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  5. 第2特集 アフターコロナ/ウィズコロナ時代の投資環境

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Contents
大恐慌以来の世界経済の落ち込み ─ グローバル企業は逆境に
           野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト 木内登英
変化に柔軟に対応する企業を探す ─ 長期シナリオが成功のカギ握る
        野村證券 投資情報部 エクイティ・マーケット・ストラテジスト 小高貴久



はじめに ――― コロナ禍の今、先んじて“アフター”と“ウィズ”を考察する意義
 世界の経済、社会に深刻な影響を及ぼしている新型コロナウイルスの感染拡大。経済においては、大恐慌以来最悪の不況に陥る可能性も指摘される。社会的影響においても、対人接触制限などによって消費者志向は変容し、テレワークを導入する企業も拡大した。もはや、「アフターコロナ」が以前と同じ状態に戻ることはないし、むしろ「新しい生活様式」を取り入れてウイルスとともに生きる「ウィズコロナ」に対応していくほうが賢明なのかもしれない。

 そうしたなかにあって、個人投資家はどのような心構えで投資に臨んでいくべきなのか。コロナ禍における投資のありようを、エコノミストやストラテジストはどのように見ているのか。野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏、野村證券投資情報部エクイティ・マーケット・ストラテジストの小高貴久氏のお二人に登場いただいた。

 木内氏には、コロナ禍が世界や日本経済に及ぼす影響から国内の産業構造、さらには消費行動や働き方が変化するなかでの投資の着眼点を、また、小高氏にはコロナ禍における投資環境の変化と有望セクター・ビジネス、銘柄選定のポイントなどを聞いた。

※本稿は、2020年4月27~30日に行った取材を基に編集



大恐慌以来の世界経済の落ち込み
――グローバル企業は逆境に――

 木内登英氏インタビュー



野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト
木内 登英 氏
Takahide Kiuchi  

野村総合研究所 金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト。
1987年、野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属。ドイツやアメリカで欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍。経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任。20177月より現職。

2020年の成長率はマイナス6%程度


──新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済、日本経済の悪化は避けられないと思います。どのように見られていますか?
木内 大恐慌以来、最も深刻な世界経済の落ち込みになるのは確実です。日本経済も、リーマン・ショックの時以上に悪化するのは避けられません。ただし、短期的な悪化にとどまる可能性もあります。問題なのは、一時的にどれだけ悪化するかではなく、それを契機に経済のトレンドが下降してしまうのかどうか、こちらのほうが重要ではないかと思います。

 リーマン・ショックの時には一時的に経済が悪化しただけでなく、その後、世界経済は潜在力を失ってしまった。つまり、一時的な悪化にとどまらなかったのです。これが大きな問題でした。

──IMF(国際通貨基金)も2008年の世界金融危機より「はるかに悪い」状況だと指摘しています。
木内 IMFは去る4月14日に最新の世界経済見通し(WEO)を公表しました。世界のGDP(国内総生産)成長率はリーマン・ショック後の2009年が-0.1%だったのに対し、2020年は-3%の見通しです。おそらくこれをベースシナリオとしたうえでもっと悪化すると判断しており、成長率見通しがさらに下方修正される可能性は十分あるでしょう。日本の2020年の成長率見通しは-5.2%とされました。リーマン・ショック時の2009年の成長率マイナス5.4%とほぼ同水準です。先進国・地域の成長率は-6.1%でした。日本の成長率も下方修正される可能性が高く、世界GDPの落ち込みと同様に-6%程度になるのではないでしょうか。

 IMFは世界経済の3つのリスクシナリオを提示しています。


(出所)国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し(WEO)」より

──どういったシナリオでしょう?

