く全国展開に着手し業容を拡大してきたのが九州・福岡に本拠を置く「きょくとう」である。同社は創業者である牧平年廣氏が長らく経営トップを務めてきたが、2019年3月、子息の牧平直氏が満を持して社長に就任し、新体制がスタートした。業界で数少ない上場企業を預かる牧平社長とはどのような人物なのか。その素顔を追った。

Profile

代表取締役社長
牧平 直
Sunao Makihira
1959年7月24日、福岡県生まれ。87年、きょくとう入社。97年ビッグペリージャパン(きょくとう子会社。99年きょくとうに吸収合併)取締役。2007年取締役開発企画部長、2010年取締役統括本部長兼開発企画部長、2014年取締役営業開発部長を歴任。2015年取締役副社長就任後、2019年3月より現職。

 

創業者・年廣会長のもとで
目覚ましい成長を実現


 牧平直社長の軌跡を語る前に、年廣代表取締役会長について語っておきたい。きょくとうの歴史において、会長の果たした役割と存在感は、比類がないほどに大きいからだ。

 年廣会長は1933年9月生まれの87歳、青少年期に戦争と敗戦、そして戦後の混乱を経験した「昭和1ケタ」世代である。幼い頃から進取の気性に富んでいた年廣氏は大学卒業後の64年、高度経済成長による生活水準の向上を視野に、福岡ベビーランドリー企業組合(78年に極東化学ドライ、80年にきょくとうへ商号変更)を設立した。きょくとうは年廣氏の慧眼のとおり着実に業容を拡大し、拠点ネットワークを広げていく。広島市に工場を建設しているが、現在のきょくとうが保有する中国地方の強固な事業基盤は遠くこの時点に淵源を持つ。また2004年のジャスダック証券取引所への株式上場や、90年代後半から加速する首都圏や関西圏への進出、戦略的なM&Aなど、同社の沿革に画期を刻む取り組みの多くは、年廣氏の陣頭指揮のもとで実行されたものだ。昭和1ケタ世代というと頑固一徹のイメージもあるが、2013年には執行役員に女性を起用するなど、今日の「ダイバーシティ」につながる施策も打っている。年廣氏は64年の創業から社長のバトンを子息の直現・社長に手渡す2019年まで、実に半世紀以上にわたり、同社の成長と隆盛をリードした。
 

2019年、新体制がスタート
きょくとうは次のステージへ


 2019年3月、直氏は代表取締役社長に就任した。年廣氏は代表取締役会長の任に就き、大所高所からきょくとうグループの経営を監督することになった。創業来のリーダーから、いまだ手腕が未知数の新社長へ。同社の歴史上、実質的に初めての体制転換である。社長交代を告げられた時の心境を牧平社長は次のように語る。

 「先代社長の息子ですから、いつかは社長になるだろうと思っていましたし、自分が社長になったら、きょくとうをこのように運営したいという青写真も描いていました。ですから社長交代を申し渡された際も冷静に受け止めることができました。父はゼロから事業を立ち上げ、きょくとうを業界のリーディングカンパニーに育て上げた功労者ですが、事業環境は時とともに変化していきます。会長が残した成果を踏まえつつも、時代の動きに合わせて新たな戦略や施策を実行していくことが欠かせません。経営環境の推移や市場動向を注視しながら、自分のやり方で舵取りをさせていただきますと会長に申し上げました」

店舗開発リーダーとして
業容拡大と事業基盤強化に邁進


 牧平社長は1959年7月、福岡市に誕生した。日本の高度経済成長の期間については諸説あるが、50年代後半から60年代初頭に目覚ましい発展の土台が築かれたことに異論はないだろう。牧平社長はまさに高度経済成長が勃興する只中で生まれ、少年時代を過ごしたことになる。

 高校を卒業すると、西南学院大学商学部に進学し、卒業後しばらく経った87年にきょくとうに入社した。同族企業の場合、経営者一族の者は入社と同時に役員となることも少なくないが、牧平社長は最初の約10年間、現場のリーダーとして主に工場のマネジメントや店舗開発の仕事に従事することになる。入社間もなく広島地区中広工場のマネージャーに着任。地元九州以外の戦略地域で基盤強化に努めたこの時の経験が、社長となった今も経営施策の策定や遂行の面で役立っているという。

 「クリーニング業界は92年にピークを迎え、その後は売上高を緩やかに落としていきます。私は、業界が頂点に向けて急速に成長していく時期に入社したわけです。やればやるだけ結果がついてくる、自分のがんばりが会社の成長に直結する、そうした時代に店舗開発業務に従事できたことを、今も幸運に思っています」
牧平社長はそう語るが、業界の上昇期に若手社員時代を過ごしたということは、裏を返せば92年以降、縮小基調をたどる市場のなかで成長を模索していくことを余儀なくされたということでもある。牧平社長の前途には多くの困難が待ち受けていた。
 

