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第2特集 
東証新市場区分へカウントダウン
【対談】“投資のプロ”が予測する個人投資家へのメリット/デメリット


第一線で活動するプロの投資家は、今回の東証の新市場区分への移行をどのように見ているのだろうか。
個人投資家の投資行動に及ぼす影響は何か、個人投資家にとってのメリット/デメリットは何か、どういった点に注目すればいいのか。
プロ投資家(証券ディーラー、機関投資家)として、株式から為替、債券まで多くの商品を運用してきた、こころトレード研究所の坂本慎太郎所長に株式アナリストの鈴木一之氏が聞いた。

※本稿は、2021年5月7~13日に行った取材を基に編集

ボーダー企業の動向に注視せよ


──今回のテーマは「東証の市場再編が個人投資家にどう影響するのか?」ですが、私は、直接、個人投資家に影響があるというよりも、まずは機関投資家の動きが変わり、それによって個人投資家が翻弄されるのではないかと思っています。
坂本 2つの側面があげられます。ひとつは、おっしゃるとおり機関投資家への影響です。特に、TOPIX(東証株価指数)の見直し。運用のベンチマークであるTOPIXの見直しは、機関投資家に小さくない影響を与えると思っています。
 もうひとつは、企業側のアクションです。なかでも、プライム市場への移行を目指しているが、上場維持基準のボーダーラインにある企業の動向には注視が必要です。

──運用側と企業側の両方の面が考えられるわけですね。最初に運用側ですが、TOPIXの見直しによる機関投資家への影響と、それによる個人投資家への波及はどのようなことが考えられますか?
坂本 新市場区分でのTOPIXは、いったんは現在のすべての構成銘柄が継続採用され、その後、2022年4月から2025年1月末までの移行期間に段階的に見直されていく予定です。そのため、中長期的な視点でTOPIXがどうなるかを見ていく必要があります。影響としては、流通時価総額100億円未満の銘柄のウエートが減らされていきますから、その分、現在の構成銘柄のなかの小型株の運用が減っていくと予測されますし、該当銘柄の値動きにも当然、影響が出ると考えられます。

──次に企業側ですが注視すべきいわゆるボーダー企業には、どのような動きが予想されますか?
坂本 プライム市場の上場維持基準に「流通株式比率35%以上」があります。実態として流通性が低いと思われる政策保有株式などは、流通株式から除かれます。このため、移行 を望む企業が基準を満たしていない場合は、ファイナンスを実施するはずです。
 例えば分売(立会外分売)や、オーナー企業であれば資産管理会社が保有株を放出するケースなどが増えてくると思います。そうなると株価の上値は重くなりがちです。同じ価格、同じタイミングで購入する投資家が増えることになり、そこに上値を阻む“薄い壁”ができてしまいます。これが懸念材料になるのではないかと思います。

株主優待の新設・拡充が増える?


──東証1部上場の企業の多くがプライム市場を目指すと予想されます。「基準適合のための対策」は具体的にどのようなものが考えられますか?(編集注:2021年6月30日の移行基準日の時点で基準を満たしていない企業は、経過措置としてプライム市場の上場維持基準の適合に向けた計画書の開示が求められる。そのような企業は経過措置期間中に計画に沿った「基準適合のための対策」を実行すると見られている)
坂本
 流通株式比率を満たしていなければ前述のように分売なり増資なりをするしかありません。また、「流通株式時価総額100億円以上」を満たしていない場合は、株主優待の新設や拡充などが真っ先に考えられると思います。株主優待制度を新設・拡充した企業は、個人株主数が増加し、株式の流動性も向上することが知られています。多くの投資家から注目されるほどの好業績が予想され、それによって流動性の向上が期待できるといった企業は、昨今の経済状況では限られるでしょう。基準のクリアのために企業自身が何らかのアクションを起こすとしたら、株主優待制度の新設や拡充が最も即効かつ有効な対策となります。