木内 第1のリスクシナリオは、2020年中に各国は感染拡大を抑制できるが、それに要する時間がベースシナリオの1.5倍となる場合です。この第1のシナリオでは、2020年の世界GDPの成長率は、ベースシナリオよりも3%下振れる。つまり、-6%程度になるというものです。現状では、それに近い下振れ数字になると見ています。

 第2のリスクシナリオは、ベースシナリオと同様に2020年中に各国は感染拡大を一度抑制できるが、2021年に再び感染拡大が生じてしまう場合です。拡大の程度は2020年の75%程度とされます。第2のリスクシナリオの場合には、ベースシナリオで2021年の成長率は+5.8%とされているのですが、これが5%程度下振れる。つまり、ゼロ成長に近づくのです。

 第3のリスクシナリオは、第1と第2が同時に生じるというものです。2020年中の感染拡大の抑制に要する時間が長くなるうえ、2021年に再度感染拡大が生じてしまう場合です。この第3のリスクシナリオの場合には、2021年の成長率はベースシナリオよりも8%下振れて2年連続のマイナス成長となります。

 現状では、第1のリスクシナリオになると見られています。

47兆円の個人消費が消失


──日本のGDPの低下も避けられませんね。
木内
 問題がすぐに解決するわけではなく、一時的に需要が大きく落ち込んだあとも弱い需要は続きます。人々の行動は緩やかにしか戻っていきませんから、回復は世界も日本もL字型です。その間に失われるGDPはかなりの大きさになるでしょう。

 日本国内での緊急事態宣言は当初、7都府県で発令されました。緊急事態宣言から1カ月間で同区域の個人消費は6.8兆円減少し、それだけでも2020年のGDPは1.2%低下すると見ています。実際には、4月16日に緊急事態宣言の対象区域が全国へと広げられました。全国で不要不急の消費が控えられたことで、同じく1カ月間で個人消費は13.9兆円減少し、2020年のGDPは2.5%低下を見込んでいます。

──
きな消失です。 
木内
 個人消費抑制がGDP成長率に与える影響を試算すると、4~6月期の実質GDP成長率は前期比年率-8.5%となります。実際の4~6月期の実質GDP成長率は、この影響にインバウンド需要や海外向け輸出の減少の影響などが加わることで、年率20%台のマイナス成長になると見込んでいます。

 7月から9月にかけて緊急事態宣言が完全解除されたとしましょう。全国での消費抑制が緊急事態宣言下の4分の1程度の水準と仮定すると、4~6月期、7~9月期の半年間で、47.0兆円の個人消費が失われ、それによって2020年のGDPは8.5%低下する可能性もあります。 

──与える影響は甚大です。 
木内
 日本の実質GDP成長率は、2019年10~12月期から2020年7~9月期まで、4四半期連続で前期比マイナス成長となる可能性が高いといえます。中国が前期比マイナス成長に落ち込むのは1~3月期、欧米では1~3月期、4~6月期にそれぞれとどまり、その後はプラスに転じていけるのではないかと見ています。これが日本との大きな違いで、日本のマイナス成長の期間はかなり長くなってしまう可能性もあります。
 

(出所)世界銀行

──なぜでしょう?
木内
 日本の新型コロナ対策は、感染抑制に加えて経済や社会の安定維持にも配慮するため、中国や欧米と比べると緩やかな規制にとどめられています。その反面、規制される期間が長めになるという特徴があるからです。

 マイナス成長の期間が長く続くことで、中小零細企業の体力を削ぎ、事業継続ができなくなるリスクを高めることにもなるでしょう。長期間に及ぶことで、個人への打撃もより大きくなる可能性があります。

グローバル化の巻き戻しも


──
国内の産業構造も変化を余儀なくされるのでは?
木内
 
政府は、企業による生産拠点の海外から国内への回帰を後押しする費用などとして2,400億円を緊急経済対策に盛り込んでいます。オイルショックなど、かつてはさまざまな危機が産業構造転換の契機となりました。例えばオイルショックによって日本の省エネ技術が発展するなど、それらはある意味で前向きの側面もありました。ただ、今回の新型コロナウイルスの感染拡大がもたらすものは、かつてのように発展的な構造変化というわけにはいきません。

 最も懸念されるのは、グローバル化の巻き戻しが起きやすいという点です。日本は戦後一貫してグローバル化を進め、2000年以降は中国へも積極的に進出して、現地での生産や部品調達を活発化させてきました。そうしたグローバル化が後退していく可能性がある。企業がグローバル化のリスクを意識するようになったということです。

