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第2特集 
東証新市場区分へカウントダウン
【解説】新市場移行の全体像


東証の新市場区分では、現行よりも厳しい上場維持基準となるなど、抜本的に変更される。
そこで、東証の新市場区分について詳しい、長島・大野・常松法律事務所の弁護士、宮下優一氏と水越恭平氏に新市場区分の全体像を解説していただいた。

※本稿は、2021年5月7~13日に行った取材を基に編集

各市場のコンセプト

 今回の東証の市場区分の改定は、現行の東証1部・東証2部、東証マザーズ、ジャスダック(スタンダード、グロース)の5つの市場区分を2022年4月4日からプライム、スタンダード、グロースの3つの市場区分に再編するというものです。現行の5つの市場は必ずしもコンセプトが明確ではなく、重なる部分もありました。再編によって、それぞれが独立したコンセプトを有する3つの市場に明確化されるというのが今回の改革の骨子です。

 具体的には、プライムはグローバルな機関投資家の投資対象となりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、さらに投資家との建設的な対話を中心に据えて、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業群を念頭に置いた市場です。

 スタンダードは、投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場です。プライムとスタンダードは、安定的で堅実な利益基盤を持った企業群が想定されています。その意味では、現行の東証1部、東証2部に近いものがあります。

 グロースは、高い成長可能性を実現することを目的にする一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業群を想定した市場です。
 3市場には、上場審査基準、上場廃止基準に「上場維持基準」が加わり、3種類の基準が設けられます。現行では、上場審査基準に基づく審査を経て上場したあとは非常に緩い上場廃止基準さえクリアしておけば上場を維持することが可能でした。新市場区分では、上場維持基準は上場審査基準と原則として共通で、上場会社は上場後も継続して上場時の水準を維持することが必要になります。

 

 また、当該市場区分の上場維持基準に抵触した場合には、例えば現行制度における上場会社の意思によらずに東証1部から東証2部に指定替えとなるような仕組みは設けられず、当該市場区分から退出することになります。したがって、ほかの市場区分への移行を希望する場合、変更先の市場区分の上場審査基準に基づく審査を受け、それに適合する必要があります。

流通株式の定義が変わる

 新市場区分の移行に向けたスケジュールは、まず東京証券取引所から各上場会社に対して、新市場区分の選択に際して必要な手続きや提出書類等が2021年7月9日に通知される予定です。また、2021年6月30日を移行基準日とした上場維持基準への適合状況等についても通知されます。

 この通知を踏まえて、各上場企業は2021年9月1日から12月30日までの期間(選択期間)に、移行日である2022年4月4日に所属する市場区分としてプライム、スタンダードまたはグロースのいずれかを選択し、その旨を東証に申請します。

 選択にあたっては、例えば選択時の市場区分がマザーズで選択先の市場区分がプライム市場に該当するなどといったことも出てくる可能性があります。その場合、東証により選択先の市場区分の上場審査基準に適合するかを確認する審査が行われます。こうしたプロセスを経て東証が上場会社の所属する新市場区分を決定します。そして、移行日に上場会社が所属する新市場区分の一覧が2022年1月11日に東証のウエブサイトで公表される予定になっています。

 

 プライム市場に上場するには、流通株式比率35%以上、流通株式時価総額100億円以上といった条件を満たす必要があります。この流通株式の定義も変わります。これまでは保有比率10%未満の企業が持つ株式にも流通性を認めていましたが、実態を重視する方針に転換されます。つまり、国内の普通銀行や保険会社、事業法人等の所有する政策保有株式については、10%未満を所有する場合であっても、流通株式から除外されることになりました。

 選択市場の流通株式に関する上場維持基準を満たさない上場会社は、少なくとも中長期的に流通株式数を増加させる必要があります。そのための方策として、一般的には流通株式に該当しない前述の政策保有株式などの株主による売却が考えられます。また、上場会社が増資や自己株式処分などのエクイティ・ファイナンスや、自己株式取得および消却をした場合、引受先や取得先の属性によっては、流通株式比率が高まることも考えられます。

 

経過措置で計画書の提出も

 2021年6月30日の移行基準日に選択先の市場の上場維持基準を満たせない上場会社については、経過措置が設けられており、その適用を受けることを希望する場合には、計画書を東証に対して提出する必要があります。この計画書の提出を行った場合、当分の間、「緩和した上場維持基準」が適用されます。

 この「緩和した上場維持基準」は、スタンダードまたはグロース市場が現行の上場廃止基準と同水準、プライム市場では現行の東証1部から東証2部への指定替え基準と同水準とされています。また、「当分の間」という経過措置の適用期間は、各社が新たな市場区分における上場維持基準に対応するための必要な時間的猶予を確保する趣旨とされ、具体的な終期が明記されていません。

 2021年5月12日に公表された「『新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書』作成上の留意事項」で、計画書には次の事項を記載する必要があるとされています。

●上場維持基準への適合状況
●上場維持基準を満たすために想定される計画期間
●上場維持基準の適合に向けた取り組みの基本方針、課題および取り組み内容

 この留意事項には、各上場維持基準に応じた記載のポイントが述べられており、計画書作成にあたって参考になるでしょう。もっとも、流通株式数を増加させるための方策については、投資家の投資判断に影響を与える方策も多く、株主側の意向や判断に依存する部分もあるため、上場会社がストレートに記載することが困難となることも考えられます。ただ、具体的な方策として企業買収などのアクションを起こす企業も増えてくるのではないか、と想定されます。

 計画書は、新市場区分の選択申請の実施にあわせて、東証のTDnet(適時開示情報伝達システム)で適時開示することが必要とされています。また、移行後に緩和した上場維持基準の適用を受けるためには、計画に基づく進捗状況を各事業年度の末日から起算して3カ月以内に開示することが求められています。このため、上場会社は計画の内容や進捗の開示が必要となることも前提に、計画の内容を検討・策定し、実行しなければなりません。

 

選択期間中の情報は要チェック

 新市場区分への移行にあたっては、プライム市場に上場する企業に対して、ほかの市場区分と比較して一段高いガバナンスを求めることとされ、コーポレートガバナンス・コードの改訂が行われる予定です。この改訂では、プライム市場に上場する企業に対して独立社外取締役の3分の1以上の選任を求めるなどの案が示されています。企業側にとっては一層の厳格な対応が求められるでしょう。

 独立社外取締役は、基本的には一般株主のため、少数株主のために行動するという役割を担っています。このほか、ESG(環境・社会・企業統治)の視点で気候変動情報の開示や、女性や外国人の起用など管理職のダイバーシティ(多様性)についての測定可能な目標も求められることになります。

 市場区分の見直しとあわせて行う株価指数改革の全体像も公表されています。東証株価指数(TOPIX)については、現行指数のように東証1部市場の全銘柄を組み入れるのではなく、一定の基準で「選別」する形に見直されます。この選別では、2021年6月末と翌決算期時点で流通株式時価総額が100億円未満の企業を「ウエイト(組み入れ比率)低減銘柄」に指定。2022年10月から段階的にTOPIXへの組み入れ比率を引き下げ、2025年1月末に完全に除外するとなっています。

 前述のとおり2021年9月1日から12月30日までの間に、既上場会社は移行先の新市場区分を選択することになります。個人投資家の皆さんは、この期間における保有銘柄のIR情報をしっかり確認してください。株価に影響を及ぼす情報が発信される可能性もあるからです。


図表1~4、6の出所:東京証券取引所「市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について」(2021年2月作成、同年5月更新)より野村IR作成