──報道によると、現在の東証1部上場企業約2,200社のうち約600社が、流通株式時価総額の基準を満たしていないといわれています(2020年12月)。実に、約4分の1に相当する数です。株主優待を新設・拡充する企業がかなり増えそうです。
坂本
 一面においてはそのとおりなのですが、逆に株主優待を廃止や縮小する企業も出てくるだろうと考えられます。株主優待を新設・拡充するケースが考えられるのは、あくまでもプライム市場への移行を目指す企業のなかで、流通株式時価総額100億円未満のボーダー企業の話です。立場の違う企業、例えば東証1部の上場維持基準株主数のクリアを目的に株主優待を実施してきた企業などでは、今後、株主優待制度を廃止するケースが出てくると思われます。実際、2020年11月に東証1部の上場維持基準の株主数が2,000人から800人に減らされた際にも、株主優待制度の縮小を行った企業がありました。プライム市場の上場維持基準の株主数も現行基準と同じく800人ですから、前回の株主数基準の改正時と同様に、市場区分の再編をきっかけとして株主優待の廃止や縮小をする企業が出てくる可能性は十分に考えられます。


──いずれにしろ市場再編は、株主優待の内容変更に大きな影響を与え、さらに株価の動きにも影響を与えるというわけですね。
坂本
 上場維持基準を満たすために破格な内容の株主優待を新設・拡充する企業があったとします。この場合、長期保有志向の個人投資家ほど対応に苦慮することになります。そうした投資家の多くは、長期的な株価の緩やかな上昇を望んでいますが、株主優待によってボラティリティが高まってしまうからです。
 また逆に、企業が株主管理コストの削減などの理由で株主優待を縮小や廃止するとなった場合、それまでのプレミアム分が剥がれ、上昇した分の株価が消失するリスクが生じます。実際に株主優待の縮小が株価下落につながった例としては、市場再編に関するものではないですが、2020年9月にコロナ禍による業績悪化で優待内容の大幅縮小を決定した外食大手チェーンの株価が、その発表の翌日に前日比で約10%も下落したことがありました。

IR情報注視し、今後を予測


──
株主優待だけでなく、配当金にも変化が出てきそうですね。
坂本
 
流動性を高めるためには増配も有効ですから、アクションを起こす企業は出てくると思います。特にバリュー株(割安株)は配当で株価刺激策を打ってくる可能性があります。機関投資家の購買動機にもなりますから、優待の拡充で期待した効果が表れてこないようなら、次の手として配当を考えることになるでしょう。バリュー株はダウンサイド(下振れ)リスクが小さく、その意味で企業もアクションを起こしやすいと思います。


──個人投資家は、今回の市場再編のポジティブな面とネガティブな面 を理解したうえで、保有銘柄のなかのボーダー企業を洗い出し、それらの今後の動きをチェックする必要がありますね。   
坂本
 東証1部企業で人材派遣業のコプロ・ホールディングス[7059]は、流通株式時価総額に関する基準を満たさない見込みを公表したうえで、プライム市場の上場維持基準への適合に向けた強い意思表明をしています(2021年5月6日)。企業が開示するこうした情報を見落とさないよう注意が必要です。


──
現在の東証2部上場の企業にも流通株式時価総額が100億円超の企業はあります。そうした企業は、将来的にプライム市場に入る可能性もあるのではないでしょうか。
坂本
 
これまでの東証1部へ上場することのメリットとしては、直接金融でファイナンスできることはもちろん、それ以外にも人材が採用しやすくなるなどさまざまな副次効果がありました。飲食チェーンなどの一般的に人材採用が難しい業種の企業ほどプライム市場に移行したいと強く思っているはずです。


──最後に読者へのメッセージをお願いします。

坂本
 
繰り返しになりますが、プライム市場への移行でボーダーラインにある企業は要注目です。そうした企業から発信されるIR情報を注視して、今後の動きを予測することです。この変化を的確に捉えられれば、きっと株式投資の醍醐味を得ることができると思います。