──具体的には?
木内
 海外オペレーションのリスクがきわめて高いことが意識されるようになりました。例えば、中国では突然、自動車や衣料などの生産が停止を余儀なくされ、生産再開も中国政府の意向で決まってしまう。マスクや自動車部品の供給が滞るなど、サプライチェーンの脆弱性も浮き彫りになりました。中国に生産を依存していることのリスクが明らかとなったのです。中国など特定の国に生産が一極集中している製品や部品について、生産拠点を国内に回帰させるという動きが強まってくるのは避けられないでしょう。



──
大きな変化ですね。 
木内
 生産拠点の国内回帰の動きは、最も大きな産業構造の変化になると見ています。これが行きすぎると、グローバル化や自由化に逆行してしまう。海外で生産したほうがコストは安く、また国内で生産する場合でも海外の部品や材料を使ったほうがコスト低減が図られるのはいうまでもありません。それらを国内に移管すると、最終的にコスト増分が消費者に転嫁され製品競争力も失われます。国内回帰が進むことで、輸出入が落ち込み世界の貿易が縮小してしまうことも懸念要因です。国家戦略としてある程度の国内回帰は必要ですが、それが産業界全体に広がらないようにすることも重要になるでしょう。

──過剰な国内回帰はむしろマイナスになると……。
木内
 特定の国に生産が一極集中している製品や部品について、生産拠点を国内に回帰させることは確かに重要です。だからといって、それが行きすぎれば世界の貿易は縮小し、世界経済のモメンタムも悪化するのは明らかです。そうしたリスクに配慮する必要があるでしょう。さらにいえば、保護主義的な圧力が強まる可能性があります。アメリカでは、エネルギー産業のシェールガス企業を守ろうという動きがトランプ政権で強まっています。景気が悪化すると、自国の産業を保護して輸入制限をし、関税を引き上げることになります。それによって、ますます世界経済は深刻な打撃を受けることになるのです。


──自由貿易が阻害されるのは世界経済にマイナスです。   
木内
 日本は自由貿易のリーダーであり、国内回帰を過剰に煽るのは避けなければなりません。日本は自由貿易を堅持する姿勢を貫き、特にアメリカに対して主張していくべきでしょう。日本の役割は、国際政治・政策の面でも重要性が増してくると思います。

デジタル化の動きが加速


──今後の政治・行政はどう変わっていくのでしょう?
木内
 世界の各国が、新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込もうと必死に取り組んでいます。韓国では2020年4月中旬に総選挙が行われ、革新系与党が圧勝しました。文在寅政権の新型コロナ対応が評価された結果でした。アメリカのトランプ政権は評価を落とし、日本の安倍政権は微妙なところがありますが、問題は政治が内向きになることです。内向きになると、外交問題が後回しになってしまいます。新型コロナ対策に傾注することを余儀なくされた結果として、外交が疎かになる。各国共通の大きな問題といえます。
 


──国内では給付金の問題がありました。
木内
 
減収世帯に30万円を支給する措置が撤回され、2020年度補正予算で国民1人当たり一律10万円の現金給付が決まりました。ただ、海外との比較でいわれているのは迅速性です。背景にあるのは、個人の所得を行政が把握できていないという問題です。マイナンバー制度も中途半端です。マイナンバーカードに銀行口座の情報が紐づいていれば、例えば
所得が20%減れば、その半分は補填しますといったきめ細かい政策が打て、しかもそれが即座に給付されたでしょう。マイナンバー制度は、個人情報を把握されるという点からプライバシーに敏感な層の反対もあり、実現が遅れていました。もちろん、プライバシー保護の問題に注意を払う必要はありますが、所得と給付の一元化、あるいはリアルにそれを捕捉できるような仕組みが重要視されるようになったのは確かです。


──
今回のコロナ危機によって、多くの国民がそれに気づかされました。
木内
 デジタル化の動きもクローズアップされるようになりました。行政の手続きや民間の契約で根強く残る「対面・紙・ハンコ」をデジタル化する動きが新型コロナウイルスの感染拡大を機に加速しています。