市場が縮小基調をたどるなか
クリーニング需要の喚起に努める


 子会社であるビッグペリージャパン(99年にきょくとうに合併)の取締役、県南地区スーパーバイザー、開発企画部長などを歴任した牧平社長は、2007年にきょくとうの取締役に就任し、グループの経営に参画した。一時期、取締役の任から外れたが、ほぼ一貫して経営陣のひとりとして、開発企画や営業、内部管理を統括していく。2016年には取締役副社長(関東地区担当)に就任し、顧客基盤、事業基盤の拡充に取り組んだ。

「2000年代以降は、少子高齢化の進行や団塊世代のリタイアなどにより、クリーニング需要が減少傾向を示すようになりました。そうした厳しい状況下で、関東、関西、中国各市場の深耕やM&Aなどで持続的な成長を追求するとともに、新サービスを導入し、クリーニング需要の喚起に努めてきました。こうした地道な取り組みの積み重ねが、きょくとうの現在の強みである良好な財務体質や健全経営に結実したのだと受け止めています」
 

会長から社長へ、世代を超えて
受け継がれる先見性と決断力


 市場縮小という逆風のなかで、成長軌道を維持してきたきょくとうグループ。躍進の要因は年廣会長の先見性と決断力だと牧平社長は指摘する。

 「年廣会長は、時代の潮目を読むことに長けています。午前中に出された衣類をその日のうちに仕上げてお渡しするクイックシステムや年中無休の採用、会員システムの導入など、今日業界のデファクトスタンダードとなっているサービス体系も、すべて年廣会長が先駆者として導入したものです。一歩先を見通す先見性と大胆な戦略・施策を断行する決断力が、きょくとうの発展を牽引してきました」

 牧平社長は会長の功績を強調するが、そこに取締役としてきょくとうの経営の一角を担った牧平社長自身の寄与もあったことはいうまでもない。

 牧平社長は代表取締役社長の地位に就くと、矢継ぎ早に新基軸を打ち出していく。2019年3月に新商材として「スニーカークリーニング」をリリースし、専用の水洗機、乾燥機を順次増設、お客さまの利便性向上を実現した。また同年内にはM&Aや工場の新設により関東地区での基盤強化を図り、2020年11月には広島地区でクリーニングの宅配サービスを開始している。
 

健全な財務基盤を強みに、
収益性のさらなる向上を目指して


 牧平社長は、クリーニング業界の先行きをどのように見ているのか。

 「クリーニング市場は、今後も縮小基調で推移するでしょう。しかし生活に不可欠な業種ですから、産業自体が消えてしまうことはありえません。一定の市場規模を維持したなかで、寡占化が進んでいくだろうと見ています。厳しい事業環境に抗する耐力や資金力を持った会社、新たなサービスを通じて潜在ニーズの掘り起こしに成功する会社だけが生き残る時代が到来しています」

 足元の経営環境は楽観を許さない。きょくとうの2020年2月期の業績は、相次ぐ台風などの天候不順と消費増税の影響を受け、前期比で大幅な減収減益となった。感染症の収束時期が見えないなか、2021年2月期も業績悪化に歯止めはかかっていないのが現状だ。しかし、同社には長年をかけて培ってきた強固な顧客基盤があり、健全な財務基盤がある。また、次代の収益源となる新サービスの創出や新市場の開拓にも積極的だ。

 「同業のなかにはリネンやレンタルツールなどに事業領域を広げている企業もありますが、当社は一貫してホーム向けに特化して事業を推進してきました。選択と集中で積み上げてきた強固な顧客基盤と専門的な知見・技術が当社の優位性を担保しています。今後しばらくは収益性の追求を至上命題として経営にあたり、確保した収益を次の事業展開に活かしていきたいと考えています」

 先代社長が築き上げてきた事業基盤と経営資源をしっかりと継承しつつ、清新な感受性で次なる取り組みに挑戦していく。継承と挑戦、それが牧平社長のモットーであり、業界と市場に新風を吹き込む唯一無二のエンジンである。

 

<Episode>
ESGの根幹は雇用を守ること

きょくとうの経営に全力を傾注している牧平社長―─。今最も心を砕いているのが、自社と取引先の雇用を守ることだ。同社は全国に577店舗(2020年8月末日現在)を運営しており、そのうち約200店舗が営業契約を交わしている提携店だ。グループの売り上げ・収益に貢献してきた提携店に対して、政策面と財務面のサポートを行い、事業の存続と成長を支援している。もちろん店舗のサポートは、地域生活の利便性向上にもつながっていく。牧平社長が仕事を忘れてゆっくり休息できるまで、今しばらく時間がかかりそうだ。

きょくとう[2300]

1964年、福岡ベビーランドリー企業組合として福岡で創業。国民生活の向上を追い風に業容を拡大し、本拠の九州をはじめ、関東、関西、中国地方で事業を展開。2020年8月末日現在、提携店舗を含め全国に577店舗を展開する。2010年、株式市場の合併によりジャスダックに上場。2019年、創業者の牧平年廣氏が代表取締役会長に、牧平直氏が代表取締役社長に就任し、新たな経営体制が始動した。2020年2月期の売上高は66億円。グループ従業員数は1,391人(2020年2月末日、パートタイマーを含む)。
 

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