 そういったなかで、デジタル通貨の利用が広がる可能性もあります。所得内容がデジタル化されて捕捉されることで、給付も迅速に行われるというわけです。また、現物としての紙幣や硬貨は、感染のリスクが高いことで敬遠されています。デジタル通貨が広がる背景でもありますが、キャッシュレス化が進み、スマホ決済などがさらに拡大していくことになるでしょう。これは、消費行動の変化にもつながります。

 

(出所)内閣府「2015年度国民経済計算年報」民間最終消費支出:名目
(一社)日本クレジット協会調査

(注)クレジット:2012年までは加盟クレジット会社へのアンケート調査結果を基にした推計値、2013年以降は指定信用情報機関に登録されている実数値を使用。
デビット:日本デビットカード推進協議会(J-debit2016年以降は日本銀行レポート。
電子マネー:日本銀行「電子マネー計数」


──巣ごもり消費も拡大しています。 
木内
 ネットショッピングや内食需要は拡大し、オンラインで映画やドラマを楽しむニーズも広がりを見せています。ただそれらのなかには、新型コロナウイルスの感染拡大の収束で、縮小する需要もあれば、持続する需要もあるでしょう。外出自粛が緩和されることで外食や小売りの客足が戻り、映画館や劇場へ足を運ぶファンも出てくるはずです。その分の巣ごもり消費は減少していくと思います。

 とはいえ、感染リスクへの不安がゼロになるわけではありませんから、巣ごもり消費はコロナ危機前よりは高まると見ています。
 

BCP対応のテレワークが不可欠


──外出自粛でテレワーク(在宅勤務)も進んでいます。
木内
 以前からテレワークは通勤時間を減らし、精神的苦痛を軽減させるといったことを理由に推進がうたわれていました。今回は、そうした前向きな動機からではなく、否応なしに導入した企業が多数です。それでも実施割合は2割程度にすぎません。テレワークは労働時間が延びることで効率が落ちるといったマイナス面も指摘されていますし、設備や制度の面で実施できる環境が整っていない企業も少なくないからです。特に制度面で問題となるのは、従業員の仕事をどのように管理し、評価するかです。今後、テレワークが定着するようであれば、パフォーマンス重視のジョブ型の労働スタイルが求められるようになるでしょう。ジョブ型労働は、効率的で創造力も活かされます。ジョブ型の社員が増えれば、企業の生産性向上や創造的な活動につながっていくでしょう。

 


──
テレワークは働き方改革の切り札にもなりそうですね。
木内
 テレワークは働き方改革における業務効率化の観点と通勤による人の移動を減らして感染拡大を抑制する観点に加え、BCP(事業継続計画)の観点から見ることも欠かせません。多くの日本企業では、BCPの観点が見落とされていると感じます。日本にオフィスを構える外資系金融機関では、3月の時点ですでに分散通勤を導入しています。感染者発生による業務の停滞を避けるため、ひとつの部署の社員構成を、自宅で働くテレワークの社員、本社で働く社員、東京以外のサテライトオフィスに勤務する社員の3つに分けています。


──
コロナ危機でBCPの重要性が見直されるということですね。
木内
 日本企業は、BCP対応としてのテレワークやリモートワークをもっと進める必要があります。その意識はすでに芽生えてきていて、コストはかかるが強化する必要があるという認識も広がっていると思います。

内需型企業には追い風に


──個人投資家は今後、どのような着眼点で投資すべきでしょうか。
木内
 アフターコロナ・ウィズコロナでも、どこに消費が向かっているのかが大きな着眼点になるのはいうまでもありません。事態が収束しても、消費者の外出を伴う行動が完全に元に戻ることはないでしょう。その意味では、先ほども触れた外食やエンタテインメントといった分野は長期にわたって市場縮小を余儀なくされるかもしれません。

 さらにグローバル企業でも、その一部は苦境を強いられるでしょう。すでに航空業界は世界的に救済モードに入っています。資金繰り問題が表面化した航空会社の国有化の動きが世界的に見られ始めています。グローバル企業のうち航空、エネルギー、自動車などは業績悪化が避けられず、投資には慎重な姿勢が望まれます。また、国有化などによって政府の介入が強まると、民間経済の活力を削ぐリスクもあります。実体経済が一段と悪化し、それが金融危機にまで波及する可能性もある。そうしたリスクを意識しながら投資を考えていくことです。(終)

変化に柔軟に対応する企業を探す
―長期シナリオが成功のカギ握る―

 小高貴久氏インタビュー




野村證券 投資情報部 エクイティ・マーケット・ストラテジスト
小高 貴久
Takahisa Odaka

 

野村證券 投資情報部 エクイティ・マーケット・ストラテジスト。
日本の経済・財政・金融動向、内外資本フローなどの経済・為替に関する調査を経て、2009年より投資情報部で各国経済や為替、金利などをオールラウンドに調査。現在は日本株に軸足を置いた分析を行う。

デジタル化の顕著な進展


──コロナ禍によって投資環境はどのように変化したのでしょうか。

小高
 足元の株式市場の動きを見ると、3月に市場の混乱がありましたが、その後は落ち着きを取り戻しているといえます。リーマン・ショックの経験を踏まえて、政府当局が巨額の財政出動を機動的に行っているからでしょう。株式市場は先を読んでそれを株価に織り込むのが常です。新型コロナウイルスの感染拡大は終息まで長い時間を要すること、あるいは第2波、第3波が襲う可能性も市場はすでに織り込み済みだと見ています。


──
市場が大きく混乱することはないということですね。

小高
 注意しなければならないのは、世界第1位のGDP(国内総生産)を持つアメリカの動向です。同国のGDPの7割を個人消費が占めるので雇用統計の数値に要注目です。仮に失業率20%といった数値が長く続くと、成長性を欠く世界になってしまいます。雇用は悪化し、結果、所得も減少、個人消費も減退するからです。トランプ政権の所得補償などで担保はされていますが、マインドが変わるかどうかがカギです。1年から1年半のタームでの株式市場を考えるうえで重要なポイントと見ています。



(出所)IMF(国際通貨基金)


──アメリカ政府の財政赤字を懸念する声もあがっています。
小高
 財政出動の急増によって、そうした声があるのは事実です。しかしインフレで貨幣価値が下がり、財政維持が不可能になるような金利上昇が起きない限り、今それを心配しても仕方ありません。コロナ危機による経済・社会の崩壊を食い止めるために、政府当局にはあらゆる対応を迅速に進めることが求められています。時間が経過することで自然治癒するわけではなく、「時間が味方しない」待ったなしの状況です。


──
アメリカでは、グローバル化が後退しているようにも見えます。

小高
 米中貿易問題や新型コロナウイルスの感染拡大を間近に経験してしまったための一部の揺り戻しの感傷にすぎない、と捉えています。

──こうしたアメリカの変化は世界にも影響を与えていきますか?
小高
 製造業では、グローバルサプライチェーンのあり方が、米中貿易問題、さらに今回のコロナ危機を受けて、特定国への一極集中から国内外での適材適所の生産体制に移行してきていると見ています。

 またデジタル分野では、ローカルとグローバルの両面が同時に進展していくと見ています。地域の隅々でデジタルデータの利用が広がるとともに、グローバルに情報がやりとりされていくでしょう。


──
世界的にデジタル化が進む契機になっているということですか? 

小高
 もちろんです。デジタル化が大きく進展していくなかでは情報のあり方も変わっていきます。今回のコロナ危機により、個人情報の保護を前面に出すよりは、一定のルールのもとでもっと活用していくべきという議論が盛り上がっていくはずです。

 例えば、給付金の早期支給や感染情報の位置確認など、さまざまな課題が表面化しました。情報流出リスクなどもあるでしょうが、スマホなどのモバイル機器が個人の行動の起点となる。そういう変化を感じています。

新フェーズに入るという認識を


──個人投資家はどのような心構えで臨むべきでしょうか。

小高
 冒頭でも述べたように、変化のなかでも基本は変わりません。株式市場は、将来の企業のキャッシュフローや利益見通しを反映して価格が形成されるからです。現時点で、アフターコロナ、ウィズコロナの経済・社会環境を決め打ちすることはできません。市場環境の一段の悪化を想定しつつ、柔軟に対応する必要があります。いずれにしても元の世界に戻るのではなく、世界の仕組みが新しいフェーズに入るのだという認識を持つことです。最終的に企業は、どんな環境下でも業績を拡大していける強みとビジネスモデルを持っているかどうかで評価されるのです。


──
基本を忘れないことが肝要だということですね。

小高
 これまでと比べ、情報の拡散力はケタ違いに大きくなっています。SNSの普及拡大により、インフォデミック(ネットでうわさやデマも含めて大量の情報が氾濫し、現実社会に影響を及ぼす現象)という新語も誕生しています。インフォデミックに惑わされず、あくまでも基本に忠実に行動することです。


──
長期的目線がより重要だと?
 

小高
 短期は不確実性が高まるため、より長期の目線が重要になります。分散投資を基本に、余力があるなかでの投資を続けるべきです。長期的目線でいえば、ESG(環境・社会・企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)などはひとつの着眼点となります。


──
日本国内の先行きもさほど悲観的になる必要はありませんね?

小高
 国内メーカーの先行き予測をまとめた「製造工業生産予測指数」経済産業省)によると、4月は前月比1.4%の上昇を見込んでいます。自動車や機械の戻りは鈍いものの、スマホに使用される電子部品などの出荷が増えると予測されています。

世界経済の回復では、中国が先行しています。自動車大手は中国の工場を通常の稼働に戻しており、生産量を増やしています。市場の回復が鮮明になっているのは明らかです。グローバルな視点でいえば、製造業がいち早く立ち上がると見ています。

(出所)経済産業省 製造工業生産予測指数 20204月調査(2020430日発表)

DX関連に期待


──これからの有望セクター・ビジネスをどう捉えていますか。

小高
 表面的に需要の盛り上がりを見せているセクターは、「巣ごもり消費」「リモートワーク」(テレワーク)などでしょう。新型コロナウイルスの感染拡大による内食・中食需要の拡大を受けて、食品関係の充実化を図るスーパーが伸びています。

 リモートワーク関連では、ノートPCやタブレット端末の需要が旺盛で生産が追い付かないほどです。書類決裁業務などの効率化を劇的に推進する原動力にもなっています。


──
さまざまな面でデジタル管理による効率化が進みそうです。

小高
 紙書類・書面からデジタル管理に移行し、さらに、業務を革新するデジタルトランスフォーメーション(DX)がより一層進むことになるでしょう。コロナ禍を契機として、環境変化にいち早く対応した企業、既存業務を修正できた企業が成長すると見ています。企業の構造改革も進むはずです。


──
ビデオ会議なども急速にニーズが高まっています。

小高
 通信環境やセキュリティなどインフラの問題が浮上してきていますし、高速通信や高画質、手軽さという部分では進んでいますが、対面会議と比べて自然な雰囲気を醸し出せないという面で見劣りするのも事実です。この辺は、さらなる改良が加えられていくことになるでしょう。


──
「リモートワークは作業効率が悪い」という指摘もあります。

小高
 リモートワークでの働き方を工夫することが必要です。オフィスと比べ、家庭の仕事環境は最適とはいえません。どれだけ快適な環境を確保できるかが課題です。


──
有望分野とはいえ、問題もいろいろありますね。

小高
 組織としてリモートワークの人をどう管理するかも課題です。これも、業務管理の観点から最適な仕組みをビルドアップできる企業が登場してくると見ています。


──
DXは自然の流れですね。

小高
 企業にとっての喫緊の課題であり、多くの企業は取り組まざるを得ないといえます。その際、経営者のデジタル投資への理解力、社員が使いこなせるだけの組織力が求められることになります。デジタル化が進むとデータ処理に必要とされる機器の需要も拡大しますし、データセンターの記憶・処理装置に使われる半導体の需要も増加します。システムインテグレータなどITサービスも成長することになるでしょう。


 

インフラ整うゲームに追い風


──コロナ禍のなかでも成長分野は少なくないわけですね。

小高
 好調な分野はゲームです。ゲームは長年にわたりスマホ対応やダウンロード販売などのインフラが整備されてきたこともあり、現在は追い風が吹いています。中国の製造委託先での国内向けゲーム機の生産・出荷増も顕著です。


──
エンタメ系はどうでしょう?

小高
 映像配信や音楽、映画などエンタテインメント系は、自粛モードを背景にした巣ごもり消費の拡大を受けて新しい取り組みが始まっています。さらに自粛解除後は、その変化が加速していくのではないかと見ています。例えば、実際に集客してコンサートを開く一方、同時に映像を配信してリアルタイムで参加してもらうといったスタイルです。ライブでの臨場感を楽しむという従来型にとどまらず、より多くのファンに情報を伝えることができる映像配信を利用するなど、新たな可能性があります。


──
遠隔医療、オンライン医療も注目されています。

小高
 病院の待合室が高齢者のサロンになっていることは、以前から問題視されていました。それを効率化するうえでも、規制緩和による遠隔医療は進んでいくはずです。

 ただ、財産と生命に関する情報について、いかにセキュリティを保持しながらシステム・制度を作り込んでいくかは重要です。段階を踏んで丁寧に作り込まなければいけません。専門的な分野だけにプレーヤーも限定されると見ています。


──
ワクチン開発が注目されていますが、医薬品分野はどうでしょう?
 

小高
 医薬品は宝探しと一緒で、有望といわれても開発が頓挫して梯子を外されてしまうリスクが大きいことに注意する必要があります。人工呼吸器などの医療機器とは違うと考えてください。ただ創薬ベンチャーを数多く買収して成長しているメガファーマなどはチャレンジしてみてもいいかもしれません。

長期シナリオで成長の姿を描く


──個別銘柄の選定ポイントについて教えてください。
 
小高 リーマン・ショックを生き残った企業が成長しつづけていることからもわかるとおり、危機を乗り越えた企業はその後も力強く成長することができます。どれだけレジリエンス(弾力性、柔軟性)があるかです。現時点では、混乱期なので信用力が試されますが、過去の厳しい局面で柔軟に事業や組織を変化させ、ビジネスモデルを変えてきた企業かどうかが銘柄選定のポイントです。こうした視点で短期ではなく長期のシナリオを考え、描くことが欠かせません。アフターコロナ、ウィズコロナ下で、長く必要とされるビジネスかどうかを考えることが重要です。



──長期シナリオを描く際のポイントは何でしょうか。
小高
 「数年から10年後にその企業が成長し、株価が上昇していたら、世界がこうなっている」と想像できるかどうかです。

 例えばA社という電子部品製造会社があったとします。A社の電子部品が世のなかに広まり、2030年にはそれが時計からバッグに至るまで幅広く搭載されている。10年後にA社の電子部品ビジネスが成長すれば、世のなかはこういう風に変わっている。その実現のためにA社に投資をする、といった想像力を働かせるのです。もちろん将来のビッグカンパニーを見つけることは、実際には難しいでしょう。しかし、その企業の成長性を皆が知っていたら、株価はすでに上がっていて、今後の値上がりも限定的となります。「これだ」と思った企業があれば、自分なりに研究し、そのビジネスが3年後、10年後にはどのような姿に変貌しているのかを想像して投資するのです。


──企業の成長シナリオを描ける想像力が大事ということですね。

小高 長期投資ではシナリオをじっくり考えることが重要です。投資した企業の株価が下がったとしても、シナリオが崩れていないから安くなったと感じられるのか。逆に株価が上がったらシナリオ通りに成長し、そのシナリオの信憑性が高まり、追加投資をしてもかまわないと考えられるのか。すべてはシナリオ次第ということです。


──危機的状況にある今は、むしろシナリオづくりの好機ですね。

小高 アフターコロナ、ウィズコロナの世界に対応し、新たな需要を喚起しようという動きも盛り上がりつつあります。そうした企業を見極める目を養ってほしいと思います。(終)